第2話 ファーストコンタクト その1
西暦201X年1月某日、日本国首都東京。
東京スカイツリー近辺は週末ということもあり、大勢の観光客で賑わっていた。少し離れた場所には東武電車と
スカイツリーが一緒に撮影できるスポットがあり、撮り鉄と呼ばれるマニアだけではなく、一般の観光客も思い思いに
カメラを向けている。
その中の一人が、突如起きた異変に気がついた。
「ねえ、なんか空の様子変じゃない?」
「うん、なんだろうあれ、、、、ちょっと、空割れてるよ!」
雲ひとつない冬の青空、その一部が突然歪んだと思うと、まるでガラスが割れたかのように開いたのであった。
そして、その中からこの世界では異形とも思える物体が飛び出してきた。
この現象は大勢の人に記録され、後に動画サイトでも繰り返し視聴されることになる。
その飛び出した物体の正体に最初に気づいたのは、スカイツリーの展望台にいた人たちである。
「おい、なんかデカイのが飛んでるぞ。鳥かあれ」
「あれって、まるでドラゴン、、、、」
「人が乗ってる! こっち見てるぞ」
「マジかよ。最近のCGは凝ってるから、映画かなんかの宣伝じゃねえの?」
何かの宣伝と思った人間がいたのも無理はない。それはファンタジーなどではおなじみの”竜騎士”そのもので
あったのだから。
異変から10数分後、近くの警察署はひっきりなしにかかってくる市民からの通報の対応に追われていた。
「いったい何なんだこれは! ドラゴンがスカイツリーの上飛んでるって」
「いたずらにしては多すぎるし、もう訳わかんないですよー、集団ヒステリーでも起きたんでしょうか」
「しかし交番からも正体不明の飛行物体の報告があります。何かが起きてるのは間違いありません」
そして、署長はじめ署員たちが外に確認に出た瞬間、それは目視できる近距離にいた。こちらを観察するようなそぶりを
見せたあと、また別方向に飛び去った。
自分の見たものが信じられず、茫然とする署員たち。しかし、いち早く我に返った署長が叫んだ。
「警邏中の全パトカーに連絡! 正体不明の飛行物体を監視しろ! 市民に危害を加えるようならかまわん、
発砲を許可する!」
異変から約30分後、首相官邸はてんやわんやの騒ぎになっていた、何しろ首都のど真ん中に突然謎の領空侵犯機が
現れたのである。
「こんな街中まで侵入されて、空自は何をやっているんだ。レーダーに妨害でも受けたのか」
いらつきながら話すのは日本国総理大臣である吾妻博史、48歳の若さで首相の座についた彼はそのダンディーで
苦み走った風貌から、妙齢の奥様方からの人気が高い。
「まあ、自分も映像見るまで、いや見た後でも信じられないくらいですから、、、これ、ヘリや飛行機じゃないですよね」
そう答えるのは斉木洋子官房長官、吾妻首相の懐刀とも言われ、女性初の首相との呼び声も高い切れ者だ。
「とにかく、市民の安全確保が最優先だ。名島防衛大臣、スクランブルはどうなってる」
「はい。未確認飛行物体通称”ドラゴン”の速度が時速100km以下と遅いため、陸上自衛隊の攻撃ヘリを向かわせて
おります。あと2分で到着予定です」
「大丈夫なのか。それ地上攻撃用だろ」
「ヘリにも自衛用の空対空ミサイルを搭載していますから。昔のプロペラ戦闘機程度の相手なら十分対抗できますよ。
それに、念のためF-15戦闘機も上空に待機しています」
同時刻、東京都F市のとある住宅地、ここは新宿から私鉄で小一時間のところに位置しており、東京のベッドタウンとして
発展してきた街である。
その中の閑静な住宅街にある一軒の家で、叫び声が響き渡った。
「アヤ姉、てーへんだ! てーへんだあぁぁぁ!」
「うっさいわねサトシ、こっちは宿題かたすので忙しいんだから、邪魔しないでよ!」
まるで下っ引のような叫び声をあげたのは、この家の長男鈴木聡14歳、中二なお年頃である。
それに答えたのは鈴木綾香17歳、花も恥じらうお年頃である。
ちなみにこの時日本各地、いや世界各地で似たようなやり取りがあったりしている。
「とにかくテレビのニュースみてよ。本当にすげーこと起きてっから!」
「もう、しょーもないことだったらタダじゃすまないからね」
ブツブツ言いながら1Fの居間に降りていくと、綾香の両親たちもテレビに釘付けとなっていた。
『東京上空に突如現れた飛行物体、通称”ドラゴン”は都内を旋回しています。警視庁より市民の皆様には不要な
外出を控えるように、との通達が出ています。もしもの場合は警察の指示に従うようにと・・・・・』
「なに、、、、、これ、映画かなんか?」
「ちがうよ、他の局もこのニュースでもちきりだよ!」
チャンネルを変えてみたが、他の局も特別報道番組に切り替わっていた。ただしテ○東のみは通常番組にテロップを
流す対応となっていた。このブレなさはもはや神の域である。
『政府から発表です。間もなく陸上自衛隊のヘリコプターが”ドラゴン”に接触をはかるとのことです。領空外への退去
もしくは着陸するよう指示を出すとのことです』
その時、鈴木家の電話が鳴った。母親の良枝が出て、それから父親の達夫に代わった。
「はい。非常呼集ですか。わかりました。すぐ署に向かいます」
達夫はF市警察署に勤務する警察官だ。その実直な勤務態度から周囲の信頼も厚い。綾香が不安そうな
表情で話かける。
「おとーさん、、、、、」
「心配するな。ここからはまだ距離があるし、自衛隊も出てきている。大丈夫だよ」
ポンっと綾香の頭に手を置くと、達夫は署に向かっていった。
テ〇東が特別番組を放送したら、それは世界が滅亡する時だ、と言われてますね。