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第14話 おのぼりさん

1日お休みしてしまい申し訳ありませんでした。

「へえ随分栄えているんだな。」


 森を抜けるとバン辺境伯領の街道沿いに出た。


「もしかして兄貴は来たことが無いのか?」


 ランスロットは意外そうな顔をする。


「初めてだな。ほら俺のとりえは実直で働き者というだけだし、騎士爵家の長男だから何処からもお呼びが掛からなかったからな。」


 もう死ぬまでこんなところに来ることは無いと思っていた。騎士爵領で一生を過ごす。そう思っていたのだ。


 竜を統べる・ペンドラゴン王の血流を受け継ぐ侯爵・子爵・伯爵・男爵に至る24家の誰かが即位していれば、アーサーを失うことも無かっただろうし、前世を思い出すことも無かったはずだ。その方が余程幸せだったかもしれない。


 ランスロットは20歳になるころには人を使うことに才能を発揮するようになり、スカウトされて5年間このバン辺境伯領でマネージメントを学んでいる。


 ガウェインは15歳には騎士としての才能を見出され、バン辺境伯の騎士団にスカウトされ、頭角を現し、5年後王廷警備隊にスカウトされた経歴を持っている。


 ガラハッドも10歳のときに、その物覚えの良さからバン辺境伯領の寺子屋の主にスカウトされ、20歳のとき見事王廷宮使の試験を突破したのだ。


 ボールスもケイもそしてトリスタンもバン辺境伯領在住の武術の師匠宅で修行し、騎士団にスカウトされ、ケイは今も所属している。


 ディナダンはバン辺境伯領の大店の主にスカウトされており、お得意様も結構居るという話だ。


 パーシヴァルもエレインもバン辺境伯領の騎士から求婚されているし、ユーウェインもこの辺りを縄張りにしている騎獣飼いの行商人宅で騎獣を子供のころから育てており、この辺りのどころか王都まで行ったこともあるはずだ。


 実は俺にも師匠は居る。猟師の師匠だ。弓の使い方や銛の使い方、肉や魚の捌き方は彼から習った。でも森の中が仕事場であり勉強の場だったので余り外の世界には出たことがなかったのだ。


「兄上は知識が豊富だし皆から好かれているし料理も上手だし良いところだらけだ。」


 皆が気まずそうな顔をする中、マーリンだけが褒めてくれる。最後の料理が一番力強く言っていたのには笑った。


「まあ皆が優秀で助かっているよ。俺は死ぬまで左団扇だな。」


 ガウェインやガラハッドが侯爵家を継ぐとは限らないが、将来子爵や伯爵も夢じゃないだろう。格の上の分家筋が無理なら本家筋を譲ってもいいし、彼らのコネを使えば王都で商売するのも容易いに違いない。


 食を制するものはなんとやらで、王都で大店に成り上がるのも夢じゃないかもしれない。


「王になれば不老だ。もっと良い生活もできるぞ。」


 マーリンから合いの手が入る。王になるメリットを散々聞かされたが他人の生活ばかりで本人の生活は良くなると思うが自分自身や兄妹たちが犠牲になるとしか思えない。しかも何時反乱されるかわからないんじゃ誰がヤル気になるというんだか。


「その代わり多忙な日々が待っているわけだ。俺は嫌だな。今のままがいい。」


 このまま無難に騎士爵家が続いて行けばいいと思っている。


「本気で言っているのか? 国が乱れ住民たちの生活が乱れ、多くの死者が出ているんだぞ。」


「ブリタニア騎士爵領は昔からそうだぞ。森に食糧が無くなれば魔獣が里に下りてくるなんてザラだ。折角の左団扇生活を捨てて、王になるメリットは何処にも無いと思うんが。」


「別嬪な若い奥さんも貰えるぞ。」


「前ブリデン王の娘か? 実年齢は100歳を越えているじゃないか。それに奥さんは1人居れば十分だ。沢山の弟妹や子供たちに囲まれて死ぬのが一番じゃないかな。」


 未だ彼女が生きているのは国内に前ブリデン王派の貴族が居るからなんだろう。それに彼女とだけは絶対に結婚したくない。唯一、前ブリデン王に意見を言える立場だったくせに諌めもせずに反乱軍に討たれるまで傍観し続けたのだ。


 モルゴースも十分に綺麗だ。少し年上で少し嫉妬深いくらい普通の女性だ。何も不満は無い。人の家庭に波風立てないで欲しいな。


「本当に欲が無いな兄上は。」


「そうか。欲だらけだぞ。何もせず無難に生きていければいい。マーリンのお陰でブリタニア騎士爵家も存続したも同然だし、竜の剣の担保に商売も始められる。アイデアだけ出せば弟妹たちに任せて左団扇。これ以上無いと思うがな。」


 前世知識だけで何もかも上手くいくとは思ってないが、アイデアだけ出せば才能溢れる弟妹たちが動いてくれる。失敗すればレベルが上がった猟師で少し稼げばいい。以前の何倍も効率良く稼げるに違いない。













「トリスタン。この辺りなのか? 師匠の家は。」


 今日の夜はトリスタンの師匠宅に泊まれることになっているのだがトリスタンの奴、迷っているようだ。


「そうなんだけど。久しぶりすぎて解らなくなった。ちょっとその辺を見てくる。」


 トリスタンが乗った騎馬を走らせて飛び出していく。


「おいおい大丈夫なのか。」


 しばらくそのまま進めていく。


「ぉーぃ。おーい。オイって呼んでいる。」


 若い女性が俺の肩を掴んで自分の方へ向けさせる。随分と乱暴な女性だ。


「どちらさんかな?」


 だけど見覚えが無い。折角、声を掛けてくれたんだ。訊ねてみればいいか。この辺りの方らしく普段着のようだから解るかもしれない。


「ごめんなさい。トリスタンと間違えちゃった。もうそろそろ来るはずなんだけど・・・。」


 相手は間違いを素直に認めて謝ってくれるがその言葉の中に意外な人物の名前を発見する。いや意外じゃないのか。若い女性に『鑑定』スキルを使うのは気が引けるがこの際だから仕方が無いだろう。


―――――――――――――――――――――

名前:イズー

種族:人族

職業:剣士Lv6

年齢:24歳

HP:6400

MP:100

称号:槍術師範

―――――――――――――――――――――


 意外にも師範の資格を持っているらしい。トリスタンが習う流派の娘さんという位置付けだろう。


「もしかして、槍術イズー流のお嬢さんですか?」


 今日泊めさせて頂くのは槍術イズー流のお宅だと聞いている。


「そう私イズーだけど。」


「申し遅れました。ブリタニア騎士爵家長男アルトゥスと申します。」


「ああ道理でソックリなわけだわ。今夜泊っていく方々ね。皆でザコ寝になってしまうけど、ごめんなさいね。」


 兄弟だから似ているがソックリだろうか。


 しかも親子ほど年齢が離れているのだ。そこまで似ていると思ったことは無かったがな。


「泊めて頂くだけでもありがたいと思っていますのでお気遣いなく。」


「もう夕食は食べてきているのよね。」


「いいえ。でも台所さえ貸して頂けるならば、こちらで作って勝手に食べますので。」


「兄上の料理は上手いんだぞ。今日はフィッシュアンドチップスだったよな。」


 途中、市場に寄ってパンと料理の材料は買い込んである。


「魚料理か。私もお相伴させて頂きたい。」

ようやくフィッシュアンドチップスの出番です。

イギリスでは美味しい料理で有名ですよね。


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