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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第204話 吾妻の引退


「2人とも、取り調べご苦労さんだったね」


「「・・・・・・・」」


高岡の取り調べを終えたイザベルと真野に、三木が労いの言葉をかけるも2人は無言だった。それだけ、

容疑者の言葉がイザベルはもちろん、すでに中堅どころになっている真野にも衝撃的であったのだ。


「イザベルちゃんはともかく、つばさちゃんまで静かだね」


「ええ、私も今回はちょっと、、、、」


「まさか、実の子の名前も言いたくない、という母親が存在するとは、、、、」


2人の話を聞いた三木は少し思案した後、イザベルと真野に話かける。


「でも、地球の歴史をひも解いてごらん。親子で殺し合ってることなんて、腐るほどあるよ。殺し合いまで

いかなくとも、”顔も見たくない”なんていがみ合ってる家族は多いからね~」


「そうですか・・・・・」


「ほら、最近も有名家具屋でそんなことがあったじゃない。これも人間の(さが)ってヤツかな」


”近親憎悪”という言葉通り、関係がこじれた時の修復は、不可能に近いのかもしれない。


”それに、彼女の本心はどうだかわからないけどね、、、、まあ墓場まで持っていく気だね・・・・”


三木は心の中でそう付け加える。まだ若いイザベルと真野には、そこまでの理解はできないだろう。


「ふむ、、、ところで、課長が私の尻に手を伸ばしているのも、人間の性ってヤツなのか」


「そ~ね~、、、、本当にコレぶち込まれたいのかしら」


イザベルはオリハルコンの聖剣”ガレル”を、真野がデザートイーグルを三木に向けて構える。


「だから! 落ち込んでいる部下を励ますためのスキンシップなんだってば!」


「うるさい! 今日こそその首はねてくれるわ!」


「今度は復活しないように、ミンチにしてやんからねっ!」


そう鬼ごっこを繰り広げる3人、周囲はそれを見て”またか”という反応だ。すっかり警視庁の名物と化して

いる。しかし、それは彼女たちの前に現れた人物により、終わりを告げた。


「3人とも、ここは小学校じゃないんだ。いい大人が何をやっているのかね」


「申し訳ございません! 沢岡警視総監殿!」


一見すると穏やかな初老の男性だが、その目は冷たく3人を見据えている。イザベル達も追いかけっこを

止めて、沢岡に敬礼を返した。


「それで、何でこんな騒ぎを起こしているのかね。まあ想像はつくが・・・・・」


「総監どの聞いてくださいよ~、、、、ボクは部下を励ましたつもりなのに、イザベルちゃんもつばさちゃんも

勘違いしちゃって~」


「貴様、この期に及んで何をぬかすか!」


三木は沢岡の後ろに隠れて、言い訳をほざいている。本当に如才ない男である。イザベルや真野も怒気

を強めるが、警視総監の手前歯をギリギリ言わせながら耐えていた。そんな様子を見ていた沢岡は、”ふう”

とため息をついた。


「真野君もイザベル君も気持ちはわかるが、ここは庁舎内だ。三木君には私からも注意をしておくから、

今日のところはこれで引いてもらえないか」


「はい、、、、わかりました」


総監にこう言われてはイザベルと真野も引くしかない。2人は渋々得物を下げた。


「へへ、では警視総監殿、わたくしめも仕事に戻り・・・・ぐぇっ!」


さりげなくばっくれようとした三木の首根っこを、沢岡はむんずと捕まえた。


「そ、総監殿何を・・・・」


「いや、三木君もずいぶん元気が有り余っているようだからねえ。今日は私も時間が空いているからな。

昔みたいに”稽古”をつけてやるぞ」


「そ、そんなあぁぁぁぁぁっっ!」


三木の絶叫が庁舎内に響き渡る。その顔はアンデッドのように真っ青だ。沢岡は、まだ三木がペーペー

だった時代の課長であった。当時は”鬼の一課長”と恐れられていたらしい。


「い、いや総監殿、せっかくですが仕事がありまして~」


「いえ、課長のお手をわずらわせるほどの仕事はありませんよ」


「総監殿が直々に稽古をつけてくれるとは。実に光栄なことではないか。うらやましいぞ」


「2人とも! ボクを売る気なのっ!」


いい笑顔のイザベルと真野に見送られながら、三木は沢岡に首根っこを掴まれたまま道場へと連行された。

その後、警視庁内では終日三木の悲鳴が、道場から聞こえてきたそうな・・・・・


「そうか、容疑者がそんなことをねえ、、、、」


「”きれいごと”か、確かに、まだまだ男のお堅い連中は多いですから、、、、政治の力不足を痛感して

しまいますね」


翌週の東京都F市、鈴木家の居間で吾妻と斉木がイザベルから先日の取り調べの状況を聞いて、ため息

をついていた。今日はルーク皇国との定例会議の日であった。


「この前も、どっかの医科大学で女性の受験者の点数を、勝手に減点していたとのニュースがあったな」


「あれは、日本がいかに不平等な国か世界に知らしめてしまったよ・・・・」


だいたい、”女性が輝く社会”なんてのたまっていること自体、日本が未だ男尊女卑の国でございます、

と宣伝しているようなものだ。”女性医師は産休が・・・”などという思考は20世紀どころか、19世紀頃の

価値観である。これでは少子化に歯止めどころか、ますます拍車がかかるであろう。


『うーむ、、、他の国のことに口ははさみたくはないが、貴国もそんな問題を抱えておるのか』


「私も日本に来た当初はここが伝説の理想郷かと思いましたが、いろいろなニュースを見聞きするにつれ、

人のいる限り問題は絶えぬものと理解いたしましたわ」


イザベルから虐待事件や不正入試の話を聞いたダリウスやラミリアも、そう感想を口にする。これらの事件

は一見何の関係もないようだが、根っこの部分ではつながっているのだ。


「お恥ずかしい話だが、自分の代では解決への道筋もつけられなかったよ。次の世代への課題だな」


「吾妻殿、今度の総裁選に出ないというのは本当なのか」


「ああ、議員も引退するつもりだ」


圧倒的な支持率を背景に首相を2期勤めてきた吾妻だが、次の総裁選には不出馬、政治家としても引退

を表明していた。


『吾妻殿、首相どころか政治からも身を引くとは、思い切った決断をしたものだな』


「いつまでも年寄が上にいちゃ、下が育たないからな。幸い吉岡君も名島君も優秀な政治家だ。どちらが

首相になっても悪い方向にはいくまいよ」


吾妻の言葉にダリウスや宰相のガイナスも、”うむ、なかなか言えぬセリフであるぞ”、”ワシもそろそろ

後進に道を譲らんといかんのう”などと、感心しきりであった。


「う~む、、、しかし次の首相には、てっきり斉木殿がなるのかと思っていたが・・・・」


「イザベルさん、私は表に出るよりも裏で”いろいろ”とやっている方が、(しょう)に合いますから」


”うふふ”と微笑みながら話す斉木に周囲は、”あっ、こりゃ黒幕爆誕だな”、と内心引き気味であった。

だが、斉木は更に爆弾を投下する。


「ところで吾妻首相、政界引退の理由は本当に後進に道を譲る、という理由だけですか」


「むっ、何だね。他に理由なぞありゃせんぞ」


「そうですよね。最近F市にマンションを購入されたそうなので、しかも宝来軒から徒歩2分の物件で、、、

まさか毎日宝来軒に行きたいから政界引退を表明されたのではないかと、勘ぐってしまいましたよ」


「ハハハ、サイキクン、イッタイゼンタイナニヲイッテルンダカ、サッパリワカラナイナー」


「首相、なぜに棒読みですの」


すっかりばれてーら!


『吾妻殿、そんな理由だったのか・・・・』


「私は今、吾妻殿への尊敬の念が急速にしぼんでいくのを、実感しているぞ・・・・」


「い、いや、たまたまこちらにいい物件があったのでな。決して宝来軒のために引退するんじゃないぞ!」


そう強弁する吾妻だが、周囲は”このパープー首相が”と、冷たい視線を向けるのであった・・・・・


夏バテ気味のため、筆が進みません、、、、

次回は9月以降の更新になる見込みです。

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