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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第169話 竜騎士の会津観光その1


「ティワナよ、久しぶりであるな」


「お、お姉さまあぁぁぁぁぁっ!」


JR会津若松駅の改札を出て、イザベル一行はティワナと一か月ぶりに再会、感極まったティワナはその

ままイザベルに抱きついた。その瞬間、周囲に百合の花が咲き乱れたような気がしたのだが、きっと気の

せいであろう。


「くんかくんか、久々のお姉さまの匂い、気持ちいいのですぅー」


「ははは、私の匂いなぞかいでも、汗臭いだけじゃないのか」


「いえ、お姉さまの匂いはどんな香水よりも尊いのですぅ。ああ、久々にお姉さま成分補充なのですぅ」


周囲に百合の花が、、、いや、きっと気のせいだ。


そんな様子を苦笑して眺めていた川間が、イザベル達にあいさつをする。


「皆さま、ようこそいらっしゃいました。私はアルファ・オプティック広報部の川間と申します。今回は皆さま

のご案内を勤めさせて頂きますので、よろしくお願いいたします」


川間はあいさつの後、彼女達に今後のスケジュールを説明する。


「今日はまず、野口英世記念館と地元の酒蔵を見学していただき、宿泊はティワナちゃんの家になります。

昔ながらの農家ですから、すごい風情がありますよ」


「この人数でも大丈夫なのか」


「はい、7LDKの間取りですから余裕です」


その翌日は喜多方でラーメンを食べた後、鶴ヶ城や飯盛山など会津市内の観光名所を巡り、夜は東山

温泉でティワナの歓迎会を兼ねて宴会とのことであった。


「え、そんな早い時間からラーメン食べられるんですか」


「”朝ラー”といいまして、大体朝7時頃から開いてるお店が多いですよ」


「へえー、そうなんですか」


その代り、夕方には店じまいする所が多いそうだ。川間の説明を受けた一行は駅を出て駐車場に入った。

駅前にはこの地らしく、白虎隊のブロンズ像や大きな赤べこが設置されている。川間の運転する車に乗った

イザベル達は、まず郷土の偉人、千円札の肖像にもなった野口英世博士の記念館に向かったのである。


幼い頃に囲炉裏に落ちて大やけどを負い、後にその手術を受けたことがきっかけで医学の道に進み、

世界的名声を得てなお研究を続け、黄熱病に倒れたその生涯はあまりにも有名だ。記念館には彼の

遺した業績やその資料、移築された生家などが展示されている。その中でも最もイザベル達の心を打った

ものは・・・・・


「ううっ、、シカ殿の気持ちが文面から、これでもかというくらい切々と伝わってくるぞ」


「グスっ、、帰ったらおかーさんに孝行するよ」


イザベルや綾香が見て涙しているのは、英世の母シカがアメリカにいる息子に宛てた手紙である。田舎

の自分から見たら、雲の上の存在になってしまった英世、「はやくきてくだされ」とたどたどしく綴る文面は、

現代人の心にも響いてくるものがあるのだ。


また、生家の柱には英世が上京する際に刻んだ”志を得ざれば 再び此の地を踏まず”との文が、現在も

残されている。これは、当時の日本人に共通する感覚であった。「坂の上の雲」で描かれた明治人の想い

を、彼も持っていたのである。


さて、記念館を出た一行は磐梯町へと車を走らせた。次の目的地は”東北に酒あり”のキャッチコピーで

有名な、栄川酒造の酒蔵だ。会津にはとりあえずビールならぬ「とりあえず栄川」という言葉があるほど、

会津を代表する地酒のブランドだ。


「うふふふ~酒が呑める酒が呑める酒が呑めるわよ~」


テンションが上がる綾香に、引き気味の一行。


「アヤお姉さま、、、、なんですかその思いっきり人をダメにしそうなワードは」


「綾香よ、もうSLの中で5合は飲んだであろう。まだ足りぬのか」


「あら、あれはアペリティフよ。本番はこれからじゃないの」


そうしれっと答える綾香に、イザベル達は考えることを放棄した。そのやりとりを聞いていた川間は苦笑

しながら話を続ける。


「いや、会津でも綾香さんほど飲む人は少なくなりましたよ。ウチの工場長なんかは酒好きですから、気が

合いそうですね」


「川間殿、今少なくなったとおっしゃれらたが、まだ綾香と同じくらいの酒飲みが存在しているのか」


「ええ、私の叔父もいわゆるハレの日には、2升くらい飲んでますよ」


さすが秋田と並ぶ東北の酒どころ会津だ。きっとDNAが一般の人間とは異なっているのだろう。イザベル

は綾香を含め酒飲み連中を、魔族や真祖バンパイア以上の人外と認識することにしたのであった。


「あら、これ美味しい~、、、あ、すみません、次はコレお願いします」


酒蔵の見学を終えたイザベル一行、次は売店で試飲をはじめたのであるが、綾香は手当たり次第に試飲

という名の飲みを続けている。


「綾香よ、そなたいつまで試飲を続ける気だ」


「ん? もちろん全銘柄コンプリートするまでよ」


さすがのイザベルも、それ以上口を出すことはなかった。隣でそのやり取りを聞いていたティワナとラミリア

も、顔が引きつっている。


「これなら、日本酒苦手な人でも飲めるかもねえ」


そう言って綾香が出してきたのは、栄川の”純米にごり”のカップであった。


「ふむ、、、、確かに香りも心地よいし、飲み口も良いな」


「あ、これ会津以外ではなかなか売っていない銘柄ですよ」


川間の言葉が決定打となり、イザベルと綾香はこれを箱買いすることに決めた。カウンターでいそいそと

宅配の手続きを進めている。ちなみに綾香は純米大吟醸の1升瓶を別に購入していた。今日の寝酒に

するそうだ。


「ほう、ここがティワナの住んでいる家なのか」


「わあ、遠野で泊まった民宿思い出すわねえ」


家に入り旅装を解いた一行、今夜の夕食は隣りに住む川間の両親が用意してくれるそうだ。


「ひゃっほうっ! これはお酒が進むわね」


「お代わりはありますから、遠慮なくどうぞ」


囲炉裏端で一升瓶片手にご機嫌なのは、綾香であった。川間の両親が用意してくれていたのは、山菜や

乾物などを使ったこの地域の郷土料理だ。それがまた、地酒に良く合うときている。特に身欠きニシンを

加工した山椒漬けなどは軽く炙ると、酒の肴として無敵なのだ。


「綾香よ、あまり飲みすぎると明日に差し障りがあるぞ。喜多方行くから早く出るからな」


「ん、大丈夫よイザベル、次の日に残らないよう飲んでるから」


そう言う綾香の顔色は全く変わっていない。そんなこんなで会津観光1日目はの夜は、何事もなく更けて

いくのであった・・・・・


作中に出した栄川の純米にごりですが、日本酒は苦手な人でも「これは飲める」と

言っていた隠れた逸品です。

筆者も会津に行った時は、地元の酒屋で購入しております。


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