叙述トリック
始まり始まり
「ねえ、先輩?」
「なんだ?後輩」
「昨日ミステリー小説を読んでいたんですけど、思ったことがあるんですよ」
「おお、お前そう言うものもちゃんと読むのか」
「当たり前のことを言わないでくださいよ、私を何だと思っているんですか?」
「だってお前官能小説やらエロ漫画やらをカバーもかけずに堂々と読みふけっているじゃないか」
「隠す意味が分かりませんし、それにそれを読むのは先輩の前だけですよ」
「顔を赤くしているところ悪いがそれには悪意しか感じない」
「今、割と覚悟決めて言ったんですけど」
「それで特別扱いしているというつもりなら一度お前を殴ってみてもいいか?」
「私、女の子なんですけど」
「大丈夫。お前の中身はおっさん以下だから」
「酷い。お父さん以下なんて!」
「……お前、そこで父親を出してくるのはどうかと思うぞ」
「だって、私がリビングでエロ本読んでたら怒ってくるんですよ」
「お前の父親の気持ちが僕にはよく分かるよ」
「うわ、おじさん」
「泣かすぞ」
「というか話がどんどん離れて行ってます。話を戻しましょう」
「まあ、今回はまともそうだからいいや」
「叙述トリックってあるじゃないですか」
「ああ、性別を誤解させたり語り部が実は犯人だったってやつか」
「私が読んだのは男だと思わせていながら女だったんですが。今度、貸しましょうか?」
「先にネタバレしてそれを言うのはどうかと思うぞ」
「まあ、思ったんですよ」
「なんだ?」
「僕っ娘じゃん!って」
「そんな風に飛んでいくとは思わなかった」
「もうずっと僕、僕って言ってるんですよ。なんか萌えました」
「そんな風にミステリーを見るやつを僕は初めて見た」
「僕の胸に男のナイフが刺さったなんて書いてあった時にはもう鼻血ものですよ」
「そのまま死んでしまえ」
「物騒ですね、はっ!」
「思いついたような顔をしてどうした」
「もしかしたら先輩が僕っ娘ということも」
「ねえよ」
おしまい