第13話 前ブリデン王との因縁があるようです
「やっぱりそうか。グリフレット。良くやった。」
グリフレットがバン辺境伯領で調べてきたことによると、前ブリデン王が即位する際に誰もエクスカリバーの復活を成し遂げなかったがグランス家の長男とブリタニア家の次男が竜の剣を不壊の鞘に刺せた。もう200年も前のことらしい。
「つまり当時のブリタニア伯爵家が身を引いたためグランス家の長男が即位した。だがそれを恩とは思わず、前ブリデン王がブリタニア伯爵家を没落させたというわけか。」
ブリタニア家が最も即位の可能性が高いと思われているということのようだ。
「しかもブリタニア伯爵家が所持していた竜の剣が国庫から紛失し、反乱軍によって使われたらしいんだよ。」
これってうちの人間が反乱軍に流したと思われているのだろうか。下手をすると前ブリデン王系の貴族たちに目の仇にされている恐れもある。もちろん前ブリデン王が悪政のため、反乱軍に加担した貴族たちも多い。だがタダの騎士爵家の味方になってくれそうなところは見当たらないのが問題だ。
やっぱりガウェインとガラハッドを連れて、さっさと行って帰ってくるのが無難そうである。
でもバン辺境伯領に寄りたいからランスロットを連れて行きたいし、アップルワインを宮廷で営業をするなら、『情』スキルを持つグリフレットや『話』スキルを持つディナダンも連れていきたい。
襲われたときに『盾』スキルを持つボールス、『腕』スキルを持つケイ、『槍』スキルを持つトリスタンと結局男性陣は全員連れて行かなくてはならないかもしれない。
女性陣も社交界で誼を結ぶために1人は連れていきたいがエレインだけ連れて行ったら、あとの2人が拗ねそう。パーシヴァルなんか力ずくで付いて来そうだ。
結局は兄妹全員参加だな。あとは俺の息子のモルドレッドは俺が死んだときのため、後継者として残しておくことになりそうだ。何れアップルワインの取引の際にでも連れていくことにする。
「では行ってくるよ。後のことは頼んだぞモルドレッド。・・・なんだ言いたいことがあるのなら、言ってみろ。」
結局、マーリンを含む兄妹全員での出発となってしまった。前回と違うのはエレインがマーリンと仲良くなったことだ。浮気でもして幽閉されなきゃいいけど。
モルドレッドが何か思いつめた顔をしているので、傍に寄り抱き締める。
「僕も行きたい。」
やっぱりだ。でも連れて行けない。俺が残ってモルドレッドが行くという手段も考えたのだが、兄妹と本人の反対に合い断念した。
アップルワインの製法はしっかりと叩き込んである。一子相伝というわけでもないが、簡単に真似できてしまう技術なので細かい温度管理とかはランスロットとモルドレッドにしか伝えていない。
「その件は何度も説明したじゃないか。納得してくれていなかったのか?」
気持ちを伝え合い説明を尽くしたつもりだった。でも足らなかったようだ。
「ううん。我儘を言ってみただけ。ごめんね。」
「いや俺こそすまない。すぐに戻ってくる。」
「ご武運を、吉報をお待ち申し上げております。」
我が妻モルゴースが顔を見せる。王になって帰って来いというつもりのようだ。
「うむ。モルゴース。そして父さん、母さん。行ってまいります。」
アーサー王伝説ではロット王の妻だったモルゴースが俺の妻で、アーサー王に反乱を起こしたモルドレッドが息子か。少なくとも後ろから刺されることはなさそうだ。
「ああ気をつけてな。」
「皆、身体にも気をつけてね。絶対に怪我なんかしてはダメだからね。」
最愛の息子アーサーを亡くし、随分と痩せた母が心配そうな顔をみせる。
まずは通り道であるバン辺境伯領に立ち寄る。バン辺境伯家は少しは血が混じっているかもしれないがペンドラゴン王の血脈という位置付けでも無いし、反乱軍に参加したわけでもない中立的な位置にいる。
それにこの辺り一帯の騎士爵の寄り親的立場になっているので、辺境伯自身が宮廷へ同行してくれることになっている。
寄り親とは主従関係のようなものだ。この国は一人一人の貴族が国に忠誠を誓っていて、たとえ侯爵家といえど直接下級貴族を任命できないのだ。だがそれではいろいろと支障があるため、仮の主従関係を結び、寄り親は仕事を用意し代金を払い、寄り子は労働を提供したりする。
エクスカリバーの復活の挑戦権もバン辺境伯から伝えられたし、宮廷に上京するための資金もバン辺境伯を通じて渡される予定だ。何割かは辺境伯の懐に入るのだろう。
「今日の夕食は何だい?」
欠食児童のようにマーリンが火も暮れていないうちから、夕食の内容を聞いてくる。
「スコーンとジャムとクロテッドクリームだ。残念ながら生クリームは用意してあげられない。」
マーリンは生クリームが大好きなのだが、日持ちしない生クリームが『箱』スキルから出したら、流石に疑われてしまう。
「肉は無いのか?」
これでは本当に欠食児童だ。
「朝食分のベーコンならあるが、明日の朝にマーリンだけ無くても良いのなら出すが?」
「むう。嫌だ。皆と同じがいい。」
アーサー王伝説の時代スコーンは再現できても紅茶が再現できない。
大量の茶葉が英国に入ってくるのは阿片戦争前だと思われる。
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