第47話 さらば熱き夏の日々よ・・・・
F市駅で集合したイザベル、綾香とティワナ、そして彩絵の4人は、新宿へ向かう電車の中でガタゴトと
揺られていた。
「・・・・・お姉さま、さっき綾香さんから瘴気が出ていたのですが、あれは伝説の邪神と、、、、、」
「ティワナ、それは気のせいだ」
「でも、確かに・・・・」
「私が気のせいだと言ったら気のせいなのだ」
「はい、お姉さま・・・・・」
ティワナの疑問を、イザベルは強い口調でさえぎった。世の中には触れない方が良いこともあるのだ。
「ティワナよ、この国のことわざを一つ教えてやろう。”さわらぬ神に祟りなし”だ」
「はい、お姉さま・・・・・」
やがて一行を乗せた電車は新宿に到着、山手線に乗り換えて原宿に下車した。都内では珍しい木造
の駅舎であるが、間もなく建て替えが始まるそうだ。駅前は夏休みということもあり、10代とおぼしき
観光客であふれかえっている。
「まずはここで優良、、、いやティワナの服をみつくろうか」
「お姉さま、今別の言葉言いかけませんでしたか?」
「ティワナ、それは気のせいだ」
再びティワナの疑問をさえぎったイザベル、さすがにマズいと思ったのか、店内ではティワナにいろいろ
な服を勧めていた。
「ティワナ、これなんかそなたに似合うのではないか」
「うう~お姉さま、これはちょっと足出過ぎですう、、、、、」
「ティワナちゃん、じゃあこれなんかどう?」
「綾香さん、これなら何とか・・・・・」
ティワナにはまだ、肌を出しすぎな服には抵抗感があるようだった。結局綾香お勧めの服を購入して
着替えてみると、完璧なKawaii少女の出来上がりだ。周囲の客も”キャーカワイイ”などと声を上げて
いる。今までそんなことは言われなかったティワナは、恥ずかしそうにうつむいていた。
「ティワナよ、そなたもやはりこちらの服は似合うな。まるでモデルみたいだぞ」
「・・・・・お姉さま、ちょっとよろしいですか?」
次の目的地、渋谷に向かう前にカフェで昼食をとっていると、ティワナがイザベルに前々から思っている
疑問をぶつけてきた。イザベルもそれを察し、綾香と彩絵から少し距離を置いたのだ。
「お姉さま、失礼なことを言わせていただきますけど、皇国におられた頃のお姉さまは、今のように世間
の享楽にふけるようなことはなされませんでした。ふやけたこの国に浸かっている内に、竜騎士としての
矜持をお忘れになられたのではないですか」
ティワナの疑問に少しの間考えるイザベル、そしてこう答えた。
「ティワナよ、そなたにはこの国が本当にふやけていると見えるのか。そんな国ならこれほど文明は
発展しておらんぞ。日本は平和だ。それを皆享受しておるだけだ。そなたもこの世界では、まだまだ
戦争で人々が苦しんでいる所が多いことは理解しておるだろう。日本も昔はそうであった。だから、
日本の民たちはその苦しみを子や孫に味あわせまいと、必死で働いたのだ。私やティワナが日本に
やってきたのは幸運であったぞ。なにしろこれから青春というものを、楽しめる時間があるのだからな」
「そうですか、、、、お姉さまがそうおっしゃるのならば、私はもう何も言いません・・・・・」
昼食後、一行は渋谷へと移動した。ここでイザベルと綾香は周囲をキョロキョロとし始める。リア充を
目指すべく優良物件の探索モードに入ったのであった。
「ねえねえ、そこの可愛い彼女、ヒマならボクとお話ししない?」
「え、私ですか、、、あの・・・・」
生まれて初めてのナンパに戸惑うティワナ、だが、声をかけた男性の両肩を、裏からがっしりとつかむ
者がいた・・・・・
「おにいさーん、ここにも可愛い彼女いるわよお、どう、ちょっと私とお話ししない?」
ドス黒い瘴気を振りまく綾香であった。男性は”す、すいませーん”と謝りながら逃げていった。綾香は
”チッ、また逃げやがったか”と呟くと、再び探索モードに入っていく・・・・・
「ティワナよ、ここは食うか食われるかの戦場と思え。捕食者にならねば生き残れんぞ」
「そ、そうですか、、、でもみんなお二人のことを避けてるような・・・・・」
あまりにも捕食者すぎて、周囲が逃げているのだが、残念ながら彼女たちはまだそれに気がついて
いない。そんな一行を悟られないように観察している男性がいた。ロシア連邦保安庁、かの有名な
KGBの流れを組む組織のエージェントである。異世界の魔法についてはアメリカや中国だけでなく、
当然ロシアも関心を持っている。機会があれば他に先駆けてそれを手に入れたいと、虎視眈々と
狙っているのだった。
「これはカワイイお嬢さんですね。もしよろしければご一緒にお茶でもいかがですか」
「え、えっ、私ですか、、、でも・・・・」
そのエージェントはまずティワナに声をかけた。彼女はイザベルとは親しい関係にあるらしい。それを
きっかけにイザベルと接触しようと考えたのだ。
「ほうほう、カワイイお嬢さんならここにもおるぞ」
イザベルが彼の右肩をガシっとつかむ。向こうから来てくれて手間が省けたと思ったエージェントの彼、
だが、振り向いた彼は”ヒィ!”と小さな悲鳴を上げた。そう、イザベルはまるで獲物を狙う猛禽類のよう
な目をしていたのだ。これはヤバい、ヘタをすると食われると思った彼を更なる悲劇が襲う。
「あらあら、イケメンな外人のおにーさんじゃないの。ここにもカワイイお嬢さんいるわよお」
綾香が彼の左肩をガシっとつかむ。その顔は草食獣を狙う肉食獣のそれだ。生命の危機を感じた
エージェントは何とか逃げ出そうとするが、イザベルと綾香はせっかくの獲物を逃がすものかと、彼の
両肩を万力のようにつかんで離さない。
「ちょっと2人とも、そのお兄さん嫌がっているじゃないの。離してあげなさいよ。大体今日はティワナ
ちゃんのために来たんでしょ。自分のことばかり考えてちゃダメよ!」
彼の鎖骨がミシミシし始めた頃、救いの女神が現れた。彩絵が2人をたしなめてようやく解放された
のであった。彼は彩絵に感謝を述べて、そそくさと人混みの中へと消えていった・・・・・
「まあ、、、すまなかったなティワナ、そろそろF市に戻ってカラオケでも行くか」
「そうね、、、おかーさんにも連絡しとくわ・・・・・」
彩絵からお説教を食らったイザベルと綾香は、さすがに逆ナンをあきらめF市への帰途についたので
あった。2人の暑い夏は、こうして終わりを告げたのである・・・・・
F市に戻った一行は、馴染みのカラオケボックスへと繰り出した。イザベルの選曲は映画”追憶”の
テーマ曲、普段はアップテンポな曲を好む彼女だが、今日は静かに歌いたい気分のようだ。情感
たっぷりに歌う彼女を、ティワナは複雑な表情で眺めている。それに気づいた綾香が”ちょっと”と
手招きして、ボックスの外に出た。
「ティワナちゃん、イザベルのこと何か含むような顔で見てるよね。一体どうしたの?」
「皇国にいた頃のお姉さまとは、だいぶお変わりになられたようなので、ちょっと戸惑っています。
竜騎士としての矜持はお忘れになってしまわれたのかと・・・・・」
あまり綾香とは話したくはなかったティワナだったが、正直に自分の気持ちを打ち明けた。それを
聞いた綾香が逆にティワナに問いかける。
「ふーん、、、、向こうにいた頃のイザベルは知らないけど、でもティワナちゃん、竜騎士の矜持って
何だと思っているの?」
「それは常に気高く、凛々しく、世間の享楽に惑わされず、皇国の、そして民の守護者たることです」
「あのさあ、イザベルはあまり話したがらないけど、向こうって戦争中だったんでしょ。その時と同じ
ような態度をこの平和な日本でもとれって、なんか押しつけがましくない? 彼女だっておしゃれや
恋を楽しむ権利はあるはずよ。ティワナちゃん、それを否定するつもりなのかなあ」
綾香の言葉にティワナは詰まってしまう。それを見た綾香は苦笑しながら続ける。
「イザベルね、竜騎士の矜持とやらは忘れてないわよ。この間それを見たわ。知覧の特攻平和会館
でね。その時、今さらながらこの子は本当に”騎士”なんだなあ、とつくづく思ったわ」
綾香は知覧特攻平和会館で、イザベルが特攻隊員たちの遺影に騎士としての礼儀を尽くしたこと、
特攻隊生き残りの老人との会話などを、ティワナに話して聞かせた。
「・・・・・そうなのですか、特攻隊生き残りの方がお姉さまに、この国の平和を満喫して欲しいと、、、」
「自分もイザベルに言われて初めて、恵まれているんだなあと気づいたクチなんだけどね。彼女ね、
”平和な学生生活が、何よりもまぶしく見える”って言ってたわ。ティワナちゃん、ちょっと表面的な
とこばかり見すぎよね。もう少しイザベルの想いを理解してあげてね。まあ、逆ナンは自分でも少し
やりすぎたかな、と思っているけどさ」
「・・・・・はい」
ティワナは綾香の言葉に衝撃を受け、かろうじて返事のみを返した。長年一緒にいた自分よりも、
半年ばかりの付き合いの綾香の方が、イザベルの深い部分まで理解していたのかと。
「む、綾香にティワナよ、いつまで外にいるのだ。早く歌わんと門限の時刻になってしまうぞ」
最初おとなしめの曲を歌っていたイザベルであったが、だんだん興がのってきたのか、次は史上最高
のロック讃歌として名高い、”Rock And Roll Music”を選曲していた。
ご機嫌なリフに乗せて、イザベルは流暢な英語で歌いだす。
「はーい、今いくわよ、さ、ティワナちゃんも何か歌ってみる?」
綾香はティワナの肩をポンポンと軽く叩きながら、一緒にボックスの中へと入っていった。
”偉大な”という単語が陳腐に思えるほどの、粋でいなせなロックミュージシャンに乾杯!
そして、僕らにロックを授けてくれてありがとう。




