第180話 二本松城ついに落つ!
「会津攻めよか 仙台とろか ここが思案の二本松、、、、か」
二本松城への総攻撃を目前にして、戯れ歌を口にする板垣。
「板垣さん、なんですかその戯れ歌は」
「いやな、今日の戦は厳しいものになると思ってな」
板垣は、そう口にして二本松城に視線を向ける。二本松藩側はすでに防備を固め、降伏する意思のない
ことは明らかだった。
「しかし、負け戦になるのはわかっているのに、なぜ抵抗するのでしょう。理解できませんな」
「ああ、彼らは”武士”だからな・・・・・」
部下の疑問に、板垣はそう呟くように答えた。そして、戊辰戦争において有数の激戦となった、二本松の
戦いが火ぶたを切って落とされたのである。
「よし、ここで敵を迎え撃つぞ。指示があるまでは発砲するなよ」
「「「「「「はいっ!」」」」」」
そう指揮官に答える声は、まだ幼いものであった。彼らは二本松藩の子弟で構成された少年隊、最年少
は12歳と、白虎隊よりも年下であった。その少年隊は今まさに、新政府軍との戦闘に臨もうとしていた。
「かかれぃっ!」
「「「「「「おおっ!」」」」」」
少年隊が布陣する大壇口に、潮のごとく押し寄せる新政府軍、この時、二本松の各所で同様の光景が
見られたのであった。
「今だ、撃ていっ!」
少年隊を指揮する木村銃太郎の指示で、彼らの大砲が火を噴いた。たちまち吹き飛ばされる新政府軍の
兵士たち。更に少年隊の銃撃がそれに追い打ちをかけた。
「ちっ! 小癪な奴らめ、押し込めいっ!」
しかし、敵軍の物量に次第に少年隊は追い込まれ、隊長の木村は負傷の後退却中に自らの首をはね
させる。そして生き残った少年たちも、絶望的な戦況の中、最後まで戦い続けるのであった。
「な、まだ子供じゃなか、、、ぐっ!」
「油断するな、相手は”武士”じゃど!」
新政府軍は少年隊を子供ではなく、”対等な敵”として迎え撃った。それこそが、少年たちの望みであった
のかもしれない。
「丹羽殿、もはや勝敗は決しましたな」
「そうであるな、では、我らも皆の後を追うとするか」
すでに二本松藩の守備ラインは突破され、城下には新政府軍が押し寄せている。彼らがやることはただ
一つ、武士の意地を見せることであった。丹羽たち重臣は城に火を放ち、自刃したのである。
「板垣さん、二本松城から火の手が上がっておりますぞ」
「ああ、、、彼奴らは、”武士”として死ねたか・・・・・」
板垣の言葉には、丹羽たちをうらやむ感情がこもっていた。後に彼はこの戦を振り返り、
「二本松城ついに落つ。守将、丹羽一学ら城に火を放って自刃す。一藩こぞって身を投げうち倒れてなお
戦い抜いた例は他に少ない。城や家で自刃する者、城を出て討ち死にするもの相接した。城を枕に倒れる
とは、このことであろう」
と書き記している。なお現在大壇口古戦場址には、当時の新政府軍隊長、野津道貫の詠んだ
『うつ人も、うたるる人もあわれなり、ともにみくにの民とおもへば』
陸軍大将、木越安綱による
『色かへぬ、松間の桜散りぬとも、香りは千代に残りけるかな』
の歌碑が建立されている。
そして、ほどなくして会津藩にも二本松城落城の報せが届けられた。先の長岡藩陥落と併せ、いよいよ
会津は新政府軍に追い詰められることとなったのである。
「なっ、、、、まだ12歳の子供まで、戦に駆り出しただと、正気なのか!」
二本松攻防戦の詳細を聞いたイザベルは、こう言うと絶句してしまった。それも無理のないことだ。彼女の
世界の倫理感は、現代地球とそれほど大差ないのである。
「巫女さま、我らも若輩とはいえ武士の端くれでござる。そのような物言いは、やめていただきとうござい
ますぞ」
二本松から落ち延びてきた少年隊の生き残りが、イザベルの目を見据えて答える。
「しかし、そなたまだ、、、、、」
「14歳でありますが、それが何か」
イザベルは言葉に詰まってしまった。彼の表情はかつて対峙したホラズムの少年兵とは違う、表情は幼いが
その目は完全に戦士のそれであったのだ。
「すまぬ、そなたはすでに戦士であったのだな」
「いえ、では私も出陣いたしますのでこれで」
詫びるイザベルに、彼はペコリと頭を下げて去っていった。彼女はその後ろ姿を、複雑な表情で見送った
のである。
「八重殿、なぜ我らは出陣できぬのだ」
「巫女さま、お二人は会津藩のお客人でございます。戦いに巻き込むわけにはいけませぬ」
二本松と長岡陥落の報を聞いたイザベルとヴィドは、容保に参戦の申し出を行ったのだが断られた。それは
娘子隊も同様であった。
「しかし、これだけ世話になっておきながら、、、、」
「巫女さま、白虎隊の皆様方に手ほどきをしていただいただけでも、十分でございますよ」
そして8月21日、新政府軍は動き始めた。藩境の母成峠に主力を進軍させたのである。
※参考書籍
各駅停車全国歴史散歩 福島県 福島民報社編 河出書房新社刊