第122話 獣王の陥落
「イザベル様、ペルメに到着いたしましたぞ。明日は恐らく魔王軍が侵攻してくると思われます。本日は少し
でもお休みになられるよう・・・・」
「ふむわかった、その言葉に甘えるとしよう」
だが、イザベル達に休息の時は訪れなかった。前線の砦から急を知らせる魔信が届いたのである。
「天災級モンスター1体が境界を突破! まっすぐこのペルメに向かっております!」
「何! 急すぎるぞ」
「おのれ、我らの到着に感づいたか」
そうわらわらと迎撃態勢を整える王国側、イザベルはその様子を泰然自若な様子で見守っていた。
「早速お出迎えがきたか、よし、この聖女の力その天災級とやらに、とくと見せつけてくれようぞ」
イザベルには全く気負いも恐れもない、その様子を見た王国側も、落ち着きを取り戻すのであった。
「くっ、何と強大なマナの波動だ!」
「これが天災級か!」
「皆の者うろたえるな! 聖女様は平静でおられるぞ!」
やがて、天災級はその姿をペルメに現した。
「くはは、我こそはフェンリルの王、ジークリフト、矮小なる者どもよ、覚悟するがよい!」
だが、かつてのアールネス王国軍」とは違い、鍛え抜かれたフレル達は憶することなくフェンリルの前に
立ちはだかった。
「ふん、我の姿を見ても恐れぬか、だが、それが蛮勇であること思い知らせてくれようぞ!」
だが、ジークリフトの勢いもここまでであった。彼の視線の先には、忘れようにも忘れられない、あの悪魔の
ごとき女性が微笑んでいたのだから・・・・・
「ほう、久しいなジークリフト、息災であったか」
その姿を見たジークリフトはすぐさま踵を返し、魔王領に逃げ帰ろうとした。しかしそれは叶わぬ夢であった。
イザベルの拘束魔法により、彼は囚われの身となってしまったのである。
「ふふふ、久々の再会なのにつれないではないか。ティワナにこの術式習っていた甲斐があったぞ」
「あ、ああ、、、、」
フェンリル王の威厳はどこへやら、完全に怯えているジークリフトに、王国側の面々も唖然とした表情だ。
「頼む、我を見逃してくれたら、もう二度と人族に危害は加えないと誓うぞ!」
フレル達にそう嘆願するジークリフト、だが、、、、、
「おお、聖女様は魔物にまで、慈悲をお与えになるのか」
「殿下、ここまでくると逆に魔物に嫉妬してしまいますな」
すでに聖女の信者と化しているフレル達には通じなかった・・・・・
「さあ、ジークリフトよ、夜は長い、存分に楽しもうではないか」
「い、いやあぁぁぁぁぁぁっっ!」
何やらR18なセリフを口にしながら、イザベルはジークリフトをペルメの宿舎にまで引きずっていく。そして、
自室の中に放り込むのであった。
「イザベル様、ではまた明日に」
「おそらく明朝は魔王軍本隊も境界を超えるであろう。皆も英気を養うが良いぞ」
「ははっ! ありがたきお言葉、我ら感謝の言葉もありません」
そうして、パタンとドアは閉められた。まるで広間のような部屋に残されたのは、イザベルとフェンリルの王
ジークリフト、ガタガタと震える彼に、イザベルは邪神のような笑みを浮かべて近づいていく。
「この部屋には防音の結界を貼っていてな、そなたが泣こうが喚こうが、外に洩れることはないのだ。ふふ、
私なしではいられない体にしてやるぞ」
「どうか! どうか! お慈悲をっ!」
聖女とは思えぬ鬼畜系なセリフを吐くイザベルに、泣きながら懇願するジークリフト、だが、彼の願いが聞き
入れられることはなかった・・・・・・
翌朝、イザベルはジークリフトを伴ってフレル達の前に現れた。彼女はすっかり満足しきった表情で、お肌も
ツルっツルな状態だ。
「ジークリフトよ、気持ちの良い朝であるな」
「ハイ、ゴシュジンサマ」
棒読みで答える彼の目に生気はなく、自我も感じられない状態だ。
「さすがは聖女様、あのフェンリルをも浄化されるとは」
「このフレル感服いたしましたぞ!」
王国側の面々は、口々にイザベルを讃えるのであった。昨夜何があったのかは、知る者はいない・・・・・
「境界守備隊より連絡です! 魔王軍約2万は境界を越え、アコンガ平原まで進出! 守備隊は遅滞戦術
をとり、ペルメ近郊まで撤退しております!」
「ついにきたか、まだ王都から本隊も到着していないというに」
「アコンガ平原が決戦の場になるな」
急報にざわめく王国側、しかしイザベルは一切動ずることはなく、王国軍を鼓舞する。
「よし、このイザベル”聖女”の力をもって、魔王軍を浄化すること神に誓うぞ! 皆の者、恐れることはない、
我に続け!」
「「「「「おおーっ!!」」」」」
まるで戦女神の如きイザベルの姿に、王国軍の士気は最高潮に達した。クレアブルにとって500年ぶりの
魔王軍との戦いが、幕を開けたのである。
魔王とともに500年ぶりに復活したジークリフト、再び囚われの身になりました。