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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第164話 暴発の代償


”ふむ、、、、”


北の工作員に囲まれたイザベル、常人なら慌てふためくところだが、歴戦の竜騎士は動じることなく状況

把握に努めたのである。


”しゃべっているのはリーダー格か、それから私の後ろに8人、全員訓練を受けた兵士だな”


イザベルは短時間の内に、相手の戦力分析を終えていた。そんな彼女に拉致部隊のリーダーは、少し

苛立ちを募らせた口調で再び話しかけた。


「いつまで黙っているのかな。先ほども言ったが手荒な真似はしたくないのでね。我々に大人しくついて

きてくれないか」


「全く、、、、そなたらレディを誘うならそれなりの手順があるというものだろう。一体どこの無粋な連中だ。

まあ想像はついているがな」


イザベルの挑発するような言葉に、リーダーの男は一瞬顔色を変えたものの、すぐ彼女の背後にいる

部下に視線で取り押さえるよう指示を出した。いつぞやのチャイニーズマフィアとは違い、さすがは訓練

された特殊部隊の兵士たちだ。彼らはイザベルに気取られぬよう迫ったのだが、


「がっ!」


「ぐはあっ!」


イザベルは、自分の両脇を押えようとした2人のみぞおちに、リーダーの方を向きながら正確に突きを

食らわした。そして、護身用に持っていた伸縮式の警棒を構える。


「くっ、甘く見ていたか! 多少のケガは構わん、取り押さえろっ!」


「ふっ、この私を取り押さえようとするなら、大隊クラスの兵力は必要だぞ」


リーダーの指示でスタンガンなどを手に、一斉にイザベルに襲いかかる兵士たち。だが、彼女はその

攻撃をするりとかわし、警棒で次々を無力化していく。


「な、なんだこの動きは、まるでダンスのような・・・・・」


拉致部隊のリーダーは、思わずイザベルの剣技に見惚れてしまう。それはまるで、次々とパートナーを

代えながら踊るワルツのようであったから。


「そんなバカな! 我が国の精鋭たちがこんなにあっさりと、、、、」


「ふむ、残るは貴殿だけか。さて、どうするつもりかな」


時間にしてわずか1分弱であっただろう。銃は持っていなかったとはいえ、格闘戦の訓練を積んできた

兵士たちをあっさり無力化したイザベルに、リーダーは驚愕した。しかし、彼はまだ奥の手を残していた。

少し離れた茂みの陰に、麻酔銃を持った部下を用意していたのである。


「ぎゃあっ! 熱いっ!」


「えっ、、、、」


イザベルの手から炎が飛び出し、部下は茂みから転がり出てきた。その光景をみたリーダーは呆然と

してしまう。


「これはファイヤアローという攻撃魔法だ。飛び道具は貴様らの専売特許ではないぞ」


「もはやここまでか、、、、我が民族に栄光あれっ!」


覚悟を決めたリーダーは、ナイフを手に今度は本気の殺意をもって、イザベルに斬りかかる。だがそれも

むなしい抵抗であった。彼女はそれを紙一重でかわし、男の背後に回るとその意識を刈り取った.


「きゃあっ! どうしたのこれっ!」


「け、警察だ! 警察を呼べ!」


公園内での騒ぎに気がついた通行人や近所の住人たちが、倒れてうめき声を上げている男たちを見て

慌てふためいている。ほどなくして到着した警官にイザベルは事情を説明し、即座にこの件は官邸にも

報告されたのであった。


・・・・・その翌日、鈴木家の居間は先日にも増して重苦しい空気と怒気に覆われていた。怒気の発生元

は達夫と良枝である。その前では吾妻と斉木がこれ以上はないという位の、ザ・土下座を決めていた。


「これは一体、どういうことですかね。他国の工作員がまたイザベルを拉致しようなどと」


「吾妻さん、斉木さん、ベルちゃんはついこの前悲しい目に遭ったばかりなのですよ。それなのに今回は

追い打ちをかけるようなことを、、、、せめて、変な国の警戒くらいしっかりして頂けないものですか」


二人の怒りに、吾妻と斉木はただただ頭を下げることしかできなかった。政府としても、今回の件は完全に

北に裏をかかれたようなものだ。捕えた工作員の自供から、彼らが少しずつ疑われないように異世界人

拉致の準備を進めていたことが明らかになったのだ。


「北と日本の商社との合弁会社が、隠れ蓑になっていました。それから、イザベルさんのバイト先だった

コンビニから、藤島と名乗る人物が行方をくらましています。どうも彼はイザベルさんを監視する役目を

負っていたようですね。言いにくいことですが、今なら恋人とのトラブルが理由で失踪したと、偽装できる

と踏んでいたとのことです。イザベルさんの筆跡に似せた書き置きまで準備していましたよ」


斉木が、これまでに得た情報を鈴木家の面々やテレビ画面の向こうにいるダリウスたち、そしてフレルや

ルレイにも説明していく。フレルたちはまたまた聖女様の一大事、ということで、視察予定を繰り上げF市

にやってきたのである。


「吾妻殿、それで聖女様に害をなそうとした、不敬な国へはどのような対応をとられますか」


「まずは姫さん拉致の責任者をこちらに引き渡すよう、要求することになるな」


「国連でも非難決議を出すよう、アメリカ始め各国と調整しているところですね」


だが、それを聞いたフレルやルレイはため息をついて、不満気な表情だ。


「吾妻殿、それは対応が甘すぎるのではないですか。今後このようなことを企てる気が起きないよう、

徹底的に代償を払ってもらうべきではないでしょうか」


『フレル殿の言う通りだ。吾妻殿、今回の件相手の軍事基地の一つや二つ、叩き潰すくらいでなければ

釣り合いが取れぬほどのことだぞ』


何やら話がキナ臭くなってきたので、吾妻や斉木は慌てて軍事行動は最後の手段で、まずは経済制裁

で締め上げることなど必死に説明した。


「そうですか、、、日本国がそういう方針なら仕方ないですね」


フレルの言葉に吾妻や斉木は納得してくれたか、と安堵したが、すぐにそれは間違いであったことを思い

知ってしまう。


「本国とも協議の上、我がブライデス王国は”北”とかいう無頼の国家に、宣戦布告することを決定しました」


「王国軍だけでなく、クレアブル各国が連合軍を北に派遣いたします」


「フレル殿下、今こそベルお姉さまへのご恩を返す時、北への一番槍はぜひこのラミリアに」


「おのれら、やめんかあぁぁぁぁぁっ!」


イザベルの叫びが鈴木家の居間に響き渡る。それを聞いていた吾妻と斉木も唖然とした表情だ。なんか

以前も見たような光景だ。デジャブである。


『フレル殿よく決断してくれた。よし、ガイナスよ我がルーク皇国も北に軍を派遣するぞ! 竜騎士団、

魔導師団、重装突撃騎士団全軍で出撃じゃあぁぁぁぁぁぁっ!』


「父上も尻馬に乗っかるのはやめいっ!」


『うふふ、地球世界なら私も軍に復帰しても、問題ないわよねえ』


「母上も落ち着いてくれっ!」


その後、イザベルの”地球にはマナもないのに、こっちにきてどうやって帰るつもりだ”など、必死の説得

により、フレルやダリウスは北への軍事行動を渋々諦めたのである。危うくゲ○トの世界が現実になる

ところであった。


「姫さん、ありがとう。おかげで異世界戦争は避けられたよ、、、、」


「血の気の多い親ですまぬな、、、、、」


なんとかいきり立つ異世界組をなだめることができ、イザベルや吾妻、斉木はお互い疲れ切った表情だ。

そのため、


「まあ、この代償は北に、きっちり支払ってもらうけれどね」


との良枝の呟きは、誰にも聞こえることがなかった・・・・・


イザベルの拉致未遂から10日後、北の政府首脳部はお通夜状態であった。日本政府の発表を受け国連

では全会一致で北への非難決議が採択、更に各国も相次いで資本の引き上げを表明、ようやく軌道に

乗ってきた国家再建は、たちどころに暗礁に乗り上げることとなった。


「四谷商事が、合弁企業の解消を通達してきました」


商社側は、”犯罪の隠れ蓑にするとは何事か”と激怒し、提携を解消したのである。他の日本企業も北から

順次撤退を表明している。だが、暴発の代償はこれだけにとどまらなかった。


「リ閣下、大変です! 海軍基地でフリゲート艦、潜水艦数隻が爆発、沈没状態とのことです!」


「空軍基地の格納庫で爆発です! 我が軍の戦闘機の大半が、巻き込まれました!」


代償の催促に、死神がリ達の元に近づいていた。


虎の尾を踏んでしまった”北”、終了のお知らせ。

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