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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第172話 竜騎士、激動の幕末に降臨す!


上下左右、感覚のない空間をイザベルは彷徨っていた。


「ん、、、ここは一体どこだ?」


「おいおい、寝ぼけてんのかイザベル、オレたちザフールのクソ野郎のせいで、妙な所に飛ばされちまった

んだぞ」


魂の盟約を結んだドラゴン、ヴィドローネが若干呆れを含んだ声で答える。


「そうだな、ゲットーの森上空でやられたのだな。くくっ、あのザフールにしてはうまいことやるではないか」


「全くのんきなことを、、、、ここから出られなかったらどーすんだ」


「まああせっても状況が好転するわけではないしな。ん、、向こうを見ろヴィド、何か光っておるぞ」


「よしっ! 一か八か飛び込んでみるか」


光をくぐり抜けた彼らが見たものは、眼下に広がる緑の絨毯であった。


「むっ、確かあれは”コメ”とかいう作物を栽培してる田んぼではないか。ここは南方のジュデル王国の

領土なのか?」


フェアリーアイズでも米を栽培している国は存在する。しかし、ヴィドはそのイザベルの考えを否定した。


「いや、違うな、、、、イザベルよ気づかぬか、この地には・・・・・」


「ああ、マナが存在しないな。どうやら我らは、未知の世界に飛ばされたようだぞ」


フェアリーアイズでは空気のごとく存在するマナ、イザベルとヴィドはここが別次元の世界だと直感し、

まずは周辺の観察を始めたのである。


「う~む、、、、見事なほど田んぼばかりだな。王都はどこにあるのだ」


眼下にはこじんまりとした集落がポツポツと存在しているだけだ。地上でもイザベル達に気がついた人々

が、驚きの表情で空を見上げている。中にはひざまづいて祈りを捧げている者もいた。


「おい、向こうに町があるぞ」


「あれが王都が、確かに皇城のような建物もあるな」


イザベルとヴィドは、ルーク皇国皇都に比べれば小規模な町に向かって行った。


慶応4年(1868年)6月、会津松平家23万石の城下町は、突如現れた謎の飛行物体によりてんやわんや

の騒ぎとなっていた。


「な、なんじゃアレは!」


「鳥にしては大きいのお・・・・・」


「バカもん、あれは鳥ではないぞ。まるで龍のようじゃ!」


城下の騒ぎは、鶴ヶ城内にもすぐさま伝えられた。この年の1月、鳥羽・伏見の戦いに端を発した薩長を

中心とする新政府軍と、旧幕府軍との戦闘は5月の宇都宮城での攻防戦を経て、いよいよこの会津の地

に迫ってきたのである。藩内でも戦時体制が組まれる中、突然発生した異常事態の対応に、会津藩は

追われることとなった。


「なんじゃ、! まさか薩長がもう攻めてきたというのか!」


「それが、物見の報告によりますと、まるで龍のようであったと・・・・・」


「ばっかもんっ! 龍なぞおとぎ話の存在じゃ! おおかた鳥でも見間違え・・・・・」


だが、彼の言葉は最後まで続かなかった。天守閣の外にはまさしく伝説の龍と、その背に乗っている人物

がこちらを伺っているのを目撃してしまったのである。


「あ、あれは、、、、弓、いや鉄砲を用意しろ!」


その龍は、天守閣の周りをぐるぐると回っていた。最初パニックに陥っていた城内も、徐々に落ち着きを

取り戻していった。


「何をしている! あれを早く撃ち落とさんか!」


「いやまて、向こうはこちらのことを探っているようじゃ。軽はずみな行為は避けるべきじゃ」


「何を悠長なことを・・・・・」


なおも強硬処置を主張する男の言葉は、中断された。議論する彼らの前に、1人の人物が現れたからだ。

彼の名は松平容保、この会津藩の城主である。家臣たちは一斉に平伏した。


「よいよい、今は非常の時ぞ。楽にせい」


「「「「「ははっ!」」」」」


彼は遠眼鏡を手にすると、天守閣のひさしに向かった。


「殿! 危のうございますぞ!」


「心配は無用ぞ。あちらも危害を加えるつもりなら、もうとっくに行っているであろう」


制止する家臣を抑え、彼は龍とその背に乗っている人物を観察する。


「ふむ、、昔のイスパニアあたりの甲冑に似ているな。しかし、南蛮に龍がおったなぞ聞いたことがないぞ」


そして龍が彼のいる場所に近づいてきた時、思い切って声をかけてみた。


「おーいっ! そなたらは何者だ。降りて話をしようではないか!」


すると、龍の背にいた人物が、天守閣横の広場を指差す。どうやらそこに降りる気のようだ。


「よし、どうやら話は通じるようじゃ。余も向かうぞ」


「しかし殿、あのような妖異じみた輩を相手にするなぞ、危険すぎますぞ。ここはまず我らにおまかせを」


「くどいぞ頼母、余が自ら話をしたいと申しておるのだ。さあ、伝説の龍とやらがどのようなものか、この目

で確かめてみようではないか」


容保は、家老である西郷頼母の意見を一蹴した。実のところ、彼もこれまでおとぎ話の世界でしか存在

しなかった龍が現れたことに、内心ワクワクしていたのだ。それも無理もない。京都守護職を押し付けら

れてからの彼と会津藩は、心の休まる暇もなかったのである。


よかれと思って行動したことが、ことごとく裏目に出てとうとう”朝敵”とのレッテルまで貼られてしまった。

そんな時に現れた伝説の”龍”、容保は良く言えば童心に還り、悪く言えば中二心が全開になったので

ある・・・・・・


「ははは、鬼が出るか蛇が出るか、楽しみだのう」


「殿! そんな早く降りては危のうございますぞ!」


まるでスキップするような足取りで広場に向かう容保、そんな彼を家臣たちはハラハラしながら後を追う

のであった。


幕末タイムスリップ編の始まりでございます。

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