第4話 ファーストコンタクト その3
空ではない、上下左右も不明確な空間の中をイザベルとヴィドローネは漂っていた。
「うーむ、、、、どうやらさっきの空の裂け目からか? 妙なとこに入ってしまったようだな」
「イザベルよ、どうするか?」
「まあ、マナが尽きるまではせいぜいあがいてやるさ。皇国竜騎士は最後まで諦めんのがモットーだ」
更にしばし漂っていると前方に光が見えてきた。
「よし、ヴィドよあそこに向かおう。運が良ければ皇国に戻れるぞ」
そして、彼女らはその光に向けて飛び込んだ。それを抜けた先には・・・・・・
「どわっ、なんだこのバカでかい塔は。危うくぶつかるとこだったぞ」
あらためて態勢を立て直して観察すると、それは天にも届くかのような巨大な塔であった。さらによく見ると、
眼下にはこれまで見たことがないほどの規模の都市が広がっていた。建物がまるで地平線の彼方まで、
無限に続くかのような光景に、2人はしばし目を奪われる。
「これはすごいな、、、、皇都どころかグラン西方帝国の帝都をもはるかに上回る規模だぞ。この国はよほどの
大国のようだな」
建物のはるか先には、まさに八面玲瓏という言葉がふさわしい山がそびえたっていた。これがこの国を象徴する
富士山という山であることを、まだイザベルたちは知らない。
「ところでイザベルよ、気づいたか? この場所には、、、、」
「ああ、マナが存在しないな」
フェアリーアイズでは無限に存在するマナ、だがそれがない場所では竜騎士は本来の力を発揮することができない。
体内のマナである程度はカバーできるが、それが切れたらもう飛ぶこともできなくなる。
それまでにここがどこなのか見極め、できれば責任ある立場の者と話をしたい。
2人はこの巨大都市-東京の観察を始めたのであった。
「まずはこの塔の中、人が大勢いるぞ。見張り塔か何かか?」
「こんだけ高けりゃ相当遠くまで見えるだろうが、、、中にいるの兵士ではないようだな、、、、」
更に高度を下げてみる。下にいる者たちもこちらを見上げて何か言っているようだ。道路には馬車のようなものがたくさん
走り回っているが、馬はついていない。もちろん原理は不明だが魔導技術のようなものではないかと見当をつけた。
「む、ヴィドよあのウネウネとくねっているのは大蛇か?」 眼下に見えたのは山手線の電車である。
「いや、馬車を連ねたような感じがするぞ。あ、とまったら中から人が出てきたな」
「なるほど、これだけの人や物資を運ぶとなると、ああいう交通手段が必要になるわけか、、、、、」
家族からパープー呼ばわりされるイザベルだが、決して馬鹿なわけではなく頭の回転は早い方だ。短い時間で彼女は
この都市が高度な技術力によって支えられていることを理解した。ただちょっとだけやらかしてしまうことがあるため、
パープーとかスカポンタンとか言われてしまうのである。
都市の観察を続けていたイザベルたちだが、何かを叩きつけるような音が近づいているのに気が付いた。それは3騎の
ドラゴンでもワイバーンでもない、彼女らから見るとまさに異形の飛行物体、だがイザベルは戦士の本能で、それが
戦うためのモノだと理解した。
「ほう、この国の竜騎士か、、、」
「向こうから見ればこっちは侵入者だからな。どうするイザベル、魔信をつなげてみるか」
「ああ、まずは話をしてみるか。まあ攻撃されたら倍返しだがな」
「おいおい、まだ相手の力も分からぬうちに、物騒なマネはよしてくれよ」
魔信を試してみるが、当然つながらない。そうこうしているうちにイザベルの中でちょっとしたイタズラ心が芽生えてきた。
「ヴィドよ、この国の竜騎士の力、ちょっと試してみないか?」
ヴィドは「はあ」とため息をつき
「お前なあ、まだ正体もわからん相手刺激してどうすんだよ。もうちょっと穏やかにはできんのか!」
「まあまあ、ちょっと動いてみるだけだからさ。攻撃魔法は使わんから」
こうなったイザベルはなかなか言うことを聞いてくれない。再びため息をついたヴィドは、「じゃあ本当にちょっと加速して
後ろにつけるだけだかんな」と動いてみたのだが、一瞬騎列を乱した異国の竜騎士はすぐ態勢を立て直し、再びイザベルたちに
ピタリとついてきた。
「はっはっは、異国の竜騎士もなかなかやるではないか。ホラズムとは全然違うぞ」
「おいイザベル、あいつらめちゃくちゃ練度高けーじゃねえか! 攻撃されたらと思うと寿命が縮まったぞ!」
「すまんすまん、ところであの建物、なんか王宮っぽくないか?」
「うむ、前の道路は広いな。あそこに降りてみるか」
そして、イザベルは異国の竜騎士に見えるよう下に降りるゼスチャーをし、ゆっくりと降下を始めた。
「ほう、さすが王宮を守る騎士達だ。一分の隙もないな」
国会議事堂の正門前に降り立ったイザベルは、前方に展開する機動隊を見て感心した。とにかく話をしなければ
前に進まない。ゆっくりと正門に向けて歩を進める。ふと右側の建物から潜んでいる兵士の”気”を感じて振り向く彼女、
幾多の戦場を潜り抜け、武の才能に溢れた戦士の感は鋭敏なのである。
半分ほど近づいたところで前方の騎士から声がかかる。
「$#&」
理解はできないが、そのゼスチャーからここで止まれということなのだろう。その場所でイザベルは兜を脱いで素顔を
あらわにし、名乗りを上げた。
「我はルーク皇国皇女にして、皇国竜騎士団副団長イザベル・フォン・デルバーグと申すもの。この都市の責任ある
立場の者と.の会談を所望する」
さきほど声をかけた騎士が、困ったような顔をしていた。