あるサンタの話(side B)
「よしよし、お待たせ。」
そう言って、現代の街中にはまずいないであろう大きさのトナカイを撫でる。
彼女は、サンタ。
聖夜にプレゼントを振りまく、伝説の人物だ。
「誰にも見られなかった?……そう、ならいいわ。」
一通り撫で終えたあと、手早く荷物を抱え直す。
まだまだ、聖夜は始まったばかりなのだ。
彼女の持っている袋にもいくばかの包みがまだ残っていた。
「あ、こら!……もう。」
お返し、とばかりに舐めて来るトナカイを制し、その背にまたがる。
一見珍妙にも見えるが、トナカイの背はどんな毛布よりも暖かく、彼女の体が冷えることはない。
また彼女自身もソリを嫌っており、それに合わせるかのようにトナカイもソリを引くことを嫌がったのだ。
その不思議な縁に、一人と一匹は惹かれあった。
「よし、行くわよ!」
静かに、けれどはっきりとした声で号令をかけると、トナカイは背のご主人ごと空へ舞い上がる。
鈴の音はない。
されど、トナカイと共に空を舞い、プレゼントを配る彼女は紛れもないサンタだった。
◇◆◇◆◇◆
私は、田舎に住んでいた。
といっても、そんな気がするだけで実際は違うかもしれない。
要はよく覚えていないのだ。
時々夢に見る、畑や家。
それから笑いかけてくれるのは、両親、だろうか。
そんな景色をいつも思い描いては、いまひとつはっきりと思い出せないことにモヤモヤしていた。
それでも。
そんな私でもはっきりと覚えていることがある。
ある年の、クリスマスの日。
私はサンタに手紙を書いたのだ。
『自分もサンタになって子供にプレゼントを贈りたい』と。
それはとても小さなきっかけだった。
近くに住むともだちには、一切サンタが来なかったのだ。
私にはそれが悲しかった。
『どうしてふたりのところにはサンタさんがこないの?』
なんども親に言って困らせたりもした。
それほど、二人はいい子だと思っていたから。
サンタがたまたま来れなかっただけだと、言われてしまった。
だから。
『だからわたしがさんたさんになってふたりにもぷれぜんとをくばりたいです。』
手紙に書いた。
そして私はついにサンタになった。
それだけでも奇跡だったのに、実はもう一つだけ、その日には奇跡が起こっていた。
私が手紙を書いたその年。
そしてそれ以降も、二人の枕元にはしっかりとプレゼントの箱が置いてあったという。
「ふふ……。」
嬉しかった。
自分の願いが叶った瞬間だった。
そして今は自分がその役目を負っている。
誰かの願いを叶えて、喜んでもらう。
あの時私が感じた嬉しさを、ほかの人にも味わってもらえる。
心の奥がポカポカとして、あったかくて。
優しくなれるそんな気持ちを。
「ありがとう、サンタさん。」
顔を見たこともない、名前も知らない、私の憧れ。
そんなサンタに憧れて私もサンタになった。
いつか会えるかも、と少しの期待をしながら。
「ん?これは……。」
さっき家を出る時。
私、というよりもサンタ宛に手紙が置いてあったので、もらって来た物だ。
その手紙を開く。
最初の一言はやっぱり。
『さんたさん、ありがとう!!』
私の心の奥はさらにポカポカとしていった。
こんばんは、Whoです。
少し前にkittaさんに描いてもらったイラストを元にお話を作らせてもらいました。
kittaさん、ありがとうございます。
また機会があればぜひお願いします。
そしてそして、もう一つ「side A」も投稿してますので、そちらもよかったらどうぞ。