第1話 戦場の異変
「さて、そろそろお姉さまたちも空戦に入るわね。エリザ、地上軍の展開はどう?」
「はっ、クランドル師団長、魔導師団および重装突撃団も展開済みです」
「敵の様子は?」
「ここより30Km離れたレマゲン平原に陣をはっております」
”お姉さま”と何やら意味深な単語を発したのは、皇国魔導師団長であるティワナ・クランドル、
魔導の名門クランドル家に生まれた彼女はその膨大な魔力と天才的な頭脳でもって、弱冠16歳で
ありながら師団長の地位についている。幼いころに両親を事故で亡くしたが、そのころから顕現
していた彼女の才能は皇国の財産と判断され皇宮に引き取られた。そして一つ上のイザベルとは
実の姉妹のように育ち、今では一歩間違えれば「そういう関係なの?」と言われそうなベタつき
ぶりである。
「前方150km先上空に感あり! 数300! ホラズム軍竜騎士団と思われます!」上空警戒担当の
師団員より報告が上がった。ティワナだけではなく、他の魔導師団員も他国なら師団長を勤められる
くらいの猛者揃いだ。
最強の竜騎士団と魔導師団、この世界では中堅規模の国家であるルーク皇国が長年独立を保って
いられるのも、この強力な軍があってのことである。
「この調子だと、、、ゲットーの森上空あたりでぶつかりそうね。スプラフト団長に連絡を」
魔導スクリーンに示された情報を見ながら、ティワナが指示を出す。
「森に対空魔導兵器を隠している可能性もありますね」と副師団長のエリザが意見を言う。
「ええ、探索をかけてみたけど今のところ感はないわ、、、ただ、あのザフールのクソ野郎が何か
企んでいるかもしれないから、警戒は必要ね。森の近くまで進軍しましょう、、、今度こそ焼き尽くして
やるわ」
ティワナが唾棄しそうな表情で言った名は、ホラズム王国魔導師団長のザフールである。
人の裏の裏をかくような戦術を得意とし、皇国軍も何度か煮え湯を飲まされている。
そして今、彼はゲットーの森の中で息をひそめていた。
「探索魔法通過、気づかれた気配はありません」
「よし、対空部隊は準備を続けろ。他の者は擬態魔法の維持に傾注」
「はっ」
ほっと安堵の息を漏らしたのはザフール、彼は暗い情念のこもった目でつぶやいた。
「忌々しい魔女め、、、、だが今度こそ貴様に一泡吹かせてやるぞ。このオレが心血を注いだ
擬態魔法はそう見破られるものか」
そして、両軍の激突するときがきた。
「ホラズム軍竜騎士団、前方20kmまで接近!」
「よっしゃ! 全騎戦闘態勢に移行、けちらしてやれ!」
カークが指示すると、ドラゴンと竜騎士は無限のマナを取り入れ白銀に輝きはじめる。その姿は
まるで神話に登場する戦士のごとき神々しさだ。そして一気に音速まで加速するとホラズム軍に
襲いかかった。
「うわっ」「ぎゃあっ」「ひぃ」
最初の一撃で、30騎以上のホラズム軍竜騎士が撃墜された。せいぜい時速200km程度のワイバーン
では音速を超える皇国竜騎士はとらえきれない。そして、現代のジェット戦闘機ばりの機動で再び
攻撃をかけ、更に数十騎が撃墜されるともはやホラズム軍に統制された行動は不可能であった。
「よし、これで11騎目だ!」
散り散りになるホラズム竜騎士を次々と屠る皇国軍、中でもイザベルの活躍はまさに”皇国の守護天使”
の呼び名にふさわしいものであった。
「イザベル、左からくるぞ!」「くらえ!」
死角から接近した敵を、イザベルのファイヤアローが迎え撃つ。基本的に竜騎士同士の戦いは前方に
いる敵はドラゴンブレスで、その他を騎士の攻撃魔法で迎撃するのが基本戦術である。
「ちぃっ、はずしたか」
態勢を変え、再度攻撃をかけようとするその刹那、敵竜騎士の兜が脱げその素顔があらわになった。
死の恐怖に震えるその騎士は、まだイザベルと同年かそれより下の少年兵だった。
だが、ここは戦場、相手をやらなければ自分が命を失うだけだ。ヴィドローネのブレスで火に包まれた
少年兵は、愛騎とともに森の中へ墜ちていった。
「どうやら、子供まで動員し始めたというのは本当だったな、、、、、」
度重なる戦争でホラズム側の兵力が消耗し、まだ未熟な子供までも兵員に仕立てていたのである。
この世界でも年端のゆかぬ子供を戦争に駆り出すことは忌避されることで、イザベルやティワナは
その圧倒的な力による例外中の例外であった。
「ふん、皇国のトカゲどもいい気になりおって、広域対空殲滅魔法仰角調整、発動せよ」
「しっ、しかし、まだ上空には友軍が」
「かまわん、どうせヤツラは囮だ。グズグズしているとこちらにも墜ちてくるぞ!」
じっと戦況を見守っていたザフールが命令し、皇国竜騎士団に向けて数十人の魔導師によって準備された
殲滅魔法が発動した。
「何、これは大規模攻撃魔法!! させるかあぁ!」
森の近くまで布陣したティワナは即座に感知し、同規模の攻撃魔法を放ち相殺させようとした。
数十人の魔導師が長時間かけて準備した攻撃魔法と同じ威力の魔法をとっさに発動できるあたり、
彼女の底知れない魔力と才能がうかがえる。
皇国竜騎士団は直撃こそまぬがれたものの、大規模魔法の衝突はすさまじい余波を生み出し、
信じられない現象を引き起こした。
「何、空が割れた?」
近くを飛行していたイザベルとヴィドローネはその割れ目に吸い込まれ、そしてそれはすぐに
閉じてしまった。
「お姉さまあぁぁぁっ!!」
ティワナが悲痛な叫び声を上げるが、空は応えることはなかった。
皇国の守護天使と讃えられた少女は、その愛騎ヴィドローネと共にフェアリーアイズより姿を
消したのである。
距離単位はkmにしてしまいました。まあ異世界独自の度量衡を考えるのが面倒だったというw
次話から舞台は日本に移ります。