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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第18話 温泉旅行と不穏な影


イザベルが鈴木家の一員となって、10日が過ぎた。その間に家の手伝いをしたり入学の準備を

したり、綾香たちと買い物に出かけたりと、だいぶこちらの生活にも馴染んできたようだ。

4月からは綾香と同じ都立F西高校に通うこととなっている。


「それでだ、綾香や聡も春休みに入ったことだし、久々にみんなで旅行にでかけようかと思ってな」


と達夫が切り出した。吾妻からも入学前に親睦を深めてほしい、と頼まれている。


「おとーさん、それでどこいくの?」


「まあ一泊二日で箱根にしようかと思っている。イザベルも温泉行きたがっていたしな」


旅行当日の朝、鈴木家一行は新宿から小田急に乗り換えた。乗車した車輛は小田急自慢のVSE

50000型ロマンスカーだ。名物の展望席は取れなかったものの、ロングガラスを採用した連続窓から

の車窓は素晴らしく、シートも快適で終点の箱根湯本まであっという間の旅路であった。


湯本からは箱根登山鉄道の可愛らしい電車に乗り換えだ。急こう配を登るためにスイッチバックなどの

特殊な設備を備えている。沿線にはあじさいが多く植えられていて、その開花時期には臨時の

”あじさい電車”が運行されるほどの人気路線だ。


残念ながらイザベルたちが訪れた時期はあじさいの季節ではなかったが、それでも平日にも

かかわらず大勢の観光客が乗車していた。

車内放送もスイッチバックの説明や沿線の見どころの案内等、観光客を意識したサービスだ。


「ふんふん、急な坂を登るためにジグザグに線路を敷いてあるのか。なかなかに工夫を凝らしておるな」


「イザベルー、今度は急カーブ通るってー、次の踏切は箱根駅伝のコースらしいよ!」


登山電車の旅を楽しんだイザベルたち、沿線の美術館で彫刻を鑑賞したり、喜劇王チャップリンも

滞在したホテルでちょっと贅沢なランチに舌鼓をうったりと、箱根の旅を満喫していた。

予約した宿は塔ノ沢にある、昔ながらの木造の和風旅館だ。かつて川端康成や大佛次郎など、

多くの文人墨客が常宿にしていた箱根でも伝統的な宿である。


「おお~これが日本の伝統的な旅館なのか。なんか風格すら感じられるな!」と感嘆するイザベル。


「建物自体が重要文化財に指定されているそうよ。さ、早く温泉にはいりましょう」と良枝。


宿に入り旅装を解くと、まずは夕食前に温泉だ。ここの浴槽は大きな松の木をくりぬいて組み合わせた

大丸風呂が名物で、小田急のテレビCMにも登場している。

そして夕食は本格的な会席コース、相模湾の海の幸、箱根の山の幸などが堪能できるメニューである。

しかも料理は仲居さんが絶妙なタイミングで小出しに配膳してくれる。実に老舗旅館らしい配慮だ。


温泉と料理にすっかり大満足のイザベルたち、ぐっすり熟睡した翌朝は小田原名産アジの干物が

メインの朝食をとり、宿の従業員に見送られ後ろ髪引かれる思いで箱根を後にしたのである。


「いや~楽しかったねイザベル、料理も美味しかったし、また来たいよね」


「今度はあじさいの時期に来てみたいな。宿の人もすごいきれいだと言っていたしな。ところで良枝

かーさんと達夫とーさんは買い物か?」


湯本駅の土産物売り場で、良枝は「やっぱり箱根にきたら干物と蒲鉾ね」言いながら、達夫は職場で

配るお菓子などをそれぞれ物色している。

こうして鈴木家の歴史に楽しい家族旅行の記憶を刻みながら、イザベルたちは日常へと戻っていった。


「じゃ、おかあさんスーパーへ行ってくるから、みんないい子にしてるのよ」


「「「はーい」」」


高校入学も間近に迫ったある日、イザベルはお留守番をしながら制服や教材、必要書類などのチェックを

していた。その合間にふと庭にある1本の木を眺め、


「ほう、ずいぶんつぼみも膨らんできたな。もうすぐ開花するかな。フェアリーアイズにはない花だから

楽しみだな」


鈴木家の庭には達夫の父が自宅を新築した時植えた1本の桜がある。彼は定年退職後に自宅を達夫に

譲り、生まれ故郷の鹿児島に帰郷した。そして残った桜の木は、ずっと鈴木家の移り変わりを

見守ってきたのである。


閑話休題、買い物帰りの主婦がママチャリを漕いで自宅に向かっていた。ふと、彼女は自転車を

人気のない公園に停め、休憩でもするのか傍らのベンチに腰をかける。


「いるんでしょ、出てらっしゃい」


彼女がそう声をかけると、すっと隣りに男性が現れた。おそらく常人では全く気配すら感じさせない

であろう動きである。


「失礼しましたNSA-X001、私はNSA-C007です」


「そのコードで呼ばれるのは久しぶりね。で、引退した私に組織が何の用かしら?」


ふふふ、とナンバーで呼ばれた主婦がそう答える。しかし目は全く笑っていない。


「はい、あなたのところにいる”玉”のことでお願いがありまして」


「あら、組織はあの子に手を出すつもりなのかしら。どこかの依頼なの。でもねえ、そんな事したら

私を敵に回すことになるわよ。組織が消滅してもいいのかしら。そう上に伝えてちょうだい」


ふふふ、と笑いながらその主婦は続ける。しかし彼女からはとてつもない殺気が膨れ上がっている。

先ほどNSA-C007と名乗った男は全身にじっとりと汗をかいていた。


「・・・・・いえ、今でも組織最強のあなたを敵に回すことはできません。上にもそう伝えましょう。しかし、

あなたともあろう方がターゲットに情が、、、いえ、失礼いたしました」


「余計なことは口にしないのが、この世界で長生きするコツよ。私はあの子を全力で守る、そう決めたの。

もっとも、あの子もの凄く強いから、私以外の組織の人間にどうこうできるとは思わないけどね」


数日後、中華人民共和国首都北京 中南海の一室、13億の人民のトップに立つ男は、側近からの

報告を受けていた。


「隆主席、例の”玉”の件ですが、組織が依頼を断ってきました」


「ふむ、送り込んだ者たちが消えてしまったので依頼したのだが、あそこが断るとは珍しいな」


「はい、”玉”に手を出したら龍の逆鱗に触れてしまう、と」


「そうか、だが我が国が21世紀、そして22世紀以降も世界の覇権を握るためには、どうしても彼らの

持つ未知の技術、魔法が欲しい。他に手はないのかね」


「はい、すでに国家安全部に”玉”を手に入れるための策を講じるよう、指示を出しております。彼らにも

今度こそ日本の公安に遅れをとるな、と言い含めておりますので」


こうして、水面下では異世界人とドラゴンをめぐる思惑が渦巻いているのであった。果たしてイザベルに、

平凡な高校生活を過ごすことができるのだろうか。その答えは神のみぞ知る・・・・・・・


※参考HP http://www.odakyu.jp/romancecar/ http://www.fukuzumi-ro.com/

今話に登場した旅館のモデル、福住楼さんは自分もお気に入りの宿です。登山鉄道の沿線は

春の桜、初夏のあじさい、秋の紅葉の頃がお出かけにはおススメです。

それから、ちょっとしたフラグも立ててみました。

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