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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第168話 魔導師の待ち人来たる


ティワナがアルファ社の磐梯町工場で、アドバイザーに就任してから早1か月、彼女はセンサーや画像

処理エンジンの改良に取り組んでいた。素性は良いものの、いろいろ欠点のあるアフロディーテセンサー

の改良には、正直アルファ社の技術陣も手詰まり状態となっていた。


しかし、そこにティワナの発想が加わることによって、センサーの改良にも一定の成果が表れ始めていた。

それに刺激されるかのように、ボディ本体やレンズの開発陣も次々と新しい素材や加工方法を考案して

いる。この調子なら目標である来年のフォトキナでの発表も、なんとかメドがつきそうな状況であった。


「おや、ティワナちゃんでねいけ。ホラ、野菜余っているから持っていけ」


「はい、ありがとうございますですぅ」


休日に磐梯町をトコトコと散策するティワナに、地元農家のばっさまが声をかけ、野菜を手渡していた。

この1か月の間、ティワナは川間の両親だけでなく、近所のじっさまばっさま達にすっかり孫娘のように

可愛がられていた。最初の不安はどこへやら、完全に田舎暮らしを満喫していたのである。


「あら、ティワナちゃんそのお野菜どうしたの」


「あ、晴美さん、そこの山科さんのところでいただきましたですぅ」


「良かったわねえ。それだけあれば当分お野菜には困らないわよ」


広報の川間ともすっかり打ち解け、今では下の名前で呼び合う仲だ。ちなみに社内でも休憩時間には、

他の社員からお菓子の差し入れが結構あったりする。どうも彼女を見ると、皆お菓子をあげたくなって

しまうらしい。


「でも、お菓子くれるのはいいんですけど、体重が増えてきたのですぅ・・・・」


「ティワナちゃん本当に美味しそうに食べるからね。みんなついあげたくなってしまうのよ」


高校時代からのティワナの小動物的愛らしさは今も健在だ。アルファ社社内でもすっかり愛玩物の地位を

獲得してしまったのである。


「ところで、次の週末でしたっけ。ティワナちゃんのお友達が遊びに来るのって」


「はい、晴美さんにもすみませんが案内をお願いしますですぅ」


「別にいいわよ。でもティワナちゃんが、あのテレビで転んだ子と知り合いだったなんて、世の中狭いわよ

ねえ、、、、、」


「あのー、お姉さまそれものすごく気にしてますから、絶対に本人の前で言わないで欲しいのですぅ・・・・」


なんとこの地でも、イザベルのテレビですっ転んだ件は有名なのであった。それを知ったティワナはそっと

涙をぬぐうのであった・・・・・


「ぶぇっくしっ!!」


「イザベル、風邪でも引いたの?」


「いや、、、今なんか、誰かが私の良からぬ噂をしていたような気がしてな・・・・・」


さすが、歴戦の竜騎士の勘は健在であった。


「そんなことより、来週は久々にティワナちゃんと会えるわよねえ」


「ああ、あやつもアルファ社でずいぶん活躍してるみたいだな。斉木殿の話ではもうすでに、何件も特許

を取得したようだぞ」


「へーそれはすごいわねえ。もう大金持ちじゃないの」


そんな話題で盛り上がるイザベルと綾香、今ここにはいないがラミリアも、一緒に会津に出かける予定で

ある。その翌週、イザベル達一行は新潟県はJR新津駅にいた。会津に行くのになぜ新潟まで遠回りした

かというと、週末に磐越西線新津-会津若松間で運行している”SLばんえつ物語号”で、SLの旅を楽し

もうという目論見である。


「へえ、これがSLなんですか。電車とはずいぶん違いますですわ」


ラミリアは初めてのSLをしげしげと眺めている。”SLばんえつ物語号”の機関車はC57形180号機、幹線

用の急行旅客用として製造され、そのスマートなデザインから「貴婦人」の愛称で親しまれているSLだ。

SLばんえつ物語号の走行区間は100Kmを越え、現在の日本の動態保存SLとしては最長の走行距離

を誇る。そのため、展望車や子供向けのフリースペースも用意され、乗客を飽きさせない工夫が凝らされ

ている。


『間もなく、SLばんえつ物語号会津若松行き、発車いたします』


汽笛一声、イザベル一行を乗せたSLばんえつ物語号は、会津若松に向けて定刻通りに発車した。


「そういえば、SLに乗るのは秩父以来だな」


「そーねー、今回はあの時より乗ってる時間長いのよね」


乗り鉄ではない綾香は、早くも長時間の乗車にうんざりしかけていたのだが・・・・・


「いやー、まさか列車内で地酒の飲み比べができるなんて、最高だわ!」


「アヤお姉さま、、、、もうお代わりされてるのですか・・・・」


「ラミリアよ、綾香はザルだからな。気にしたら負けだぞ・・・・・」


車内の売店では、地酒やおつまみとのセットメニューも販売されている。何杯もお代わりした綾香は、

すっかりご機嫌であった。さて、列車は五泉を過ぎるといよいよ沿線のハイライト、阿賀野川沿いへと分け

入っていく。大正時代にこの地を旅した田山花袋が、


「球磨川、富士川などよりももっと美しい」


と感嘆した光景は、今も変わらず旅人の目を楽しませてくれる。そうこうしている内に列車は津川駅に

到着、給水のためしばらく停車している間、イザベル達もスタッフにSLとの記念写真を撮ってもらったり

と、すっかりSLばんえつ物語号の旅を楽しんでいた。


津川駅を出発した列車は、山あいの小さな駅日出谷に到着、周囲は典型的な農家が立ち並ぶのどかな

農村風景だ。なおこのあたりのお米は魚沼コシヒカリに匹敵する品質を誇る、隠れた逸品である。


「前はここで、駅弁売ってたそうよ」


「確か幻の駅弁、と言われていたそうだな。ぜひ味わってみたかったぞ」


SLが走り始めた当初、日出谷駅の”とりめし”はその素朴な味わいが人気であったが、後継者難のため

残念ながら販売をやめてしまった。こんな所でも過疎化高齢化の影響は出ているのだ。


さて、列車は渓谷沿いを抜け福島県側に入ると、青々とした田んぼが広がる田園地帯を走っていく。そば

で有名な山都を過ぎると、沿線のハイライトである一の戸鉄橋を渡る。完成当時は東洋一と讃えられた

この鉄橋は絶好の撮影ポイントとなっており、多数のカメラが向けられていた。


そして蔵とラーメンで有名な喜多方を過ぎ、列車は終点会津若松駅へと到着した。いよいよ久々にティワナ

とのご対面と、楽しい会津観光が・・・・・


「ぐふふふ、栄川に会津ほまれに花春に、、、、、待っててね~」


約1名、楽しい呑み比べが待っているのであった・・・・・


※参考書籍

 磐越西線 会津ローカル線の旅 歴史春秋社刊


本当は、あっさり会津に着く予定のはずでしたが、つい趣味に走ってしまいました(汗)


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