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第27話 ランスロットとグィネヴィアの空席

「本当に俺で良いのか。同じ顔ならトリスタンも余っているぞ。」


 グィネヴィアが消沈した顔でやってきた。相変わらず美しい女だ。アーサー王伝説では誰からも愛される人物だ。その彼女が斡旋した騎士爵たちを引き連れてやってきた。彼らの瞳に燃える嫉妬の炎が見えるようだ。


「私はアルトゥスが良いのよ。貴方の前世が女性でも構わないわ。前々世がアルトゥスじゃない保証は無いでしょう?」


 不気味なところを突いてくる。だがその説には反論できる。異世界転生の際に神に聞いた条件の中に『清い身体』と不合理な死に方という条件があったのだ。あれを処女と言っていいのか良く解らないが男の人とエッチをしていないのは確かだ。


「聞いてなかったのか? 俺の前世は異世界の女の子だ。前々世が人間だとしても異世界の人間だ。悪行を積んだ人間は草にしか転生できないらしいぞ。お前のアルトゥスが聞いた通りの人間ならこの世界の草に転生しているんじゃなかな。」


「酷い。私も来世は草なの?」


 一応、悪いことをしている自覚はあるらしい。


「短い人生だ。後宮に閉じ込められるよりも新しい人生をやり直したほうが有意義だと思うぞ。」


「本当に私を抱かないつもりなの? こんなに若くて綺麗なのに。」


「自分で言うな。それに直ぐババアだ。容色は衰えるんだ。若いうちに良い男を捕まえておけばいいのに。」


 周囲の騎士爵たちの視線が痛いので、このあたりで止めておこう。


 問題は妻と子供を呼び寄せなきゃいけないことだ。


 モルゴースがどんな反応を示すか。モルドレッドがグィネヴィア会ったら惚れてしまうのかな。モルゴースが第1王妃でグィネヴィアが第2王妃か。間にパーシヴァルが入って欲しかったな。


     ☆


「誘拐だと!」


 即位して王宮の建物から民衆の前に顔を見せる。それで即位に関するイベントは全て終わるはずだった。妻と子供たちはブリタニア騎士爵領へ近衛師団を迎えに行かせたばかりで到着を待っている状況だ。


 アーサー王伝説では王妃グィネヴィアは『誘拐』されることが必然となっており、犯人はランスロットかモルドレッドだ。だが正式にグィネヴィアは王妃にもなっていないしモルドレッドは到着さえしていない。


 ランスロットは目の前で心配そうな顔をしているだけだ。


 俺が即位すると同時に後宮を追い出されたグィネヴィアはブリタニア伯爵邸に滞在しており、後宮に入る順番を待っていたのだ。


「いったい誰が・・・前ブリデン王を殺した反乱軍の残党か?」


 反乱があったのは12年も前のことだ。前ブリデン王が亡くなったことで反乱軍は自然解散したと聞く。確かに娘グィネヴィアを恨んでいる人間も居るだろうが12年も怒り続けていることはそうできないはずだ。


「生き残った警備担当者の話では即位の儀式に居たメルワス騎士爵の他数名だったそうです。」


「グィネヴィアの取り巻きか。奴らはグィネヴィアを王妃にしたかったんじゃなかったのか?」


 国を2分するとまで脅してこぎつけた結婚なのに反故にしてどうするつもりだ。初めから国を2分するのが目的だったのだろうか。


「他の騎士爵たちには動きが無いそうですので単独行動かと。」


 メルワスの要塞か。アーサー王伝説では1年掛けて攻略したとある有名な要塞である。


「よしわかった。グィネヴィアが働き掛け襲爵させた騎士爵たちを率いて取り返してこい。」


 だが今俺は動けない。今動いたら妻の機嫌を確実に損ねる。とにかく救出に時間が掛かっても構わないからモルゴースと2人で民衆の前に顔を見せるところまではやっておきたいのだ。


「兄貴・・・いえ、王はどうなさるつもりですか。」


 執務室には長机が並ぶ。結婚式場の披露宴会場のようだ。アーサー王伝説のように円卓にするつもりは無い。兄妹なのだ席次は年齢順で十分だ。


 そもそも初期のアーサー王伝説には円卓なんて出てこない。あれは中世英国王室とバックグラウンドであるキリスト教を準えて生み出された虚構なのだ。


「普段弟妹以外は同席させないつもりだから、今まで通りの呼び名を使えランスロット。メルワス攻略の準備が整い次第向う。本当は兄弟全員で民衆の前に出たかったな。」


 ランスロットとグィネヴィア抜きで民衆の前に顔を出すことになった。きっと、後世の人間からは不倫の噂が出るんだろうな。

アーサー王伝説のランスロットとグィネヴィアの不倫関係の発覚は

本来居るべき席に2人して居なかったからとか。


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