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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第20話 ドラゴン、桜まつりでデビューする


春爛漫な4月最初の週末、鈴木家の庭では長男の聡が桜の木に向かって何やら両手の

手のひらを向けていた。通りかかったイザベルが何をしているのかと不思議に思い、声を

かけると・・・・・・・・・


「あ、ベル姉、これは桜から発せられるマナを取り入れて、フォースを高めているんだよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


どうしよう、義理の弟の言っていることが理解できない。しかし、このまま放置してしまえば聡が

あのクラスの未だに夢見がちな男子どもと、同類になってしまう。それだけは姉として防がねば

ならない。イザベルは弟を正しい道に戻すべく、諭すように話しかけた。


「聡よ。桜どころかこの世界ではマナなぞひとかけらもないぞ。常にマナに触れてきた私だから

それはよくわかる。そなたも来年は高校受験だろう。いいかげんそんな妄想は捨て、現実を

見ろ。そんなことでは将来ロクな職業にもつけないぞ」


「くっ、そんなことはわかってる、わかってるけど、ちょっとだけ夢見たかったんだよぉぉぉぉ!」


義姉の容赦ない言葉に聡は崩れ落ちた。リアルorzな姿勢である。しかし、酷なようだが弟には

妄想から醒め正しい道を歩んでほしい。妄想を膨らませたまま大人になり、現実との区別がつかずに

犯罪に走ってしまうバカどものニュースを見るにつけ、イザベルはあえて聡に厳しく接しようと

思うのであった。


「イザベルー、そろそろ桜まつり出かけるよー、あれ、何してるの?」


「聡が訳のわからないことを言ってるのでな、来年は受験だししっかり現実を見ろ、と言って

いたのだ」


「わたしが言ってもなかなか聞かないからねー、、、、イザベルからも厳しく言ってね」


そうして、2人はまだ庭でorzな状態の聡を放置して、桜まつりへと繰り出していった。会場は

自宅から15分ほど歩いたところにある公園だ。会場には出店が並び、そこかしこに宴会で

盛り上がっているグループがいた。


「いやー去年よりもすごい人出だねー、ヴィドさん効果かな。あ、イベント会場はあそこだね」


そう、今年の桜まつりのメインイベントは、ヴィドローネがドラゴン姿で子供たちを乗せ、遊覧飛行を

することであった。事前に問い合わせが殺到したため希望者は抽選にしたのだが、宝くじ並みの

高倍率だったらしい。

グッズ売り場もしっかり開設されており、ドラゴンのぬいぐるみや携帯ストラップ、プリントTシャツ、

クリアファイルなどが陳列され、飛ぶような売れ行きであった。


『は~い、次は80番から90番までの方、ドラゴンさんに乗ってくださいね~』


1回あたり10人の子供たちを乗せて、ヴィドはだいたい5分間ほどの飛行を行っていた。魔法で

固定しているので転落の危険はない。子供たちもおおはしゃぎしている。

だが、その様子を見ていたイザベルは、どこか複雑な表情だ。休憩時間人型に戻ったヴィドに、

2人は会いに行った。


「おおっ、2人ともよく来てくれたな。桜まつりは楽しんでいるか。しかしイザベルよ、浮かぬ顔を

しているがどうしたのだ」


「ヴィドよ、そなたが今の状況に満足していることはよくわかる。だが、竜騎士として心のどこかで

納得できない自分がいるのだ・・・・・・・」


「前にも言ったが、我は戦場よりも子供たちに慕われる方がうれしいぞ。そなたも高校生活は

楽しかろう。それと同じことだ」


休憩時間が終わり、次のイベントのために担当者がヴィドを呼びにきた。


「主任、次は握手会です。スタンバイよろしくです」 「おう、わかった」


イザベルたちも握手会の様子を見に行った。こちらも事前に整理券を手に入れた者だけが

参加できるようになっていたのだが、それでもすごい行列となっていた。そして、そこに

並んでいたのは全て女性ばかりであった・・・・・・・・・


「きゃあ~ヴィドローネさん、ありがとうございますぅ!」


「うむ、我もうれしいぞ。グッズもよろしくな」


そう、人型になったヴィドはハリウッドスターも真っ青の超イケメンだ。握手だけでなくハグまで

する大サービスに、女性たちは黄色い声を上げる。


「ヴィドさん、モテモテだね・・・・・・」 「うん、モテモテだな・・・・・・」


ヴィドの知り合いらしき女性も、この握手会に参加していた。


「うふ、ヴィドさん、きちゃったあ~」


「お、ミカもきてくれたのか。ありがとうな」


「もう、最近すっかりお店の方ごぶさたなんだから、ユリやサヤカもさびしがってたわよ~」


「はっはっは、すまんすまん、最近このイベントの準備で忙しくてな。一息ついたら顔出しにいくよ」


「ほんとう! もう、出血大サービスしちゃうからね~」


どうやら、大人なお店にお勤めの知り合いらしい。イザベルと綾香は完全に死んだ目でその様子を

ながめていた。


「あら、この子たちはヴィドさんのお知り合い?」


「ああ、ちょっとした知り合いだ」


”魂の盟約”を結んだ相手に、この言い草である。


「綾香よ、私は今、聖剣”ガレル”でこの駄竜をぶった斬ってやりたい気分なのだが・・・・・・」


「イザベル、気持ちはわかるけどここは人目が多いわ。闇から闇に葬る手を考えましょう」


ちなみにこの握手会では、直筆サイン入りの人型ヴィドの生写真も配布された。これはふるさと

納税の返礼品にも採用され、F市への納税額は大幅にアップした。市役所はホクホク顔で

あったそうな。


今話のテーマは、世の中建前と本音があるということですw

ドラゴンはしっかり日本の大人のお遊びを満喫しております。

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