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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第157話 竜騎士の鎌倉物語


「では、ようやく政府の許可が下りたということか」


「ええ、5月の皇国との会議で、ダリウス陛下たちにも紹介することで調整しましょうか」


3月の半ば、内閣府の会議室でイザベルと斉木が打ち合わせを行っていた。議案はもちろんイザベルの

恋人である佐野の扱いについてだ。彼女と結婚ということは、日本がイザベルの故郷である異世界の国、

ルーク皇国と連絡を取り合っていることも開示する必要がある。佐野の身辺調査や関係機関との調整も

完了し、この度異世界側の両親ともあいさつをするところまでたどり着いたのだ。


「その前に、まず日本側のご両親に佐野さんの紹介をしてもらう必要がありますね」


「わかった、明にも都合のいい日にちを聞いておこう」


なお、佐野の両親にもイザベル側からあいさつに行くが、そちらには皇国との交流については開示しない

ことで決定した。それにしても、鈴木家だけでなく異世界の家族にも結婚の承諾を得なければならない

とは、ハードルの高さが倍になったようなものだ。


「ところで、綾香さんとヴィドローネさんは正式にお付き合いを始めたとか」


「ああ、いろいろあったがすっかりアツアツカップルだぞ」


スキー旅行では大ポカをやらかしたヴィドであったが、その後頑張った。本当にものすごく頑張った。

その後めでたく結ばれ、達夫と良枝にも正式に交際の報告を行っている。機密保持の点では問題は

なかったのだが・・・・・


「ヴィドのやつ、達夫とーさんと良枝かーさんから”娘を不幸にしたら、どうなるかわかっているだろうね”と

言われて震えあがっていたな・・・・・」


「ああ、あの時のお二人は怖かったですね・・・・・」


イザベルと斉木は、その時のことを思い出して遠い目をしてしまう。数多の戦場を経験した歴戦のドラゴン

でさえ萎縮してしまうのだ。果たして、一般人の佐野が耐えられるかどうか、イザベルは全力で彼の援護

をすると、心に誓ったのであった。


それから約2週間後、イザベルと佐野は桜満開な鎌倉にやってきた。久々に2人だけでデートを楽しもう

との目論見だ。休日は混むだろうとわざわざ平日に休みをとってきたのだが、春休み中ということもあり

鎌倉駅前はなかなかの賑わいだ。


「まずは、鶴岡八幡宮から行こうか。小町通りを通っていくか」


「いや、けっこう混雑しているから表の方から行こうか。帰りは小町通りから駅に向かおうよ」


「そうか、、、、ちょっとお店をのぞいてみたかったのだがな・・・・・」


小町通りには飲食店やスィーツの有名店、雑貨店などが立ち並び、訪れる者を飽きさせない通りだ。

イザベルも楽しみにしていたのだが、こちらは帰りまでおあずけである。


「む、これはこんにゃく石鹸だと。確かに感触はこんにゃくそのものだな」


しかし若宮大路の方も小町通りに負けず劣らず、バラエティー豊かな店舗が軒を連ねている。イザベルは

その中のこんにゃく石鹸の販売店に足を止め、この時期の限定品である桜エキス入りの石鹸を早速購入

した。もちろん、綾香や鈴木家の分も込みである。


「お、これが有名な大銀杏の株か」


「でも、若芽も出ているね。すごい生命力だよ」


「確かに、かすかだがマナの残滓を感じるな。さすが千年の歴史を誇るだけのことはあるな」


かつて源実朝を暗殺した公暁が隠れたという伝説のある大銀杏、2010年に強風のため倒れてしまったの

だが、その株からは若芽が生えている。これから千年後、かつての姿に蘇った時再び伝説になるのかも

しれない。


「さてと、参拝も済んだしまずはこれ、はんなりいなりだな」


桜見物もそこそこに、さっそく買い食いに走るイザベルであった。だがそれも仕方がないことだ。この近辺

はそれだけ目移りしてしまうほど美味しそうなお店が多いのである。


「おお、これはお肉が口の中でとろけるようだぞ」


「うーん、ぼくも初めて食べたけど、ここまで美味いとは思わなかったよ」


ランチはちょっと贅沢して、葉山牛のステーキだ。ここは客の目の前で鉄板焼きにしてくれるスタイルで、

じゅうじゅうと音を立てて焼ける匂いが食欲をそそる。普通ならここで満足して、次の観光スポットへと

向かうところなのであるが・・・・・


「イザベル、まだ食べるのかい・・・・・」


「はっはっはっ、明よ何を言っているのだ。甘いものは別腹、というであろう」


「そうなの・・・・」


やや呆れた表情の佐野の目の前で、イザベルはフレンチトーストをほおばっていた。ここは日本初の

フレンチトースト専門店で、本場同様の外側はカリっと、中はふわっふわに仕上げたトーストが名物で

ある。ブランド牛に続いてデザートも堪能したイザベル、実に幸せそうな表情だ。2人は鎌倉駅に戻り

江ノ電で次の目的地、長谷に行こうとしたのであるが・・・・・


「明、ここソーセージ専門店だぞ。少しつまんでいかないか」


「いや、僕はもうお腹いっぱいだよ。これ以上食べたら夕食が入らなくなるよ」


イザベルはまだまだ食べ歩く気満々であった・・・・・


ソーセージに未練たらたらのイザベルをなだめすかして江ノ電に乗せた佐野、本当に女性のご機嫌取り

をしなければいけない男性は大変だ。


「む、この電車床が木でできているぞ」


運よくイザベル達が乗車した車輛は、江ノ電最古参の300形だ。現在は1編成2両しかないレア物である。

かつての江ノ電らしさを残している形式として、現在でも一番人気を誇っている。長谷で下車したイザベル

と佐野は、次の極楽寺までプラプラと散策を楽しむこととした。


「ここの桜も満開であるな」


長谷から少し歩くと御霊神社前の踏切に到着する。近年も人気テレビドラマの舞台になり、ロケ地めぐり

の観光客で賑わっているスポットだ。


「6月には、あじさいも見ごろになるそうだよ」


「うーむ、、、、その頃また訪れてみようか」


御霊神社を後にした2人は、極楽寺坂切通を極楽寺方面に向けて進んでいく。現在は大勢の観光客が

そぞろ歩いている地であるが、かつては新田義貞の軍勢と鎌倉幕府軍が激戦を繰り広げた古戦場で

ある。イザベルはふと立ち止まり、すっと瞑目する。


「ん、どうしたのイザベル」


「いや、、、、こうして目をつむると、かつてこの地で戦い続けていた荒武者達の姿が目に浮かんできてな」


「ふーん、、、、、」


佐野にはそれほどの感慨は湧かないようであった。これは一般人の彼と、竜騎士として戦場に立ってきた

イザベルとの感覚の差であろう。彼女もこれ以上のことは口にせず、極楽寺駅前に到着した。


「これは何とも、、、、可愛らしい駅であるな」


このこじんまりとした木造の駅舎は、関東の駅100選にも選定され観光客が絶えないところだ。この駅の

近所には江ノ電の車庫があり、年1回”タンコロまつり”というイベントが開催されている。タンコロの愛称

で親しまれた江ノ電の保存車輛の公開や模型の運転、体験コーナーやグッズ販売などで大勢の人を

集めており、今ではすっかり沿線の名物イベントとなっている。


さて、イザベルと佐野は極楽寺から再び江ノ電に乗車、今日の最終目的地である七里ヶ浜に向かった。


「わあっ!」


稲村ケ崎を過ぎたあたりで、車窓を眺めていたイザベルは思わず歓声を上げた。彼女だけではない、

車内の乗客も皆、車内から見る風景に目が釘付けになったり、スマホを向けたりしている。この辺りから

江ノ電のハイライト、相模灘を望む区間に入るのだ。輝く海面の中、大勢のサーファーが波乗りを楽しんで

いる光景は、まさに湘南そのものだ。


「さてと、今日は夕日も期待できそうだな」


七里ヶ浜で下車した2人は、近くのリゾートホテルにチェックインした後荷物を置いて、海岸近くの駐車場

へと足を運んだ。イザベルがここを訪れるのは、綾香や高校時代の友人たちと海水浴に来た時以来、

2度目である。彼女は、自分の腕を佐野の腕にからませ、そっと肩に顔を寄せた。


「明よ、、、しばらくこうしていてもよいか」


佐野は無言で頷いた。前回、イザベルが願った今度は愛する人と共に夕日を見ることが、ようやくかなった

のである。彼女は今、幸せの絶頂にいたのだ。


今話は鎌倉デートの参考になるよう書いてみました。登場するお店はいずれも実在します。

なお、サブタイの元ネタは映画、、ではなくサザンの有名曲です。


・蒟蒻しゃぼん鎌倉総本店(こんにゃく石鹸)

・鎌倉はんなりいなり小町本店

・マザース オブ 鎌倉(葉山牛ステーキ)

・LONCAFE鎌倉小町通り店(フレンチトースト専門)

・腸詰屋鎌倉(自家製ソーセージ)

・鎌倉プリンスホテル(七里ヶ浜のリゾートホテル)


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