第12話 平凡な日常の終わり
色々な意味で衝撃的だった記者会見から4日後、東京都F市の鈴木家ではありふれた日常の生活が
営まれていた。竜騎士関連のニュースも報じられることが少なくなり、世間の関心は市場の移転問題や、
某元都知事の参考人招致などの問題に移っていったのである。
そんな平凡な日の朝、
「じゃ、とーさん、かーさん行ってくるね」鈴木家の長男、聡は中学校に登校していった。
「おとーさん、おかーさん、私も行ってくるね。でもおとーさん今日は仕事じゃなかったの?」と綾香が問う。
「ああ、何でも署長が話があるからってウチにくるらしい」と達夫。
「いったい、何の用事なんでしょうねえ」と首をかしげる良枝。
「ふーん、まあいいや。じゃ、行ってきまーす」
「「行ってらっしゃーい」」
ここまではごく普通の、どこでも見られる一般家庭の朝の光景であった。綾香たちが出かけてしばらくした
後、鈴木家の前に数台の黒塗りの車が停まるまでは・・・・・・・
綾香の通う高校は、自宅から徒歩15分ほどのところにある都立F西高等学校、特にスポーツが強いわけでも
なく、かといってコンクールに入賞するような合唱部や吹奏学部があるわけでもなく、ごくごく平凡なフツーの
公立校である。
今日はなぜか駐車場に見慣れぬ黒塗りの車が駐車していたが、綾香は気に留めることもなく教室に
入っていった。
「もうホームルームの時間だけど、先生遅いねえ、、、」「何かあったのかな?」
綾香たちのクラスの担任は10分ほど遅れて教室に入ってきた。
「みなさん、今日は終日臨時の教員会議を開くことになりましたので、1日自習になります」
「え、ホント!」「ヤッター!」
とたんに騒がしくなる教室内、担任の教師はゴホンと咳払いをし「静かに」と告げ、
「それから鈴木綾香さん、あなたは今日はご自宅に戻ってください」
「え、先生何で?」
「ご自宅に行けば、わかります」
てくてくと帰宅する綾香、途中で弟の聡とばったり出くわした。
「あれ、サトシ学校はどうしたの」
「うん、今日は家に帰れって言われた。アヤ姉もそうなの?」
「うん、いったい何だろうねえ」
自宅の前までくると、そこにはスーツ姿の数人の男たちが立っていた。そのうちの一人が綾香たちに
気づき、写真と2人を見比べて、
「ご家族の方たちですね。どうぞお入りください」
「うん、、、おじさん達何者なんですか?」
まだ20代の彼はおじさん呼ばわりに軽くショックを受けたが、表情に出すことはなく、
「失礼しました。私たちは警視庁のSPです。詳しいことは中で説明させていただきますので」
綾香と聡は狐につままれたような表情で自宅に入った。
「SPって偉い人の護衛だよねえ」「なんで一般ピープルのウチにそんな人たちが」
そう話しながら居間に入っていくと。そこには先客が座っていた。上座には達夫と良枝が何とも
言えない表情で、その横には達夫の勤める警察署の署長、下座には男性と女性が2人ずつ、
という配置であった。
「ああ、お子さんたちも揃いましたね。あらためて自己紹介をいたしましょうか」
下座の女性が声をかけ、他の者も一斉に綾香たちの方を振り向いた。初対面だが、見覚えの
ある顔だ。一人は日本国首相である吾妻、そしてもう一人の金髪の少女は・・・・・・・
「「あぁ-------------っ! こないだテレビでコケた子だぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
「そ、そのことは、忘れていただけるとありがたい、、、、、、頼む一生のお願いだ」
金髪の少女は、顔を真っ赤にしながら何とか言葉を絞り出した。