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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第132話 正月に忍び寄る影


「おつかれさまでしたー」


「おつかれさまです。皆も良いお年を」


大晦日、今年最後の勤務を終えてコンビニを後にするイザベル、元旦には綾香と一緒にF市の自宅に戻る

予定である。今回の正月は警察官である達夫も非番であり、久々に一家勢揃いで新年を迎えることとなって

いる。


「おや、雪が降り出してきたな」


「電車止まらなきゃいいけど・・・・・」


マンションで年越しそばをすすっていた2人は、外には雪がちらついているのに気がついた。とにかく東京は

雪に弱い。20cm程度の積雪でも交通網は麻痺してしまうのだ。明日、鉄道が動いていることを祈りながら

2人は床についた。


「おお、一面の銀世界だな」


前日の夕方から降り始めた雪は一晩中降り続き、翌朝は完全な雪景色となっていた。テレビのニュースでは

足元を気にしながら初詣でに向かう人々の映像が、映し出されていた。


「電車は動いているみたい。良かった」


スマホで運行情報を検索していた綾香がほっと息を漏らす。多少の遅延はあったものの、2人は無事F市の

自宅へと戻ることができたのである。


「クゥーン、クゥーン」


「おお、ジークリフトよ出迎えてくれたのか」


愛らしい子犬に迎えられながら、イザベルと綾香は自宅へと入っていった。しかしこの子犬が異世界では、

天災級モンスターとして恐れられていた存在であるとは、誰も思わないであろう・・・・・


「「ただいまー」」


「あら、お帰りなさい。外は寒かったでしょう。中は暖房強くしているからね」


そう良枝に迎えられた2人は、居間へと入っていった。


「ベルお姉さま、アヤお姉さま、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたしますわ」


そうお上品に新年の挨拶を行うラミリア、だがその出で立ちは、上下ジャージにどてらを着込んでコタツから

首だけ出しているという有様であった。いわゆるコタツムリ状態である。


「お姉さま、綾香さん新年おめでとうございますですぅ」


先に遊びに来てたティワナも服装こそよそ行きだが、ラミリア同様コタツムリ状態だ。


「そなたら、あいさつの時くらいコタツから体を出さんか、、、、まるで干物女みたいだぞ」


「だって、寒いのは苦手なんですぅ、、、、、」


「さすが異世界ですわ。このように身も心も虜にしてしまう魔導具が存在するとは。わたくし、一生コタツから

逃れることはできませんわ」


「いや、これ魔導具じゃなくてただの暖房器具だから」


さすがのイザベルも呆れて物が言えない。ふと庭を見ると雪景色の中、ニールがジークリフトと追いかけっこ

をして遊んでいた。まさに”犬は喜び庭駆け回る”な光景だ。


「ニールを見習わんか。元気に遊んでいるではないか」


「うう、こんな寒いのに信じられませんですう、、、、」


「あの若さがうらやましいですわ・・・・・」


イザベルが”2人とも十分若いだろう”と完全に呆れかえっていた時、ニールがトコトコとやってきて声を

かけた。


「ラミリアお姉ちゃん、ティワナお姉ちゃん、一緒に雪ダルマ作ろうなのじゃー」


「ティワナはこれから冬眠に入りますですぅ」


「同じくですわ」


つれない返事でコタツに潜り込む2人に、ニールはしょんぼりした様子で”2人とも、妾と遊ぶのが嫌なの”

と呟いた。


「そ、そんなことないのですう、ささ、雪ダルマ作りましょう」


「そ、そうですわ、だからそんな涙目にならないでくださいまし」


ウルウルし始めたニールを見たティワナとラミリアは、慌ててコタツから這い出てきた。そして、ブルブルと

震えながら雪ダルマ作りを始めたのである。それが完成した頃に良枝がお雑煮を居間に持ってきた。


「さあさ、みんなお雑煮できたわよー」


鈴木家の雑煮は鶏肉を出汁にしたすまし汁仕立てである。みんなハフハフ言いながら舌鼓をうつ。


「ニールちゃんのところは、どんなお雑煮にしているの」


「うん、ラーメンスープを使った中華風なのじゃ」


「それも美味しそうだな。午後になったら宝来軒にも顔を出してみるか」


なごやかに時が過ぎるお正月、集まっているのは異世界の竜騎士に魔導師団長、公爵令嬢に魔王と

フツーでない顔ぶれなのだが、もはや完全に日本に馴染んでしまっている。


「それじゃあ、みんなにお年玉だよ」


「わあ、ありがとうございます」


「ありがとなのじゃー」


達夫が子供たちにお年玉を配り始める。イザベルと綾香は最初働いているからと固辞していたのだが、

良枝からの


「おとうさんね、あなた達にも親らしいことしてあげたいんだから、受け取って」


との言葉で、ありがたく受け取ることにしたのであった。


「ラミリアにニール、それにティワナに聡よ、これはささやかながら私と綾香からのお年玉だ」


イザベルと綾香からもお年玉が配られる。ティワナなどは


「お姉さまからのお年玉、、、、このティワナ家宝として子々孫々までお伝えいたします!」


と大感激の面持ちであった。


「いや、、、現金だから何かに使った方が良いぞ」


苦笑するイザベル、じつになごやかなお正月だ。日本全国で似たような光景が見られているはずだ。あの

事態が発生するまでは・・・・・


「あれ? テレビの画面変わったよ。誰かチャンネル変えた」


「いや、変えてないぞ・・・・・」


画面はこれまでの正月のお笑い番組から一変、臨時のニュース番組へと切り替わっていた。緊張した表情

でアナウンサーが原稿を読み上げる。


『”北”で軍部強硬派によるクーデターが発生、現在首都近郊にて政権側との激しい戦闘が行われています。

繰り返します、”北”で軍部強硬派による・・・・・』


新年早々、波乱に満ちた一年になりそうな予感を感じさせるニュースであった。


おまけ

「ハフハフ、本当にこのお餅というもの美味しいですわ」

「同じくなのじゃ」

「二人とも、あまり急いで食べるとのどに詰まって窒息死するぞ」

「ベルお姉さま、食べ物で窒息死するなんて、そんな驚かそうとしても通じませんですわよ」

「いや、お正月にはよくお年寄りが餅をのどに詰まらせて、死亡するニュースが流れてるわよ」

「アヤお姉さままでそんな・・・・」


だが、その時テレビのニュースからは・・・・・


『〇×県△町の〇〇さん85歳が、餅をのどに詰まらせて救急車で運ばれましたが・・・・』


「ラミリアよ、真実であっただろう」

「あの、なんでこの国の人たちはそんな危険な物食べているのですか・・・・・」

「まあ、猛毒のあるフグまで食べる国だからな」

「・・・・・・・・・・・・・」


その後ラミリアは、お雑煮のお代わりを躊躇したのであった。


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