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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第163話 北の暴発


「先輩っ! 今までお疲れさまでした」


「うむ、私も今までずいぶんと世話になった。礼を言うぞ」


5月の連休明け、イザベルはバイトしていたコンビニを今日で退職することとなった。来年に向けて試験

勉強に本腰を入れるためである。


「まあ、イザベル君なら油断しなきゃ大丈夫だと思うから、頑張ってな」


「そうっスね~、、、、滑らなきゃ大丈夫っスよ」


と、最後の最後までお調子者の丸尾が茶々を入れてきたので、イザベルは最大威力のファイヤランスを

ぶちかました。


「先輩~、丸尾さん何か炭化しちゃってますよ」


「裕美よ心配は無用だ。どうせすぐ復活するからな」


消し炭になった丸尾をツンツンと突きながら尋ねる裕美に、イザベルはすげなく答えた。


「しかし、ここに置いておくと店内が焦げ臭くなってしまうな」


「すまない吉田殿、すぐ廃棄物置き場に移動しておくぞ」


最後まで、とってもなごやかな職場であった。


「うううっ、みんなひどいっスよ~、なんで誰も心配してくれないっスか~」


「ほらな、すぐ復活しただろう。こやつの生命力は真祖バンパイア以上だぞ」


「先輩、、、、それじゃ丸尾さん人外じゃないですか・・・・・」


「まあ、丸尾君も余計な一言が多いからな。いい加減反省した方がいいぞ」


炭化状態からすぐ復活した丸尾、イザベルの言う通り人外以上の再生能力である。そんな彼に周囲は

”自業自得”と冷たい視線を送るのであった・・・・・


「まったく、最後の最後まで人の黒歴史を茶化しおって、、、思わず本気の攻撃魔法を放ってしまったぞ」


「あはは、まあ丸尾さんも悪い人じゃないんだけどねえ。一言多いのよね」


自宅に戻ったイザベルは、綾香にグチをこぼしていた。なんだかんだ言ってもオーナーの人柄もあり、

働きやすい職場ではあった。


「ところで、京子は大学を辞めたそうだな・・・・・」


「ああ、あんな泥棒猫のこと、イザベルが気にする必要はないわよ」


バイト先の事とは違い、イザベルが声を落としてかつての友人のことを話すが、綾香はまだ怒りが納まって

いないようでキツイ口調となっていた。なお、佐野の両親からはお詫びの訪問があったのだが、明本人は

なしのつぶてである。


「おとーさん、おかーさんも本人の謝罪でなければ意味がないと、お詫びの品も突っ返したしね」


「あの時は、少し彼らに同情してしまったがな、、、、」


イザベルは達夫と良枝の剣幕に追い返され、肩を落として帰る佐野の両親の後ろ姿を見て、同情の念を

抱いてしまったようだ。


「あんた、、、本当にお人好しすぎるわ。そんなんじゃまた男にだまされて痛い目みるわよ」


「いや、さすがに明本人のことは許してはおらぬぞ。しかしいい大人のやったことだ。もう親の責任では

ないだろうと思ってな」


「そういう風に、育てた責任はあると思うけどね」


イザベルと綾香の話は平行線だ。イザベルは”そうか”とうなづいてこの話題を終わらせた。彼女本人と

しても、佐野との事はさっさと忘れて未来に向けて歩みだしたいのだ。


「それで、綾香はまだバイトは続けるのか」


「うん、もう内定ももらっているし、年内は続ける予定だよ。オーナーからも当分はいてくれと、泣きつかれ

ちゃったしねー」


綾香は来年、有名商社の総合職として採用が決まっている。しばらく社会での仕事を経験して、その後

政治家への道を歩むつもりのようだ。


「斉木さんからも、政治家を目指すにしても実社会で揉まれてからの方がいいと、アドバイス受けてるし」


政治家に限らず二世○○が何かとやらかしてしまうのは、幼い頃からチヤホヤされ他人の飯を食った経験

が無いからだろう。コンビニのバイトを勧めたことといい、斉木のアドバイスは当を得たものであった。


「綾香は明日、深夜のシフトだったな」


「うん、イザベルは大学でしょ。私帰るのは朝になるよ」


「わかった。私は帰りに有紀たちとお茶していくぞ」


翌日、大学の講義を終えたイザベルは友人達と近くのカフェで、しばしのおしゃべりを楽しんでいた。彼女達

も佐野や京子のことは知っていて、イザベルに気を使っていたのだが、


「はは、皆もそんなに気を使わんでいいぞ。あれは良い人生経験だったと思うことにするよ。ところで京子

はどうしたか、知ってる者はいないのか」


「うーん、、、、あの子田舎に戻ったらしいよ」


その後は他愛のないおしゃべりを続け、イザベルが彼女達と別れたのはもう夜の9時過ぎであった。


「ふう、さてと、、、、」


イザベルのマンションは繁華街からは離れた閑静な住宅地だ。彼女はすっかり夜も更け人気のなくなった

公園に入り、ベンチに腰かけた。すると、イザベルが1人になるのを待っていたかのように、どこからともなく

現れた複数の人影が、彼女を取り囲んだ。


「鈴木イザベルさんだね。おとなしく我々についてきてもらいたい。抵抗しなければ身の安全は保障しよう」


ついに”北”が民族の世界制覇という幻想に囚われ、異世界人拉致という暴発を起こしてしまったのだ。


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