第147話 竜騎士のうれしはずかし朝帰り
「イザベル、、、、頼むから服を着て・・・・・」
「む、そうか、明がそう望むなら仕方がないな」
ようやく鼻血の止まった佐野は、イザベルにそう懇願した。落ち着いたところで朝食を共にしたのであった。
「それにしても明よ、ずいぶんと具合が悪そうではないか。大丈夫か。仕事で疲れているのではないか」
「ん、そうだね、アハハハ・・・・・」
心配するイザベルに乾いた笑いで答える佐野、確かに彼の頬はゲッソリとこけ、目の下にはクマができて
いる。まるでアンデッドかサキュバスに精気を吸われたかのような有様であった。対するイザベルはお肌
ツヤっツヤな状態だ。
「うむ、今日はこれでお暇するぞ。じゃあ体に気をつけてな」
「うん、イザベルも帰り道気をつけて」
彼女としては、朝食後にもう一回愛を確かめ合いたいところだったのだが、佐野の具合が悪そうなので
おとなしく帰ることにしたのだ。パタンとドアが閉められた後、佐野は玄関先で崩れ落ちてしまった。
「はは、オレ、彼女と付き合っていつまで体持つかなあ・・・・・」
よく頑張ったよ、お前は・・・・・
さて、イザベルの方はというと、ルンルンウキウキ気分で家路へとついていた。街並みは朝の慌ただしい
雰囲気だ。彼女はふと開店前のブティックのショーウィンドウ前に足を止め、そこに映る姿を眺めていた。
「うん、さすがにまぶたが少しむくんでいるか。ふふ、人が見たら朝帰りだとわかってしまうな」
マンションに戻ったイザベルは、深夜勤務で先に帰っている綾香を起こさぬよう、そろーっと自室のドアを
開けた。だがその瞬間、彼女は自室に充満しているこの世の恨みつらみ妬みを凝縮したような、これまで
経験したことのない瘴気を感じて慌ててドアを閉めようとした。しかしその時、部屋の中からまるで黄泉の
国から響いてくるような、呪詛混じりの声がイザベルを呼び止めたのである。
「・・・・お帰りイザベル、うふふ、夕べは お 楽 し み で し た ね」
「ひ、ヒィっ!!」
イザベルが思わず悲鳴を上げるのも無理はない。爽やかな朝だというのに部屋のカーテンは閉め切られ、
リビングに佇む綾香の前のテーブルには、どこで手に入れたのかおどろおどろしい燭台に灯されたローソク
と、これまたおどろおどろしい装飾のナイフ、ワラ人形などが置かれていたのである。
「あ、綾香よ、、、、そのいかにも邪気に満ちた小道具な何なのだ・・・・・」
「うふふ、これから全世界のリア充共に向けたサバトの儀式を行うのよ。さあ、暗黒神よ我に降臨せよ!」
「やめんかあぁぁぁぁぁっっ!」
相変わらず朝からにぎやかな2人である。ともあれ、その後1時間程のすったもんだの末、イザベルは
ダークサイドに墜ちかけた綾香を元に戻したのであった・・・・・
「・・・・・あれ、今まで私何してたんだっけ?」
「綾香よ、そなたマジで世界を滅ぼす勢いだったぞ・・・・・」
イザベルは、世界平和のため本気でヴィドを応援しようと決心した。
「そっかあ、、、、イザベルは一足先に大人への階段を昇ってしまったのね、ああ、恨めしや妬まし・・・・」
「綾香よ、頼むから暗黒神だか魔神だかの降臨はやめてくれまいか」
おそらく、本物の暗黒神とやらの方がまだマシであろう。本当に恐ろしいのは人間である。
「で、でさ、一体どんな感じだったの」
「それがな、明のヤツ、朝はまるでアンデットかと思うほどやつれておってな・・・・・」
「えっ・・・・?」
綾香もなんだかんだいってこういう事にも興味津々なお年頃である。しかし、イザベルの話を聞いてそんな
に激しかったんかい、と思ったのだが、事実は更に想像の斜め上を飛んでいたのである。
「実はな、せっかくだからこの本に書いてあったことを全部試してみようと思ったのだが」
イザベルが取り出した本は、”秘技 江戸の四十八手”というタイトルであった。
「半分を超えたところで、明が完全にダウンしてしまってな。途中から精力回復の術式をかけたのだが、
もうそれも効かんようになってしまったのだ」
「・・・・・イザベル、そんな魔法一体誰に教わったの?」
「イリスからだが」
”ウフフ、魔王さまが元気ない時は、いつもこの術式かけているのですよ”
「ということだ。まあ1回につきユン○ル10本分くらいの効果があるらしい」
「イザベル、佐野さん魔王じゃないから! 普通の人間だからね!」
イザベルは綾香の言うことが理解できず、首をひねるばかりである。
「いやあんた、せっかくできた彼氏早死にさせたいの」
後でイリスからも、
「イザベルさん、アレ普通の人に3回以上使ったら、副作用で死ぬ可能性ありますよ」
と言われ、顔面蒼白になったとさ。
次回は、親バレ?