第218話 牙を剥く者たち
『都内各地の桜も満開となりました。こちら王子の飛鳥山は大勢の花見客で賑わっています』
テレビからは、例年通り各地で花見を楽しむ様子が映し出されている。しかし、そんな世間の喧騒とは
真逆の、何やら悩める表情の女性が警視庁に存在した。先ほど三木から成宮への本当の気持ちを問い
ただされたイザベルである。
「どうしたの、そんな仏頂面しちゃって」
「つばさ先輩、実は・・・・」
イザベルは真野に三木から言われたことをかくかくしかじかと語った。
「うーん、、、なんていうか、あなた青春してるわねえ。まるでウブな中学生みたいよ」
「いや、そんなからかわないで欲しいのですが」
「でも本当に中高生が悩むようなことよ。まあ、他人の恋路にとやかく口出す気はないけど、一つだけ
言えることは自分の気持ちに正直にならないと、後で死ぬほど後悔するわよ~」
「そうですか・・・・」
「ところで話しは変わるけど、三木課長があなたの送別会を上野でやろう、て言ってるのよ」
まだ桜がある内に、非番の連中を集めて送別会兼大宴会を目論んでいるらしい。
「ちょうど、成宮君も非番の日にセッティングしてるからさ~、どう、満開の桜の下で愛を確かめ合う2人、
ロマンチックよね~」
「・・・・・・」
何やら妄想の彼方に行ってしまった真野に、閉口するイザベル、しかしこのなごやかな時間は次の凶報
で終わりを告げた。
「上野公園で爆発が発生! 一課のメンバーもすぐに集まるように!」
わらわらと集まる一課のメンバーたち、だが、更に凶報は続いた。
「次は靖国神社で爆発だと! これはテロじゃないか!」
「現場の状況はどうなってる!」
この後も各地の花見の名所で爆発騒ぎが続いた。警察も次々起こる事件になすすべもなかった。しかし、
それはまだほんの序の口に過ぎなかったのである。
『都内各地の桜の名所で、爆発が起きています。現場では多数の負傷者が出ている模様です』
「あらやだ、テロかしら」
「こんなに同時に爆発が起きることはないでしょうから、テロの可能性が強いのではと・・・・」
東京都F市、鈴木家の居間では良枝とラミリアが緊急ニュースを見て眉をひそめていた。だが、次の瞬間、
「ん、、、ラミちゃん、ちょっと伏せて!」
「え、良枝お母様どうしたのですか」
ラミリアが良枝に押え込まれた直後、銃声が聞こえガラス戸が割れて破片が飛び散った。
「銃撃を受けているわ! 絶対に頭上げないでね!」
「ええっ、一体なにが起きているんですか!」
2人は銃弾の嵐が過ぎ止むまで、ただ頭を伏せることしかできなかった。その同時刻、宝来軒では政界を
引退した吾妻がとりそばをすすりながらテレビの臨時ニュースにくぎ付けとなっていた。
「おいおい、同時多発テロかあ。斉木君たちは防げなかったのか」
吾妻は斉木に連絡をとろうとした時、突然店に乱入した男が吾妻に銃口を向けた。
「吾妻、タマもらったぜ!」
「ぐっ!」
乾いた銃声が鳴り響き、吾妻はその胸を押えながら崩れ落ちる。
「吾妻殿に、何するのじゃー!」
「ちっ、ガキがテメエも死にたいか」
手伝いをしていたニールが男に向かうが、大人には勝てない。蹴り倒されて銃口を向けられる。
「この慮外者が! 何狼藉を働いておるのだ!」
「があっ!」
ようやく騒ぎに気づいたドラコが男の拳銃を蹴り落とし、首に手刀を当て取り押えた。
「魔王様、これは一体!」
「イリスか、吾妻殿が撃たれた! 警察と救急車を呼んでくれ!」
これが一連の事件で容疑者が確保された、最初の事例となったのである。
「なっ! 実家が銃撃を受けたと、それで皆は無事なのですか!」
「イザベル落ち着いて、今F市警察署から連絡がきたから」
良枝とラミリアはガラスの破片で軽傷を負った程度だが、2階にいた聡が腕に銃弾を受け、現在病院に
搬送されたそうだ。更に吾妻は、、、
「吾妻殿は意識不明の重体と・・・・」
「今緊急手術中だそうよ。容体は楽観できない状態だと・・・・」
「吾妻殿を撃った犯人は確保されたそうですね。一体どこの組織がこんなテロを」
「ええ、確保されたのは佐々木会の若頭、小杉健一よ」
華美組を離脱した武闘派組織、佐々木会がとうとう日本社会に牙を剥いたのであった。