第181話 白虎隊、出陣!
「なっ! 薩長めが母成峠に侵攻したと、、、、」
「はっ、守備隊は敗北し、間もなくやつらも会津に攻めてくるかと」
他のルートを警戒していた会津藩の裏をかき、新政府軍主力は守りの手薄な母成峠を突破した。もはや
城下まではさえぎるものもない。彼らは会津の息の根を止めるべく進軍していたのである。
「すぐに兵を呼び戻せ! それから手持ちの兵力は全部出すぞ。何としてもやつらが城下に入るのは防が
ねばならん!」
「ははっ!」
新政府軍の電撃的な侵攻に、会津藩の対応は後手後手に回った。そしてこの事が、白虎隊の運命を
決定づけてしまったのである。
「巫女さま、お世話になりました」
「必ずや、薩長の連中めを蹴散らしてご覧にいれます!」
そう口々に、イザベルへ出陣のあいさつをする白虎隊の隊士たち。城下の守りが手薄になってしまった
会津藩は、彼らにも出陣命令を下したのであった。
「巫女さまの教えを受けたこと、この篠田一生忘れませんぞ!」
特に篠田のあいさつは、まるで今生の別れのようであった。しかし、イザベルはそれに不満気な表情だ。
「・・・・あの、巫女さま、何か我らが気に障ることでもしてしまいましたか?」
「あのな、皆の口上を聞いておると、これが最後の別れのようではないか」
「しかし、此度の戦は激しいものになります。我らも命をなげうつ覚悟で・・・・・・」
それを聞いたイザベルは、ますます口を尖らしてしまう。
「この間約束したではないか。春になったら皆で桜を見ようと。武士が約定を違える気か、んんっ!」
これには、隊士たちも苦笑するほかなかった。
「はは、我らの負けでございます。必ずここに戻ってくること、誓いますぞ」
「そうですな、我らも花見は楽しみですからな」
そして出陣しようとする隊士たち、しかしイザベルはそれを引き留める。
「ああ、ちょっと待て、皇国の守護天使たる私が、そなたらに加護を与えようぞ。篠田殿、そなたが代表だ」
イザベルは篠田をチョイチョイと手招きする。頭に疑問符を浮かべ近寄る篠田、イザベルは彼の頬に、軽く
口づけをしたのであった。
「うむ、これで敵の矢玉もあたらんぞ。ん、、、、、篠田殿どうしたのだ。何を固まっておる?」
ルーク皇国では軽いスキンシップなのだが、あいにくここは幕末の日本である。初心な少年たちには
刺激が強すぎた・・・・・・
「み、みみみみ巫女さま、一体にゃ、にゃ、にゃにを・・・・・」
「む、八重殿どうしたのだ。言葉が崩れておるぞ」
「どうしたのではありません! なに人前でそのようなはしたない真似をなさるのですか!」
「いや、皇国では特に親しい間柄のものなら、珍しいことではないぞ」
しかし、八重の抗議にイザベルは首を傾げるばかりだった。まあこのあたりは価値観が違いすぎるので、
致し方ないところではある。
「まあそれはいい、ところで皆、、、、篠田殿、なぜ鼻から血が出ておるのだ!」
そのまま彼は、後ろにパタンと倒れてしまった。
「お、おい篠田生きてるか!」
「まだ戦は始まっとらんぞ! 気をしっかり持て!」
イザベルも慌てて篠田の元に駆け寄ると、彼の体を抱きかかえてゆすり始める。
「し、篠田殿どうした! 何うわ言を言っておるのだ!」
「巫女さまどうかそれ以上は、、、、篠田の心の臓が止まってしまいます・・・・・」
周囲にそう言われ、イザベルは渋々篠田から離れるのであった。しかし他の者がほっとしたのもつかの間、
彼女は更に爆弾を投下したのである。
「あー、、、、先ほどは言いそびれたが、皆が無事戻ってきたあかつきには、全員の頬にも私の口づけを
進呈するぞ」
「「「「「ぐはあっ!」」」」」
今度は、その言葉を聞いた白虎隊隊士全員が悶絶してしまう。中にはなぜか前かがみになっている者まで
いた。でもしょうがないのだ。皆”武士”という衣を脱げば、全員思春期真っ盛りの男の子なのだから。
「お、おいイザベル、それ以上はやめておけ。こいつら戦に出る前に使い物にならなくなるぞ」
「巫女さん、純情な子供を弄びやがって。結構な悪女だったんだな・・・・・・」
ヴィドや土方も、戦の前とは思えないパープーな展開に、呆れ気味だ。
「で、では、我ら白虎隊出陣いたします」
「うむ、そなたらの武運を光の神に祈っておるぞ。また会おう!」
気を取り直して出陣する白虎隊と、にこやかな笑顔で見送るイザベル。しかし、彼らが視界から消えると
彼女の笑みは消え、神に祈るような表情になってしまう。
「皆、無事に戻ってくるのだぞ。光の神よ、どうか彼らに加護をお与えください、、、、、」
これがイザベルと、白虎隊との最期の別れとなったのである。