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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第131話 全ての人に、メリークリスマス


「ほお、そなたが聖女として召喚されるとは・・・・・」


「姉上が聖女ですか・・・・・」


「む、何だか含みのある言い方だな」


日本国東京都F市、鈴木家の居間では、今年最後の日本とルーク皇国との定例会議が行われていた。

話題は先日別の異世界クレアブルに聖女として召喚された、イザベルのことである。


「だってねえ、、、あなたが信仰の対象だなんて、ちょっとイメージがつかないのよ」


「うむ、こういってはなんだが、パープーなイメージが強すぎるのでのう・・・・」


「ぐぅっ、、、、」


と、口をとがらせるイザベル、だが、思い当たる節が多すぎるので反論できない。だが、意外なところから

助け舟が入った。今回初参加のラミリアである。


「ダリウス陛下、リーゼ皇妃様、でもわたくし達がベルお姉さまに救われたのは、事実でしてよ」


そして彼女は、イザベルのおかげでクレアブルが魔王の脅威から救われたこと、悪しき貴族主義に染まって

いた自分や魔王であるニールにも、やり直しの機会を与えてくれたことを説明した。


ラミリアの指摘にダリウスやリーゼ、ユリウスなどルーク皇国側の面々も納得した表情だ。


「・・・・・そうか、我らの思っていた以上に、そなたも成長していたのだな」


「あなたが異世界の民をも救ったこと、私も誇りに思いますよ」


自分の娘の成長を、ダリウスやリーゼも素直に喜んだ。


「ところでティワナよ、プレッシャーをかけるつもりはないのだが、皇国と日本が行き来できるようにはまだ

ならないのかのう、、、、クレアブルとは人だけでなく、そちらの兵器まで一緒に運べたのであろう?」


プレッシャーをかけるつもりはないと言いつつ、実際はかけまくりなのはブラック企業の常とう手段である。

その話を振られたティワナは難しい顔をして答える。


「それが、クレアブルとの間は元々あちらの召喚術式で通路が開いていた状態なので、無理やりマナを

注ぎ込めば2~3回は転移が可能でした。皇国とは一方通行な状態なので、日本からそちらに行ける道路

を建設しないと確実に行き来ができないのです・・・・・」


最初の勇者召喚でたまたま日本とつながったため、クレアブルとは行き来が可能になったそうだ。まだまだ

皇国と日本との双方向からの通行には、時間がかかるようだ。


「まあその件については、来年度から人員を大幅に増やしてティワナさんのサポートをしますから、研究も

進むと期待していますよ」


と、斉木もさりげなくプレッシャーをかけてくる。彼女の大学生活は研究一色の灰色な状況決定のようだ。


「これこれ、皆あまりティワナに圧力をかけるでない。こやつまた涙目になってるではないか」


「うう、お姉さまの心遣いが身に沁みますですぅ・・・・・」


微妙な雰囲気になったところで、イザベルが話題を変える。


「ところでもうすぐクリスマスだな。ラミリアやニールは初めてだな」


「はい、アヤお姉さまからも聞きました。何でも恋人同士が誰はばかることなく、イチャイチャする日だとか」


「・・・・・綾香よ、そなた何をラミリアに吹き込んでおるのだ」


綾香は自分の手を頭に乗せ、舌を出した。いわゆるテヘペロである。そんな彼女を一同はジト目で見つめる。


「アヤちゃん、あんまり偏ったことラミちゃんに教えないでね。でもまあ今年は人数も増えたから、賑やかな

クリスマスになるわね」


だが、良枝のそんな言葉にイザベルと綾香からは、意外な返事が返ってきた。


「あ、すまぬ良枝かーさん、今年のイブはバイトなのだ」


「うん、私もなの、ごめんね」


「えっ! 2人ともどうしてなの」


動揺する良枝にイザベルと綾香は、いつも深夜勤務の同僚に、イブくらいは家族と一緒に過ごさせてあげ

ようとシフトを肩代わりしたと説明した。


「・・・・・そう、それなら仕方がないわね。でも、あなた達もいつの間にか、そんな気遣いができるように

なったのね」


若干の寂しさは否めないが、娘達の成長はうれしく思う良枝であった。そしてクリスマスイブ当日、コンビニ

の店頭にはサンタ風のハッピを羽織ったイザベルと綾香の姿があった。


「クリスマスケーキ販売してまーす。ドリンクもセットでお得ですよー」


飛ぶように、というほどではないが、そこそこの売れ行きだ。


「クリスマスケーキくださいなのじゃー」


「あら、ニールちゃんここまできてくれたの?」


「うん、ラミリアお姉ちゃんも一緒なのじゃ」


良枝からも、どうせなら2人のバイトしてる店で買ってきて、と頼まれたそうだ。初めてクリスマスケーキを

買ったニールはニコニコ顔だ。


「えへへ、今夜のサンタさんからのプレゼント、楽しみなのじゃ」


その様子を見ていたラミリアが、そっとイザベルと綾香に耳打ちする。


「ドラコさん、今日のためにサンタの衣装購入したみたいですよ」


「あやつもすっかり、いいパパになりおったな・・・・・」


ニールはドラコやイリスだけでなく、宝来軒の先代店主夫妻からも実の孫娘のように可愛がられている。

今夜は店も早仕舞いして、家族水入らずでクリスマスを楽しむそうだ。


「では、わたくし達はこれで」


「うむ、正月は実家に戻る故、達夫とーさん、良枝かーさんにもよろしくと伝えてくれ」


ラミリアとニールがF市に戻ると、すっかり日も落ちて星空が見えてくる。だが、ケーキの販売はこれからが

本番だ。家路に急ぐ人々にイザベルと綾香は呼び込みをかける。売り上げもだいぶ伸びておりイザベルは

在庫の補充を後輩に指示した。


「先輩、この分なら仕入れたケーキは完売しそうですよ」


「早い時間に売り切れることはないか」


「もうすぐ追加の発注分が届きますから、大丈夫です」


ほどなくして店前にトラックが停まり、ドライバーが追加のケーキを納品した。


「はい、では受け取り書にサインお願いします」


「うむ、今日はそなたらも大変であろう。これはささやかながら我らからのプレゼントだ」


イザベルはドライバーを労うと、缶コーヒーを差し出した。


「いえいえ、それはお互いさまですよ。ではメリークリスマス」


「そなたも道中気をつけてな、メリークリスマス」


ドライバーは缶コーヒーを受け取ると、クリスマスで賑わう繁華街を後に、次の納品先へと向かっていった。


「裕美さんお疲れさまっス。シフト交代しますっス」


「はい、ではみなさんお先に失礼いたします」


まだ高校生の裕美はここで勤務終了だ。替わりに丸尾がシフトに入った。


「ほお、これは昨年より売り上げ伸びてますね。オーナーも喜ぶっスよ」


「ははは、我らが本気になれば造作もないことだ。この店の記録を作ってやるぞ」


「ただ、これから酔っ払いが多くなるんで、気をつけてくださいっス」


丸尾の言葉通り、足元のおぼつかない者がちらほらと増えてきた。それだけならいいのであるが、他人に

からんでくるのは困りものである。案の定、イザベル達にもその手の(やから)が寄ってきた。


「ねえちゃ~ん、仕事なんてやめてオジサンとつきあわない」


イザベルが嫌悪感を露わにして、その手を振り払おうとした時、


「はいはい、他人に迷惑かけちゃダメでしょ」


「な、なんだてめえらは」


「さ、そこの交番で頭冷やしましょうね」


その酔っ払いは、パトロール中の警官2人に両脇を確保された。


「すまぬな、助かったぞ」


「いえ、今日はこういうのが多いですから、何かありましたらすぐ通報してください」


警官はまだギャーギャー喚く酔っ払いを抱え、交番へ戻っていった。その様子を見ていた綾香が呟く。


「おとーさんも今日勤務だったよね、、、、やっぱり、今みたいな酔っ払い相手にしているのかなあ・・・・・」


「恐らくな、私は今、達夫とーさんへの尊敬の念を新たに強めたぞ」


「うん、そーだね。正月帰ったら肩でも揉んであげなきゃね」


日付も変わり、終電の時間も過ぎると客足もめっきりと少なくなった。2人は店頭のケーキ販売台を店内に

仕舞って、店内の勤務へと戻った。


「おはようございます。ケーキの販売おつかれさまでした。今回は2人のおかげで昨年の売上を上回ったよ。

ありがとう」


この時間に出勤してきたオーナーから、イザベルと綾香は労いの言葉を受けた。オーナーはこの時間から

昼までのシフトに入る予定だ。オーナーといっても深夜勤務に入らないと店は回らない。コンビニ経営の

辛いところである。


「いや、この前のサルの件ではご迷惑をおかけしたからな。せめてもの罪滅ぼしができて良かったぞ」


そして、イザベルと綾香はバックヤードで休憩に入った。何とはなしに点けたテレビからは、日本各地の

クリスマスの様子が流れていた。


『福岡市のイベントでは、サンタのコスプレを着たドラゴンが子供たちを乗せ・・・・・』


「お、ヴィドのやつがニュースに出ておるぞ」


「よくあんな、大きいサイズのサンタの衣装作ったよね・・・・」


画面にはサンタの衣装を着て白いヒゲまで付けたドラゴンが、子供を乗せて飛んでいる姿が映し出されて

いた。このクリスマスも各地のイベントに引っ張りだこらしい。それからも各地のクリスマスを楽しむ映像が

続き、それを見てまったりとしていた2人だったが、海外のニュースに変わった瞬間表情がこわばるので

あった。


『内戦が続くS国では、難民キャンプに政府軍が爆撃を行い子供たちを含む多数の死傷者が・・・・・』


『テロが相次ぐヨーロッパの各都市では、厳戒態勢のクリスマスを迎えています』


そしてテレビには、ケガをして泣き叫ぶ子供やクリスマスのイルミネーションの前で自動小銃を構え、警戒

する兵士の映像が映し出される。


「人がいる限り、どこの世界も争いは絶えぬものよのう・・・・・」


そう嘆息するイザベルに、綾香はかける言葉を見つけることができなかった。休憩時間が終わり再び勤務

に戻る2人、深夜に納品された弁当類などの品出しを行い、夜明け頃に勤務を終了したのであった。


「おつかれさまでしたー」


「おつかれさまっス」


退勤し自宅に帰る2人を、朝日が照らす。イザベルはふと、有名な曲の一節を口ずさむのであった。


War Is Over If You Want It


War Is Over Now・・・・・


今話は畏れ多くも、ジョン・レノンのあの名曲をモチーフに書いてみました。

ちなみに筆者はクリスマスは深夜勤務です・・・・・


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