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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第177話 竜騎士vs鬼の副長


”ふうん・・・・・・”


土方歳三、新撰組鬼の副長として恐れられ、鳥羽・伏見の戦い以降は西洋式の兵法にも理解を示し、

現在はかつての仲間と共に奥羽越列藩同盟に与し、この会津の地にて薩長との決戦に備えていたので

ある。彼は道場内を見渡すと、うなだれている白虎隊の隊士たちを確認してわずかに顔をしかめた。


「土方さま、これは・・・・」


「八重殿か、この有様はいったいなんだい?」


八重はかくかくしかじかと、イザベルと白虎隊の間に起きた事の顛末を説明した。


「まあ、何となく想像はついたがよ、、、、しかし、とんでもねえ剣技だな。まるで巴御前だぜ」


土方はそう言葉を発して、イザベルの方を見つめる。彼女も土方が並々ならぬ実力の持ち主であると、

一目で看破した。そして、強い者を見ると・・・・・


「ほう、土方殿といったか、どうだ、私とちょっとした手合せをしてみぬか。こいつらでは準備運動にもなら

なかったのでな」


・・・・・と、腕試ししてみたくなる悪いクセが頭をもたげたのである。


「へえ、大した自信だな巫女さんよ。だがな、手合せなら女相手でも手加減はできねえぜ」


一方、土方も獰猛な笑みを浮かべてこれに答える。彼もまたイザベルと同類、強さを求める生粋の剣士

であった。強者同士が醸し出す気に、周囲は口をはさむことはできなかった。こうして、2人はお互いに

木刀を向け合ったのである。


「はじめっ!」


「っ!」


開始の合図とともに、先手を取ったのは土方だった。白虎隊の隊士たちとは比べ物にならない鋭い突きが

イザベルの顔面を襲う。しかし、彼女はわずかな動きで方向をそらし、そのまま土方を袈裟懸けに斬ろうと

した。それを察した土方は即座にイザベルと距離をとる。


「この突きを避けるか、口だけじゃねえようだな」


「ふっ、そなたこそやるな。大抵の騎士は今の一撃で終わりだぞ」


とても、木刀での模擬戦とは思えない真剣試合に、周囲は固唾を飲んだ。そして、次に仕掛けたのは

イザベルだ。彼女の剣先が”ゆらっ”と揺れる。その舞いのような動きに土方は一瞬見とれてしまう。

そして、その隙を見逃すようなイザベルではない。彼の喉元に斬撃を放つ。


「おっと、これは危なかったな」


「ちぃっ! 今のを避けるか」


土方は紙一重でイザベルの剣をかわす。かつてグラン西方帝国の武闘会で皇帝始め、帝国のトップ20を

叩きのめした技を防いだ土方に、イザベルも驚きを隠せない。


「まったく、女だてらにこんな剣使いやがるとは、どんだけ修羅場をくぐってきているんだ」


「フフ。貴殿こそな。この私とここまでやり合えたのは、土方殿が初めてだぞ」


2人はあらためて向かい合い、木刀を構え直す。お互い次の一撃で勝負を決める気だ。


「ふう、、、、巫女さんとやり合うんなら布団の中でしてえもんだ」


「私より強い男なら、それもやぶさかではないぞ」


軽口をたたき合った後、2人は同時に動く。それは常人の目では追えないほどの素早さであった。


「しょ、勝負ありっ! 引き分けっ!」


審判役が引き分けを宣言した。イザベルの剣は土方の首筋に、土方の剣はイザベルの胴にそれぞれ

寸止めされていた。2人は木刀を引き、向かい合って礼をする。


「巫女さますごい、あの土方さまと引き分けるなんて・・・・・」


「あやつと五分の勝負ができる剣士なんて、初めてみたぞ・・・・・」


八重とヴィドは、2人の人間離れした勝負に、そう言葉を絞り出すのがやっとだった。


「土方さん! もう軍議の刻だというのに一体何してるんですか!」


「おー、斉藤か。すまんすまん、久々に楽しい試合だったもんでよ。試衛館の頃を思い出しちまったぜ」


そう道場内に入ってきて、土方をたしなめたのは元新撰組三番隊組長、斉藤一、彼もまた、土方に負けず

劣らずの猛者である。


「どうだい、斉藤もこの巫女さんと立ち合ってみねえか。まるで沖田とやり合っているみたいだったぞ」


「はあ、沖田さんとですか・・・・・」


楽しげに語る土方に懐かしげな目をして答える斉藤、その会話を聞いていたイザベルが、彼らに尋ねる。


「む、その沖田殿とやらも、強いのか」


「ああ、剣の才能ならオレよりも上だった。天才だよアイツは・・・・・」


「それはぜひ、剣を交わしてみたいものだな」


だが、イザベルの言葉に土方は、悲しげな表情で首を横に振る。


「残念ながらそれはできねえ。沖田はな、不治の病であの世にいっちまいやがった・・・・・」


「そうか、それは知らぬこととはいえ、失礼なことを聞いてしまった。すまぬ」


イザベルはすっと頭を下げた。土方や斉藤の口ぶりから、沖田を失った彼らの悲しみが、とても深いと

いうことを理解したからだ。その時であった。土方は居住まいを正すとイザベルに頼みごとをしたのだ。


「ところで、巫女さんの腕前を見込んで頼みがある」


「うむ、私にできることならかまわんぞ」


「ああ、白虎隊の連中な、こいつらを鍛えてやってくれないか。頼む」


土方はイザベルの前に両膝をつき、頭を下げた。鬼の副長が小娘に土下座する光景に、周囲も唖然と

する。そして、白虎隊隊士の中からそれに文句をつける者が出始めた。


「土方先生! 頭を上げてください!」


「そうです! 女子(おなご)に剣を習うなどとんでもない。我らだけでも十分稽古をやってみせます!」


「おい・・・・・」


未だ現実を見ようとしない隊士たちに、土方が何か言おうとした瞬間、


「この馬鹿者どもがあっ! この期に及んで何寝言をほざいておるのだっ!」


イザベルの怒気を含んだ大声が、道場を揺るがした。


「土方殿ほどの男が、私のような小娘に頭を下げている理由がわからぬのか! 全ては貴様らを想って

のことではないか。そんなこともわからぬかこのたわけがっ!」


イザベルの剣幕に押された隊士たちは、何も言い返すことができず再び顔を俯けてしまう。そんな様子を

見ていた土方も苦笑する。


「オレの言いたいこと巫女さんが全部言っちまったな。本来ならオレたちがこいつら鍛えなきゃいけない

ところだが、薩長相手の準備もあってな、、、、、すまんがそういう訳で巫女さんに頼んだのだが」


土方は再びイザベルに頭を下げる。彼も、まだ年若い白虎隊の隊士たちを、犬死にはさせたくないのだ。


「土方殿、頭を上げてくれ。委細承知した。こやつらの性根、この私が鍛え直してくれようぞ」


イザベルは土方の頼みを承諾すると、白虎隊の面々に獰猛な笑みを向けた。


「思い立ったが吉日だ。喜べ、今日から皇国の守護天使たる私が、貴様らを直々に鍛錬してやるぞ」


「「「「「ひ、ヒィッ!」」」」」


イザベルと、白虎隊の面々との付き合いが始まったのである。


「悪・即・斬」のお方も出してみました。

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