第13話 新たな家族
「と、いうことなんだ。ウチがこの子のホストファミリーに政府から選ばれてね」と達夫がこれまでの
経緯を説明する。
都心部からほどよい距離で目が届くこと、同い年の娘がいること、家長もまじめな警察官で評価が
高い、もろもろの条件が一致したらしい。
「もちろん強制というわけではない。無理だと思ったら拒否してくれてもかまわないよ。まあ受け入れ
てもらえるのなら学費は政府から援助するので、家計の負担は心配しなくてもいいからね」
吾妻が補足説明をした後、イザベルの方を向いて真剣な表情で問いかけた。
「で、姫さんの方はどうかな。こちらのご家族と一緒になりたいかな」
この後は、イザベル自身の言葉できちんと話しなさい、ということだ。彼女は鈴木家の面々を見渡した
後、意を決して口を開いた。
「私は皆も承知の通り、、、、別の世界からやってきた、この世界では異物のようなものだ。
無骨な騎士ゆえ、話かたもぞんざいだ。でも、こんな私で良ければ鈴木家の一員として迎え入れて
いただけることをお許し願いたい、、、、いや、よろしくお願いします!」
イザベルがすっと頭を下げた。達夫は目をつむりしばし黙考した。そして、
「私はこの子を家族として迎え入れてもかまわない、と考えている。良枝、綾香と聡はどうかな、
彼女と家族の一員として、やっていけそうか?」
「私もいいと思うけど、2人はどう?」
綾香はイザベルの方を向いた。そして、拒否されるのではないかと不安な表情の彼女に対し、太陽に
向かって咲くひまわりのような笑顔を向け、
「うん、いいよ! 私たち家族だよ。一緒に仲良く暮らそうね。わたしのことは綾香って呼んでいいからさ」
「アヤ姉がいいならオレもいいよ」
「ありがとう、、、、本当にありがとう、、、、、」
イザベルはこの世界にやってきて初めて、心からの嬉し涙を流したのである。
「ふう、姫さん良かったな。これでオレも肩の荷が下りた気分だぜ」
「イザベルよ、”魂の盟約”を結んだ者として、新たな家族ができたこと心から祝福するぞ」
ここで綾香が”あれ”という表情で疑問を口にした。
「そーいえば、このドラゴンさんは日本でどーなるの?」
これにはイザベルが少し暗い表情で答えた。
「ヴィドはこのF市の市役所に勤めることになっているのだが、、、、しかし、誇り高き高位のドラゴンが
見世物になるなど、私にはまだ納得がいかない」
F市はこれといった名所も名産品もない町だ。そこで市役所ではドラゴンで町おこしをしようと目論んで
いるのである。姉妹都市との交流イベントなどで子供たちを乗せて飛んだり、グッズ類の販売などを
計画しているらしい。
「イザベルよそう暗い顔をするでない。我も血なまぐさい戦場にいるよりも、この平和なところで子供たち
の相手をしている方が心が安らぐぞ」
「まあヴィドが納得しているならかまわんが・・・・・・・」
話は今後のことに移る。
「部屋の片付けと家財道具はどうしようか」と達夫。
「ああ、2Fの空き部屋ですね。それなら人手はもう用意していますよ。ベッドや勉強机など必要な
家財道具を積んだトラックを近くに停めてありますから。すぐ作業に取り掛かれますね」
と斉木。さすが切れ者の官房長官、仕事が早い。鈴木家の面々も手際の良さに目を丸くしている。
しかしなぜ、他人の家の間取りを把握しているのだろうか、国家権力怖い。
そうこうしている内に、時計の針は11時を回っていた。
「あら、そろそろお昼だけど、業者さん入るんじゃ準備が、、、、、」と良枝。
「ここはとーさんが見てるから、みんなは外でとってくるといいよ」と達夫。
「おとーさんそれじゃ宝来軒にいっていい? イザベル、とってもおいしいラーメン屋があるのよ。
あ、首相さんたちも一緒にどう?」
一国の首相に対し、全く物怖じしない綾香に達夫も、「こっ、こら、首相に失礼だぞ」と注意する、が、
「ははは、これは将来大物になりそうな御嬢さんだなあ。斉木君、時間は十分あるだろ」
「はい首相、綾香さん、そのラーメン屋さんそんなにおいしいの?」
「うんっ! ここのラーメン食べたらもう他の店にはいけないですよー。ラーメンだけじゃなくてチャーハンや
餃子も絶品なの!」
そして一行は、ご近所のラーメン屋に向かうのであった。ここでイザベルは、生涯に渡って愛し続けた味に
出会うのである。