第18話 何故か戦う羽目になりました
「王位に内定したも同然のお主からランスロットを取り上げようとは思わぬし、イゾルテとトリスタンの結婚話も是非進めたいと思うのだ。」
なるほどそれで今まで一切話をしてこなかったというわけか。俺が王になればトリスタンは元よりイゾルテさんも不老の隠者枠に入ることになると見越してのことだろう。
「ちょっと待った!」
「なんだ。イゾルテ不服なのか? お前も何れトリスタンに勝てなくなると言っておったろうが。」
「私はその男が王位に相応しいとは到底思えない。物腰からすると剣術を知らないと見えまする。」
プロフェッショナルから見ると剣術を習ってないこともバレバレなんだ。
「全く剣術バカもほどほどにしておきなさい。戦いは戦術やマネージメントが全てだ。」
こっちにも戦争バカが居る。戦いでしか王として相応しいか計れないらしい。
「違いまする。1人の剣術家が王に迫り、王が逃げれば均衡が崩れます。」
「それでも大勢は変えられぬ。まあ良い。では戦ってみよ。見た目通りの男とは思えぬぞ。見立て通りならイゾルテが鍛えてやれ。」
いやいやいや。俺、了承してないですって。いつの間にか戦うことに決まっている。
「ちょっと待ってください。ご息女に怪我をさせるつもりですか。」
剣なら簡単に負けて終わりだろうが、俺の主要な武器は弓だ。寸止めはできない。脳裏に眼孔に矢が刺さった男が思い浮かぶ。あそこまでの怪我をさせるつもりは無いが少しでも怪我をさせれば禍根を残してしまう。トリスタンにも恨まれるのは避けたい。
「イゾルテが言い出したのだ。死んでも文句は言わぬ。約束する。イゾルテは相手を怪我させないように刃を潰した槍を使うのだぞ。」
「解っております。トリスタンに嫌われたくは無いですから。」
そういえば聞いてなかったがイゾルテさんもトリスタンを憎からず思っているようだ。
結局、明日辺境伯の騎士団の訓練所で一騎打ちを行うことになった。どうも昨日『1000歩譲って』などと言ったのを根に持たれていたようだ。口は災いの元だな。
「兄上。今の兄上の身体は上にアーサーの肉体を纏っているようなもの。多少の怪我では痛みも感じません。あの小生意気な女に一泡吹かせてやってください。」
マーリンが助言を入れてくる。俺はアーサーの肉体を纏っているのか。使いどころは接近戦になったときだな。
ルールは何でもありだという。剣術家とド素人。こちらはどんな卑怯な手段を使っても良いが、リゾル手さんは正々堂々勝たなくてはいけないらしい。
まずはこちらも刃を潰した短剣と肘に付ける盾を使う。
「両者始め!」
俺は回れ右をして訓練所の端まで走っていく。思った通り追ってこない。背中から切り掛かっては正々堂々とは言えないのだろう。
『箱』スキルから竜の剣を取り出し、矢を上下左右に向けて4連射する。目標は足だ。どちらに逃げても追尾するはずである。鏃は外してあるから威力は小さいと思うが怪我はするかもしれない。
「・・・・・・何よ。これ! どうして付いて来るのよ。」
イゾルテさんは1本目の矢を避けたが2本目3本目の矢を叩き落すと4本目の矢もクルっとバク転して避けた。身も軽いらしい。
こちらもただ見守っているわけではなく5本目、6本目の矢を射掛けるが片方の矢を叩き落しながら突進してくる。
俺は『箱』スキルから出したオリハルコン製の聖剣に持ち替えながら、マトモに受け止める。
「うそっ。ヒビが入った!」
まあ強度と威力が違うからな。
さらに『箱』スキルから刃を潰した短剣を出し持ち替えると追撃を加えていく。相手は槍だ。短剣のほうが圧倒的に手数が多い。十字の形の槍の先端が折れた。次にT字の右側が折れる。
銛に持ち替えて足に向って投げつけるとイゾルテさんは思わず槍で庇って、とうとう先端部分を全て破壊した。
再び刃を潰した短剣に持ち替える。
「如何ですか。降参しませんか?」
「まだまだっ。」
イゾルテさんは自棄なのか先端が壊れた槍を突き出してくる。
それを盾で受けようとするが壊れた先端が盾を突き破り腕に刺さる。血が噴き出しイゾルテさんの顔に掛かると突然動きが止まったので俺は後ろに回りこみ剣を首筋にあてた。
「それまで!」
審判から声が掛かり俺は剣を降ろして元の位置まで戻った。
「イゾルテ! イゾルテ。どうした!」
後ろを向くとイゾルテさんが崩れ落ちていた。おかしい。怪我はさせていないはずだ。
『鑑定』スキルをイゾルテさんに向って使うと『神経毒』状態になっていた。
「パーシヴァル。ちょっと来て。」
「お兄様。大丈夫ですか?」
「俺よりもイゾルテさんの顔に付いた血を拭ってあげてくれないか。」
『鑑定』スキルで良くみると血に神経毒が混じっていたのである。どうやら俺の血液の中にはワームの神経毒が混じっているようである。グレーアウトした『神経毒』はこのことだったんだ。
「何故です。お兄様のほうが酷い怪我なのに。あれっ。怪我なさいましたよね。塞がっている。」
マーリンが言ったように痛みは殆ど感じず、あっと言う間に塞がってしまった。
「まあいいから。」
俺は『箱』スキルから冷たいおしぼりを2つ出すと1つをパーシヴァルに手渡す。
「そうですか?」
もう1つのおしぼりで自分の腕に付いた血を拭っているとイゾルテさんが正気を取り戻したようだった。




