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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第192話 竜騎士の卒業旅行その4(中国珍道中)


「ぐごおぉぉぉぉぉっ! ぐがあぁぁぁぁぁっ!」


「うう~、、、、もうマオタイ酒は随意ですう、、、、、、」


「う、う~ん・・・・・朝か」


大いびきや寝言が響き渡るホテルの一室で、イザベルは目を覚ました。今回は三国志の世界にタイム

スリップすることもなく、完全に爆睡していたようだ。


「ぜひ、あの猛将たちと剣を交わしてみたかったのだがな・・・・」


実は密かに関羽や張飛といった超有名な武将と闘えるかと期待していたのだが、さすがにそうそう都合

のいいタイムスリップは起こらなかった。


「おい、みんなもう起きろ。朝食の時間だぞ」


「う~、、、、あと10分」


「うう、、、、もう吐きそうです・・・・・」


渋る綾香と麗華を叩き起こし、イザベルたちは朝食会場へと向かった。日本のホテルと同じバイキング形式

なのだが、中華料理の占める割合が多い。


「いやあ、これは朝から豪華だわ!」


「綾香よそなた、昨日あれだけ飲んだのによく食べられるな・・・・・」


「うう、私はお粥だけで十分ですよ・・・・・」


一通り料理を選んで席につこうとしたイザベルは、行列が出来ている一角があることに気がついた。


「む、あそこはずいぶんと人だかりができておるな」


「その場でチャーハン作ってくれるみたいよ」


イザベルと綾香も行列に並んで半チャーハンを作ってもらい、席についてそれを一口食べた途端、彼女

たちの目は驚愕に見開かれてしまった。


「おお、これは宝来軒の味ではないか!」


「まさか中国で、この味に出会えるなんて!」


驚く2人に、麗華が若干ドヤ顔で説明する。


「ここの料理人は宝来軒の先代店主さんに教わっていますから、今ではこのホテルの名物なんですよ」


確かに一番人気のようで、何度もお代わりを頼む客も結構いたのである。


「これ、ドラコさんの作ったチャーハンと、ほとんど味違わないね」


「あやつも最近は己の腕に慢心している節があるからな。帰国したらこの事伝えねばならぬな・・・・・」


後に、中国でも宝来軒と寸分違わぬ味が広まっていることを知ったドラコ、顔色を変えて料理の勉強を

やり直すのだが、それはまた別の話である。


「おはようございます。あら、綾香さんも朝から食欲旺盛ですね」


「っ! 川間さんこそ、ずいぶんトレイに盛っていますね」


そこに現れたのは、昨日綾香と酒飲みバトルを繰り広げた川間であった。彼女もまたチャーハンを始め、

各種料理を大盛りに取っていた。2人の間に、またもや静かに火花が散る。


「・・・・・イザベルさん、あの人達昨日あれだけ飲んでいて、どうしてあんなに食べられるんですか」


「麗華よ、あやつらは人外だ。気にしたら負けだぞ」


イザベルと麗華は、われ関せずを貫くことに決めたのであった。海野と川間は今日で帰国するそうで、

これ以上パープーな戦いに巻き込まれたくない2人は、心の中で安堵したのである・・・・・


「・・・・・お帰りなさい。上海観光はどうでしたか」


「ああ、秦殿のおかげで、楽しい1日が過ごせたぞ」


「麗華さんもくれば良かったのにねえ」


「・・・・夕べ綾香さんに飲まされなければ、私もご一緒したかったですよ!」


イザベルと綾香が上海観光を楽しんでいる間、二日酔いが抜けない麗華はホテルでウンウン唸っていた

のであった・・・・・


「まあまあ麗華お嬢様、そろそろ列車の時間ですから、準備をお願いいたしますね」


イザベルと綾香のガイドに、鳳グループから付いた秦という女性がそう麗華を促す。日本語もペラペラなの

で、意志疎通も問題ない。


「はあ、これから40時間も列車に乗らなきゃならないなんて、、、、」


「イザベル、あんたが飛行機ダメだから、こんな事態になっちゃったんだかんね!」


そう恨みがましい目を向ける綾香と麗華から、イザベルはそっと目を逸らす。次は四川省の成都に行く

予定なのだが、飛行機が苦手なイザベルのために、行きは上海から夜行列車の旅になってしまったのだ。


「まあまあ皆さん、今時長距離列車の旅も、なかなか風情のあるものですよ」


剣呑な雰囲気を感じ取った秦が、皆をとりなした。確かに駅で列車を見ると、まるで夜行列車全盛時代の

日本の国鉄を彷彿とさせる、情緒あるものであった。


「ほう、ここが我らの部屋か」


「私は隣りの車輛におりますので、何かありましたら遠慮なくお呼びくださいね」


イザベルたちの寝台は「軟臥」と呼ばれる日本ではA寝台に相当する車輛だ。個室に4つの寝台があり、

今回は鳳グループの貸切になっている。秦はB寝台に相当する「硬臥」に乗車している。こちらは開放式

3段寝台だが、さすがに大陸の鉄道だけあり日本のB寝台よりも広々としている。


「では、夕食は食堂車でとりますので、7時になりましたらまたお伺いいたしますね」


「うむ、了解した」


「うわー、食堂車なんて生まれて初めてよ」


日本では一部のクルーズトレインを除き全滅した食堂車だが、長距離列車の多い中国ではまだまだ健在だ。

メニューはもちろん本格的な中華料理で、世界中の食堂車を食べ歩いた有名鉄道写真家に、「オリエント

急行のフルコースに次いで美味しい」と言わしめたほどだ。


「ひゃっほう、これはお酒が進むわね!」


「綾香よ、ここは列車の中だ。くれぐれも飲みすぎるでないぞ」


「はいはい、わかってるわよ。今日は川間さんもいないしね」


綾香が飲んでいるのは白酒(ぱいちゅう)と呼ばれる蒸留酒だ。まあ、マオタイ酒の安いバージョンである。一般市民

は主にこちらを嗜んでいるそうだ。


「あら、車内販売もあるのね」


夕食後、寝台に戻った綾香はさっそく車内販売のワゴンを呼び止め、いろいろと物色している。食堂車は

主に金持ちや外国人観光客が利用し、庶民は車内販売や自前で食料を持ち込んで目的地まで過ごすのだ。


「うむ、お弁当も美味しそうであるな」


冷たいものを嫌う中国人のため、こちらでは日本のような作り置きの駅弁は存在しない。その代わりに

出来立てのお弁当を販売している。主にご飯に炒め物を乗せたものだが、食堂車で調理してあるので

お味の方もなかなかだ。彼女たちも夜食用に1つ購入、後で3人で分けて試食するとのこと。


「イザベルはともかく、麗華さんは白酒はダメなの」


「はい、匂いがきつくて、、、、これはちょっと飲めませんね」


「ふーん、、、、、」


麗華の言葉を聞いて、考え込む綾香、やがて何か閃いたようで彼女の頭上には何やら光った電球が

見えている。


「それなら、こうしたら飲みやすくなるんじゃないの」


そして綾香は後にイザベルをして、”あれは暗黒神の錬金術だ”と言わしめた行為に及ぶのであった。


「えっ! 綾香さん一体何をしているんですか」


「ええ、白酒を飲みやすくしているのよ。まずはビールで割ってと、、、、」


更に香りづけと称して、持参したスコッチを垂らすという暴挙に出た。


「ああやっぱり、これなら飲みやすいわよ」


「そうなんですか、、、、、」


最初は恐る恐るその”暗黒物質”を口にした麗華、


「ホントだ! すごい飲みやすいですよ!」


と、ソレを一気飲みしてしまう。


「そうでしょうそうでしょう、やはり私は天才(注:天災の間違い)だわ!」


「これは、中国4千年の歴史の中で初めて誕生したカクテルですね! どんな名称をつけましょうか」


麗華もすっかり酔いが回ってしまい、だんだんハイになっていく。


「・・・・そうね、中国と、西洋のお酒のマリアージュだから、”シルクロード”なんてどうでしょう」


「おお、まさに東西の文化が交わって誕生したこのカクテルに、相応しい名称ですね!」


「そうよ、今宵は新しい文化の誕生を祝って、乾杯よ!」


こうして、酔っ払いどもの宴はいつ果てるともなく続くのであった。一方その頃イザベルは、


「あれ、イザベルいつの間にかどこいっちゃったのかしら」


「トイレじゃないですか」


ヤバい空気を察して、またもや陰行の術式を用い魔境から脱出していた。


「秦殿、済まぬが空いている寝台はないか。もちろん硬臥でかまわぬぞ」


「ええ、別にかまいませんが、、、、、一体どうされたのですか」


「あやつら、白酒にビールとな・・・・・」


「ああ、それは、、、、あの部屋は立ち入り禁止にするよう車掌さんにも話しておきますね」


彼女たちの珍道中は、まだまだ続く・・・・・


現在は高速鉄道があるのですが、あえて情緒ある夜行列車の旅に

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