第144話 竜騎士、覚悟を決める
”単なるお友達で終わってしまうわよ”
綾香のその言葉は、イザベルに矢のように突き刺さった。自分が佐野に対して友情以上の気持ちを抱いて
いることは明らかだ。だが、それを口に出してしまうことでこれまでの関係が壊れてしまうのではないか、
そのことを彼女は無意識の内に恐れていたのだ。
「イザベルはどうなの、佐野さんのことどう思っているの」
「どうって・・・・・」
「だから、ぶっちゃけ愛しているか、愛してないか、ていうことよ」
その質問に、イザベルはまたしばし考え込んでしまう。それを見た綾香は苦笑して、
「まあ、さすがにあんたも好きでもない人と何回もデートしないでしょう。答えはおのずと出ているんじゃ
ないの」
「正直に言うぞ、これまで私は男性と付き合ったことがなかったからな、自分の明に対する気持ちが本当
に恋愛感情なのか、自信が持てなかったのだ。だが、今確信した。私は明と一緒になりたいぞ」
「じゃあ、早いとこ告白しちゃいなよ。佐野さんもイザベルに惹かれているのは間違いないからさ」
綾香の言葉にイザベルは驚いた表情を見せる。
「え、そうなのか。まあ友人くらいには思っているだろうとは感じていたが・・・・・」
「あんた、それちょっとニブいわよ、、、、傍から見ても佐野さんイザベルに好意丸出しだったものね」
綾香は恋愛ごとにもパープーなイザベルに苦笑する。今現在でもイザベルと佐野は他人から見れば、
リア充爆発しろなイチャつきぶりなのだ。
「よし、次のデートでは明に自分の気持ちをぶつけてみるぞ。万が一受け入れられなかったら、この聖剣
”ガレル”で共に果て、冥府にて結ばれようぞ!」
イザベルはそう言って、オリハルコンの聖剣”ガレル”を顕現させた。
「ちょっと待った! あんたそれヤンデレじゃないの。いつからそんなキャラになった!」
「ははは、まあこれは冗談だ。だが一世一代の告白をするのだ。今、私は初陣を迎えた頃のように闘気が
高ぶっておるぞ」
その言葉通り、イザベルの周囲には白銀のマナの輝きが現れている。綾香は”神様、どーか事件になる
ことなく、うまくいきますように”と、神に祈ったのであった。
それから2週間後、イザベルは佐野と都内の映画館で話題の映画を鑑賞していた。デートの定番恋愛物
ではなく、アクション物というのが彼女らしいチョイスである。
「いや、すごい迫力だったねえ」
「ビルの爆破シーンで主人公と人質が脱出するところなど、思わず手に汗を握ってしまったぞ」
鑑賞後レストランでディナーを楽しみながら、先ほど観た映画の話題で会話は盛り上がる。いつもならこの
後は近くの駅でお別れなのだが、
「明よ、ちょっと話があるのだが少し時間をもらってもかまわないか」
「う、うんいいけど、、、、今ちょっと怖い感じがしたよ」
「あ、すまぬ、、、、」
無意識の内に、つい威圧をかけてしまったらしい。2人はレストランを出て駅の途中にある公園へと入って
いった。イザベルはここで愛の告白を目論んでいたのだが・・・・・
「おうおう、この寒い中見せつけちゃってくれてんじゃねえの」
「オレたち、懐も寒くってさあ」
「へへへ、そちらのねーちゃんに暖めてもらってもかまわねえぜ」
髪の毛を金髪に染めピアスをした、いかにもな連中が2人の前に現れた。いい所を邪魔されたイザベルは、
”こいつら、切り捨ててくれる”
と密かに戦闘準備をしたのだが、
「君達何をするか! イザベル、ここはぼくが食い止めるから、駅前の交番に逃げてくれ!」
佐野がイザベルとチンピラの間に立ちはだかったのだ。
「おいにーちゃん、女の前だからっていいカッコ、、、えっ!」
「うっ、、、」 「ああっ、、、、」
チンピラ達はヘナヘナと腰が抜けたように地面に座り込んだ。股間からはアンモニア臭のする液体が漏れ
出している。佐野の後ろにいたイザベルが、彼らに思いっきり殺気を放ったのであった。
「え、こいつら一体どうしたの?」
「さあな、今の内に警察に通報しよう」
少ししてパトカーが到着、チンピラ連中はこの近辺でカップル狩りを繰り返していた札付きであった。佐野が
警官に事情を説明している間、イザベルは彼らに悪魔のごとき微笑を浮かべて話しかけた。
「さて、貴様らよくも私の邪魔をしてくれたな」
「ひ、ヒィっ!」
「い、命だけは助けてください!」
「貴様ら、これまでそう嘆願する者たちをいたぶってきたのだろう。人に危害を加えるのなら、自分もいつか
同じような目にあう覚悟をしておくべきだったな」
イザベルは先ほどよりも更に強い殺気を彼らに放った。戦場で敵軍に向けるものと同等だ。それをまともに
受けたチンピラ達は、白目を剥き口から泡を吹いて失神してしまった。
「イザベル、事情説明終わったよ、、、あれ、なんで彼ら失神してるの?」
「さあ、天罰でも下ったのではないか」
2人は後を警官にまかせ、近くの喫茶店で休憩することにした。
「全く、とんだいい迷惑だったよ」
「そうだな、だがあいつらのおかげで明のカッコいい所が見れたぞ。ふふ、そこだけはあのチンピラに感謝
せねばなるまいな」
しかしその時、佐野はイザベルの手を握り締め、安堵の息を吐くのであった。
「本当に良かった、イザベルが無事で、、、、君に何かあったらもう一生後悔するだろうと、無我夢中だった
んだ・・・・・」
「明、私もそう簡単にやられるほど、、、、えっ!」
佐野はイザベルの隣りに移動すると、彼女をギュっと抱きしめた。その腕はわずかに震えている。
「本当に、本当に、君を失いたくない一心だったんだ!」
「明・・・・・」
更に佐野からは、イザベルが待ち望んでいた言葉が飛び出してきた。
「イザベル、君が好きなんだ! 愛してる!」
言ってしまってから、佐野ははっとした表情になった。
「あ、、、、ごめん迷惑じゃ、、、」
しかし、彼の言葉は続けることはできなかった。イザベルが彼の唇を自分の唇でふさいだからだ。
「明よ、これが私の答えだ」
「イザベル・・・・・」
2人はあらためて唇を重ね合わせた。ようやくイザベルと佐野は、その想いを通じ合わせたのである。
さて、ようやく主人公にも春がやってきました(長かった・・・・)
これからは少し、いちゃらぶな描写が多くなるかもです。