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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第199話 警察学校での日々


「全員起床!」


「うう、、、、もう朝なの」


「眠い・・・・・」


警察学校の朝は早い。まだシャバの生活習慣が抜けきっていない学生たちは、ノロノロと集合場所へと

向かう。そんな彼ら彼女らに、教官からの叱責が飛ぶ。


「そんなダラダラしてるんじゃないっ! ランニング5キロ追加するぞっ!」


それを聞いた学生たちは、慌ててキビキビと動き出す。一方イザベルはさっさと訓練着に着替えも済ませ、

同期生たちをせかしていた。


「ほら、みんな早く動かんと、教官殿にトレーニング追加されるぞ」


「うう、、、まだ昨日の疲れがとれなくて」


「イザベルさんは平気なの」


「ああ、この通りピンピンしておるぞ。私も騎士になりたての頃はそなたらと同じような感じだったからな。

その内慣れてくるぞ」


ようやく集合した学生たち、ほとんどがまだ眠気が取れていない様子である。それを見た教官の表情が、

険しいものとなっていく。


「君達は、助けを求める市民の前でもそんな顔をするつもりなのか。警察官たるものどんな時でも毅然と

した態度を取るように心がけなさい!」


そして教官は学生たちを見渡し、イザベルを指名する。


「鈴木君、君が代表として、このたるんだ連中の罰を受けてもらうぞ。グラウンド5周走りなさい!」


「教官殿、承知いたしました」


”えっ”と思う周囲を尻目に、イザベルは不満も見せずグラウンドを走り出す。こうしたことは騎士時代の

訓練でもよく行われていたことだ。1人が罰を受けることで、連帯責任を感じさせ奮起させることが目的だ。

もちろん、イザベルが十分罰に耐えられる体力があると、見越してのことである。


「イザベルさん、ごめんなさい、私たちのせいで・・・・・」


「俺たちが不甲斐ないばかりに・・・・」


「まあ気にするな。私も最近体がなまっていたからな。ちょうど良い鍛錬になったぞ」


休憩時間、詫びの言葉を口にする同期生たちに、イザベルは笑顔を浮かべながら気にする事はないと

答える。こうして1か月も過ぎた頃には、彼らの結束もずいぶんと高まっていくのであった。


「でやあっ!」


「とうっ!」


裂帛の気合が響き渡る道場内、基礎体力もついてきた頃、柔道や剣道、合気道などの武道と、逮捕術の

訓練も始まった。現場に出れば凶器を持った犯人と対峙することもある。鍛錬にも自ずと気合が入ると

いうものだ。


「せいっ!」


「うう、まいった」


ここでもイザベルのハイスペックぶりは際立っていた。柔道、合気道は初心者ながら、油断すれば教官

でも敵わないほどの腕前となっていたのだ。そんな様子を見ていた教官は、ふと彼女の剣術の腕前を

見たくなり、学生の中でも有段者と試合をさせてみることにした。


「ぐぅ、、、、、」


「む、どうした。なぜ打ち込んでこぬのか」


相手の学生は、イザベルを前にして固まっている。彼女に隙がなさすぎて動けないのだ。


「参りました・・・・・」


「よし、鈴木君、今度は私が相手をしよう」


どうやっても負けるイメージしか湧いてこなかった相手が、木刀を降ろし頭を下げる。それを見た教官は、

自ら相手を申し出る。彼も全国大会で上位に入った猛者なのである。


「鈴木君、手加減はいらないぞ」


「教官殿、承知いたしました」


周囲が固唾を飲んで見守る中、イザベルと教官の立ち合いが始まった。しかし、先ほどの学生同様彼も

イザベルの隙のなさに、打ち込むことができないでいた。そして、イザベルの剣先がわずかにゆらっと

揺れる。それに教官は気をとられてしまった。


「うっ・・・・・」


「こ、ここまで!」


イザベルの木刀は教官の首筋に当てられていた。真剣勝負なら彼の首は飛んでいただろう。もっとも、

これを避けることができるのは土方など、レジェンドクラスの剣士のみである。現在の日本ではよほど

の達人クラスでない限り、イザベルと立ち合うことは不可能だ。


「鈴木君、さすがだな。ここまでとは思わなかったよ」


「恐れ入ります」


「ところで君の腕を見込んで、頼みがあるのだが」


教官はイザベルに、初心者への指導の手伝いを頼んだのである。


「剣先がふらつかずに、型をこなせるレベルまでにしてくれないか」


「承知いたしました。ただし剣について手加減はできませんが、よろしいですか」


「ああ、かまわないよ」


教官の言質を得たイザベルは目を光らせ、同期たちに宣言する。


「皆の者、これより教官殿の命を受け、そなたたちの剣の指導をすることとなった。喜べ、皇国竜騎士団

伝統の鍛錬を、そなたらに施してやるぞ!」


「えっ! それマジなの」


「イザベルさん、お手柔らかにお願いね」


そんな同期たちに、イザベルはにっこり笑顔で断罪を下す。


「剣の基本はまず素振りだ。今からなら500回はできるな。私が手本を見せるから、同じように振ってみろ」


「「「「「ええっ~~」」」」」


「グズグズするな! 時間は有限だ。さっさと剣をとれいっ!」


「「「「「イエス、マム!」」」」」


イザベルの剣幕に押され、汗だくになりながら素振りを始める学生たち。一方イザベルは、慣れたものと

ばかり涼しい顔で木刀を振っている。


「お、おい、大丈夫かあいつら・・・・」


「鈴木君、俺たちより鬼教官じゃないか・・・・」


その光景を見ていた教官たちは、ちょっと軽率だったかな、と思うのであった・・・・・


「いいか、こう構えて引き金を引くんだ」


「「「「「はいっ!」」」」」


学校内に併設された射撃練習場では、学生たちが教官から拳銃の取り扱いの指導を受けていた。暴発

を防ぐための安全対策から始まり、念の入った授業である。指導を受けた学生たちは拳銃を構え、的に

向かって引き金を引く。


「・・・・・・・」


乾いた銃声が響く中、イザベルは1人浮かない顔をしていた。幕末の会津での経験から、銃には苦手

意識が強いのだ。新政府軍のアームストロング砲に反撃しようと城の大砲を撃とうとして、周囲から必死

に止められたのは本当に泣ける思い出である。


「どうした、指導した通りに撃ってみなさい」


「はい、教官殿・・・・・」


イザベルが引き金を引くと、”ちゅいーん”と音を立てて銃弾はなぜか後ろにいる教官の頭をかすめていった。


「お、おい鈴木君、、、、なぜ弾が後ろに飛んでくるんだ」


「くっ、教官殿、もう一度チャンスを」


再び銃口を的に向け、引き金を引くイザベル。しかしまたもや銃弾は明後日の方向に飛んでいき、跳弾と

なって教官や学生たちをかすめるのであった・・・・・


「くっ、もう一度・・・・・」


「いや、もういい、鈴木君は今日は訓練は中止したまえ・・・・・」


これはもはや呪いのレベルである。イザベルは練習場でリアルorz姿勢となってしまった。なんか幕末の

会津でもあったような光景だ。デジャブである。


「しかし、拳銃が扱えないと警察官としての任務は果たせんぞ」


「教官殿、その代り私にはこれが・・・・」


とイザベルは最大威力のファイヤランスを放とうとして、かつて異世界のギルドや会津藩の練習場を全壊

させたことを思い出した。さすがに現代の警察学校で騒ぎを起こしたら、警察官になるどころか刑務所に

ぶち込まれてしまう。イザベルも過去の教訓を生かせるほどに、成長したのであった。


「・・・・・その代わり、これがありますので」


「な、なんだね、コレは!」


ファイヤランスの代わりに、イザベルはオリハルコンの聖剣”ガレル”を顕現させた。しかしこれが、新たな

騒ぎの種となってしまう。


「鈴木君! これは完全な銃刀法違反だぞ!」


「これは没収だ!」


詰め寄る教官たちに、イザベルは困った表情で答える。


「教官殿、日本に来た時にもそう言われたのですが、聖剣とは契約を交わしていて、私が死ぬまでこの身

を離れることができないのです」


「なんだね、そのファンタジーな設定は・・・・」


「とにかく上とも相談するが、それはすぐにしまいなさい!」


この件は首相官邸まで上がる騒ぎとなってしまった。すったもんだの末、今後むやみやたらに”ガレル”を

出さないことを条件に、超法規的措置として聖剣の所有が認められたのであった・・・・・


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