第5話 歴史的会談 その1
歴史的会談その1
イザベルは困っていた。予想はしていたが大陸共通語が全然通じない。かといって皇国の古代語などで話しかけても
まったくわからないであろう。向こうもいろいろな言語で話しかけてきているようだが、当然理解の他である。
そして、困っているのは日本側も同様であった。
「やっぱり、、、、言葉通じませんねえ、、、、」と斉木がポツリとつぶやいた。
「とにかく、英語でもドイツ語でもフランス語でも、スワヒリ語でもいいから話かけてみろ。どれか引っかかるかもしれんぞ」
と吾妻が指示を出す。そしてそれはそのまま、現場の隊員に伝えられた。
「スワヒリ語なんてわかんないっすよー」
矢面に立たされた隊員はすでに涙目だった。しかし上司の指示には逆らえない。すまじきものは宮仕えなのである。
もう警察やめて田舎に帰ろうかとネガティブモードに入った隊員に、救いの手が差し伸べられた。少女騎士が日本語で
語りかけてきたのである。
「あーもしもし、私の言っていることがわかるかな?」
「え、日本語わかるの。だったら早く話してくださいよー」
「いや、これは心話法を発動させている。今私と意思疎通できるのは貴殿だけだ」
「もしかして、魔法、、、、、」
こうして、かくかくしかじかとイザベルが説明した内容は、そのまま首相官邸に伝えられた。
「ルーク皇国って、、、、この世界に存在するか?」
「いいえ、聞いたこともないです。歴史をさかのぼればあるかもしれませんが、、、、、」
「向こうは責任者との対話を求めているのか、、、、よし、オレが直接話そう」と吾妻が決断した。
熟慮はするが、決断は早いのが吾妻の性格である。早速、官邸への迎えの車を出すことにした。
「ところで、お姫さまの方はいいけど、あのドラゴンどこに置いてもらいますか?」
「「「「「あっ、、、、」」」」」
所変わって国会議事堂の正門前、迎えの車がくることを説明し、ドラゴンの置き場所についてイザベルに相談する機動隊員。
上司からのプレッシャーに苛まされた彼は内心、この任務終わったら絶対有給休暇とって伊香保温泉でまったりしてやると
考えていた。
「この国の行政を司る長が会ってくれるのか。それはありがたい。ああそれからヴィドの方は心配ないぞ、ヴィド、ちょっと
人型になってくれ」
「うむ、わかった」
そして、白く輝きだすドラゴン。
「「「「「えっ」」」」」
光が消えた時、そこにいたのは軍服姿の超イケメンな青年だった。
「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ」」」」」
この瞬間、世界中がポカーンとなった。
「おーい、どうした。魂がどっかに飛んでるぞー」
人型になったヴィドが、口を開けたまま固まっている機動隊員の前で手を振る。はっと我に返る隊員。
「え、人間になるだけじゃなくて話せるの?」
「む、何を言うか。高位のドラゴンは人型になれるし、人語を解することもできる。そんなの常識ではないか」
「もしかしてこの国にはドラゴンは存在しないのか? 何とも不思議なところではあるな」
不思議なのはおめーらの方だよ、という言葉を鋼の意志でもってかろうじて飲み込んだ隊員。彼は次の休暇は温泉ではなく、
ハワイにいってやろうと決心した。この疲れきった体と心をワイキキビーチで癒してやるんだ。
そして迎えの車が到着し2人が乗り込むと、緊張の糸が切れた彼はその場に崩れ落ちた。ネット上では上司の無茶振りに耐え、
初の異世界人との対話を成功させた彼に賞賛の声が上がったのである。乙ww
そんなこともつゆ知らず、イザベルとヴィドは首相官邸に到着、いよいよ日本国首相との歴史的な会談に臨むことになる。
「イザベルよ、わかっているだろうが我らの命運はこの会談にかかっている。くれぐれも妙なことをするなよ」
「はっはっは、何を言うかヴィド。こう見えても私は皇女だぞ。国と国との付き合い方くらい心得ておるわ」
「そうか、、、、、」
どことなーく、不安がぬぐえないヴィドであった。
さて、この時よりほんの少し進んだ未来、件の異世界人との初接触を果たした機動隊員は、上司に有給休暇の申請を出しに行った。
「はあ、何言ってんだお前、この後東京マラソンはじめイベントの警備が目白押しなんだぞ。そんな長い休暇認められるかあぁぁぁぁっ!」
彼はその場で泣き崩れた。本当にすまじきものは宮仕え、なのである。
ハワイはいいですねー。
自分もあちらへ移住して、海を望むバルコニーでビーチ・ボーイズでも聴きながら
日がな一日まったりできる身分になりたいものです。




