第151話 ゲレンデにロマンスの神様は降臨するか(その1)
無事ガーラ湯沢駅に到着したイザベル達一行、改札を出て早速スキー場の受付を行うのであった。ここは
駅と直結しているので、移動の手間がなく利便性が高いのだ。
「私は、スキーにしますですぅ」
「わたくしもですわ」
ティワナとラミリアはスキーの方を選択した。ストックのないスノーボードは恐怖心があるようだ。
「ヴィドよ、すまぬが2人の面倒を見てやってくれぬか」
「うむ、わかった、我もスキーにするぞ」
イザベルと佐野、小野夫妻はスノボを選んだ。
「それじゃ、私もスノボにするわ」
「いや、そなたはスキーにした方が良いぞ」
「え、なんで・・・・・」
スノボを選ぼうとした綾香だが、イザベルの言葉に疑問の声を上げた。
「スノボ組は私と明、そして小野夫妻だ。綾香よ、そなたこの中に入るつもりか」
「ぐっ・・・・・」
確かに、二組ともゲレンデが蒸発しそうなバカップルだ。その中に独り身の綾香が入ってしまったら・・・・
「我々だけではない、皆が心ゆくまで冬のレジャーを楽しんでいる時に、暗黒神だか魔神だか降臨されては
迷惑だからな」
「なら、1人で滑るわよ」
「おいおい、、、1人寂しく滑っても楽しいのか。せっかく湯沢まできたというに。それにティワナやラミリアの
世話を、ヴィド1人に押し付けるつもりか」
「わかったわよ! 独り者はおとなしくスキーに行きます!」
ムっとした表情の綾香は、ドスドスとスキー用具レンタルの受付に向かっていった。その姿を見送った
イザベルは、そっとヴィドに耳打ちする。
「ヴィドよ、私にできるのはここまでだ。後はそなた次第だぞ」
「わかった、、、、イザベルよ感謝する」
一行はお昼に合流することを約束し、それぞれのコースへと別れていった。
「うぎゃあぁぁぁぁっっ! 止まれっ! 止まりなさいですぅぅぅぅっ!」
「ふにょおぉぉぉぉっ! そこの方どいてくださいましぃぃぃっ! ぶつかりますですわあぁぁぁっっ!」
「2人とも! 大丈夫かっ!」
予想通りというかなんというか、初心者のティワナとラミリアはボーゲンでもなぜか高速滑降になって
しまい、最後は雪ダルマ状態になってしまったのである。
「ほら、こうやって滑るんだ。止まる時はこうだぞ」
「うう、、、、駄竜に教えを乞う時が来ようとは、このティワナ一生の不覚ですぅ・・・・」
「異世界の遊びが、こんなに命がけだとは思いもしませんでしたわ」
「綾香よ、すまぬが2人に教えるのを手伝ってはくれまいか」
「ええ、いいわよ」
こうして、ヴィドと一緒にティワナとラミリアにスキーの手ほどきを始める綾香、しかし、彼女は必要以上の
言葉を口にすることはなかった。こうしている内に、ゲレンデの他の客の中にはヴィドの存在に気づく者も
現れた。
「えっ、もしかしてヴィドローネさんですか。一緒に記念写真撮らせて頂いてもいいですか」
「すまぬが、今は知り合いに教えている最中でな」
そうファンの女性の申し出を断ろうとするヴィド、だが、綾香は、
「あら、2人の面倒は私が見ますから、ファンサービスも大事でしょ」
「そうか・・・・・」
そうして、きゃいきゃい騒ぐ女性たちと写真を撮ったり、サインをしたりとファンサービスに務めるヴィド、
対して綾香は何の関心もないというふうに、スキーの手ほどきを淡々と行っていく。ティワナとラミリアは
その様子を、複雑な表情で見ているのであった。
「それでどうだ、そなたらは滑れるようになったか」
「ええ、アヤお姉さまとヴィドさんのおかげで何とかそれなりには」
「まさか、駄竜に感謝する日がくるとは思わなかったですぅ・・・・・」
ランチタイムにレストハウスで合流した一行は、新潟名物のタレカツ丼などを食べながら午前中の話題で、
なごやかな時を過ごしていく。
「綾香はどうだ、楽しかったか」
「うーん、それなりには・・・・・」
綾香は歯切れの悪い返事を返した。午後はそれなりに滑れるようになったティワナとラミリアを見守りつつ、
これまた淡々と滑降を繰り返すのであった。ヴィドは時折彼を目ざとく見つけたファンにサービスしながら、
綾香はそれに全く関心がない風に、といった塩梅である。夕方になり、再び合流した一行は近くのホテル
にチェックイン、温泉で疲れを癒した後はお楽しみの夕食だ。
「このお肉、お口の中でとろけそうですわ」
「さすが、名産の村上牛だな」
そろそろ締めの料理という時に、ウェイトレスが彼らのテーブルに近づいてきた。
「お客様、締めのお料理は手打ちそばとイタリアンのどちらかがお選びできますが、いかがいたしますか」
「イタリアンって、、、何ですか」
「それはですね・・・・・・」
ウェイトレスがイタリアンとは何ぞやと、かくかくしかじかと説明した。それは純然たるイタリア料理ではなく、
やきそばにトマトソースをかけたものらしい。ウェイトレス曰く、”新潟県民のソウルフード”とのことだ。
長岡出身の彼女も物心ついた時から、地元有名チェーンのイタリアンを食べて育ったという。
「あら、結構おいしいわねこれ」
「うーむ、、、やきそばにトマトソースが合うのかと思っていたが・・・・・」
地元愛にあふれたウェイトレスに敬意を表し、全員イタリアンを選択したのだが思いの他好評であった。
それにしても、ナポリにないナポリタンとか、天津にない天津飯とか実は創作料理が多い日本国である。
・・・・・さて、そんな話題でなごやかに時が過ぎてゆき、そろそろ部屋に戻ろうかという頃、
「んー、、、私今日は帰るね。今ならまだ新幹線間に合うし」
綾香が、特大の爆弾を投下した。