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第17話 逃げ道が無くなりました

「材料はこれくらいあれば、よろしいでしょうか?」


 早速翌朝に食材が届く。


「こんなにも。」


 届いた量に目をむく。この世界では家畜として鶏を飼うことは無い。卵は野鳥の巣から採ってくる貴重なもので、その栄養価に見合わない価格がついている。


 その卵が山盛りにあったのである。


 トンカツは人数より多めに揚げるつもりだったが、使うとしても2個か3個。こんなにも必要無い。たった1個でも水で薄めて使うつもりだったのである。


「小麦粉もこれくらいあれば。」


 小麦粉も大量に持ち込まれる。


「こ・・・この小麦粉は・・・。」


 量も多いが細かく挽かれている。これならばケーキも作れそうだ。


 ケーキ?


 卵もあることだし、ケーキを焼いてみようか。幸い『箱』スキルのなかには干した果物やジャムも入っている。女性ならケーキは大好きに違いない。辺境伯がいらっしゃる前に女性陣に取り入っておけば交渉の際にも何かアシストが入るかもしれない。


 そのためには美味しいもの甘いものはかかせない。前世でも良く使った手段だ。


 この世界に紅茶は無いがアフタヌーンティーのようにケーキとスコーンやシンプルなサンドイッチを用意してみようか。


「この卵と小麦粉、それから砂糖を使って他の料理に挑戦してみてもよろしいでしょうか?」


 さらに砂糖を見つけた。


「何か甘いものを作るんですの? それは楽しみですわ。」


 この世界で砂糖殆ど流通していない。貴重なものだ。甘味といえば蜂蜜が主流である。


 蜂蜜と果物の甘味だけでクラシカルなケーキを作るつもりだったが材料の中には食卓を彩るためのフルーツも沢山あるので、いっそのことタルトにしたほうが良いかもしれない。














「ブリタニア家の長男は料理人であったか。」


 何故かバン辺境伯を囲う食卓の前には俺の作った料理やケーキが並んだ。


 一斉に弟妹たちが剣呑な雰囲気を醸し出す。男の職業として確立されている料理人だが騎士としてバカにされたと思ったのだろう。


「ブリタニア家の指揮・指導者としては鞭よりも飴を与え続ける存在でありたいと思っています。何せ家は貧乏なのでこうやって自ら作った料理を振る舞うくらいしか出来ないのですよ。」


 こういうときはどれだけバカにされようとも受け流せばいいのだ。赤穂事件の浅野内匠頭のようにバカみたいにキレればブリタニア家は終わりだ。


「ああすまん。君たち、ブリタニア家の結束力の強さの源はこの男にあったのか。これだけの才能を見いだし采配を振るう能力があればこそなのだろうな。」


 すぐにフォローの言葉が入る。別に喧嘩をしたいわけではなさそうだ。


「いいえ弟妹たちの才能あってのことです。俺は凡才なれば凡才なりの道を歩んでいくしかないのですよ。でも時々は思いますよ。甘やかし過ぎなんじゃないかとね。でもそれが結束力を生んでいるのであれば、もっと甘やかすべきでしょう。」


 でも俺を褒められても困る。ただのモブキャラでしかないのだ。もし今後アーサー王伝説のような物語が始まるのであれば、ガウェインやガラハッドでなければならない。俺は前世知識から助言を与えるだけで良い。それもいずれ彼らが覚悟を決めれば必要になくなるかもしれない。


「すまんすまん。わしが肥れない体質のようでの。非凡な才能を持つお主に頼ったのであろう。こやつらは剣術家に生まれ料理の才能はなかったのだからな。」


 なるほど、目の前に居る辺境伯は噂の通り、痩せた男性だった。愛人に前でもっと肥りたいと愚痴を零したのだろう。
















「なるほど、これだけ甘いと太れそうだわい。」


 食事が終わり。デザートに移る。胃は丈夫のようでトンカツもケーキもペロリと入るとは恐れ入る。


「では明日、辺境伯の公邸にお邪魔して、翌日出発という予定なのですね。」


 食事中の話題は専ら王都への案内の日程に終始した。肝心のランスロットやご息女の話題には触れて来ない。


「まあ待ちなさい。それよりも竜の剣を見つけたというのは本当なんだな。」


「はい。お見せいたしましょうか?」


「それには及ばない。誰かが盗むといけないからな。」


 まるで誰かが盗む可能性があるかのような言い方だ。『箱』スキルの中に入っているから、俺を殺しても手に入らないけど。


「過去に何かあったのですか?」


「何故、そう思うんだね。」


「いえ。単なる思い付きです。」


「グランス家の長男。つまり前ブリデン王がブリタニア家の竜の剣を盗んだのでは無いかという疑いがあるんだよ。」


「そんなっ。」


「国庫に収められていたブリタニア家の竜の剣がレプリカと摩り替わっておったのだが、埃の積もり具合から見て100年は経過していることが解ったんだ。」


「つまり前ブリデン王が摩り替えた竜の剣を使って王位を簒奪したというわけですか?」


「そうだ。それが証拠に反乱軍の兵士が与えた僅かなキズが元で亡くなっている。本来ならクビを刎ねるか。竜の剣でしか殺せないはずなのだ。竜の剣の本物の持ち主では無いからこそ死んだというわけさ。」


 つまりガウェインやガラハッドに押し付ければ僅かなキズで死ぬ可能性があるということか。なんてことだ。


「随分と危険な賭けですね。ブリタニア家の次男が辞退せずに王位を賭けて一騎打ちとなればレプリカだとバレなくても死んでしまう。」


 ブリタニア伯爵家も次男が刺して本物だと証明しているのだ。長男は刺せなかったのだろう。ガウェインやガラハッドに刺せない可能性もある。騎士爵位を守るためには全員で試してみるしかないのだが・・・。


「辞退すると解っておったんじゃないかな。彼らは友人同士だったというからな。お主が見つけたという竜の剣が本物なら内定だ。その後、別の竜の剣を見つけた家の者が不壊の鞘を抜かないかぎりな。今度こそ辞退などさせないからな。心しておくように。」


 辞退という逃げ道まで塞がれてしまった。どうすればいいんだ。

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