第11話 波乱の記者会見
西暦201X年3月1日、イザベルたちが日本に向けて記者会見を行う日がやってきた。今2人が滞在している
ホテルのバンケットホールがその会見場だ。
「イザベルさん、ヴィドローネさん、今まで本当におつかれさまでした。今日の記者会見も頑張ってくださいね」
「うむ、私たちがここまでこれたのも西川殿、大山殿のおかげだ。深く感謝するぞ」
2人の研修も終わり、西川と大山は本日を持ってイザベルたちの護衛を離れることとなった。イザベルは
西川達にこれまでのお礼にとプレゼントを手渡した。中身は品の良いデザインのハンカチである。
「ありがとうございます。こんなにお気遣いいただいて、、、、うれしいです」西川が少しぐずりだした。
「ありがとうございます。大事にします」大山もちょっと泣きそうだ。
イザベルとヴィドも少し目を潤ませながら、2人との別れを惜しんでいる。仕事とはいえ1か月以上も一緒に
過ごしていれば、やはり情は湧くものだ。
その後交代のSPとの引継ぎを受け、2人は夕方の記者会見に向けて、最後の準備を進めていった。
当日 PM17:30 東京都F市の閑静な住宅街、とある一軒の家でもこの記者会見の様子を居間のTVで
見つめている家族がいた。最初に吾妻首相があいさつを行い、その後に異世界人が会見を行うという
段取りになっている。
「アヤ姉、竜騎士の子出てきたよ、、、、なんかギクシャクしてない?」と鈴木家の長男聡
「あの子、緊張しているのかなあ、、、、手と足が一緒に出てるわよ」と鈴木家の長女綾香
そう、イザベルはすっごい緊張していた。なにしろ会見場には内外の記者をはじめ、新聞社やTV局の
カメラの砲列が、今か今かと彼女の登場を待っていた。しかも全世界に向けて発信されるのである。
場馴れしていない者なら上がってしまっても当然のことだ。
会見場の袖で待機していたヴィドと斉木は、この様子を心配そうに見つめていた。
「あやつ、相当緊張しておるな、、、、戦場とは勝手が違うか、、、、」とヴィド
「紙に書いてあること以外は話さないように、と耳にタコができるほど言ってあるから、大丈夫だと
思うんだけど、、、、」と斉木
しかし2人の願いもむなしく、この直後に悲劇が起きる。ガチガチになりながら壇上に上がるイザベル、普段
ならまず足をとられることはないだろう機材のコード、イザベルはそれにひっかかってしまい、、、、、
”びった---------ん”
うつぶせ状態で大の字になりながら、床面に叩きつけられた。
「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」
静まり返る記者会見場、様々な現場を経験してきたベテラン記者たちもどう反応してよいか、戸惑っていた。
慌てて周囲のスタッフが助けに入る。イザベルは顔面を押えて涙目になっていた。相当痛かったようだ。
スタッフに支えられながら彼女はいったん壇上から立ち去った。
この惨状を見たヴィドは顔を両手で覆ってうつむいていた。後に彼はこの時のことを振り返り、「本当に
ドラゴンの姿に戻ってギアナ高地に飛んで行き、そのままずっと引きこもってしまおうかと真剣に考えた」と
語っている。
東京都F市 鈴木家の居間
「え~と、、、コケちゃったね、、、」と聡
「さすが異世界人だわ、、、、リアクション芸人でもこの場でここまではできないわ、、、、」と綾香
誰も一言も発しない記者会見場に、吾妻の咳払いが響いた。
「えー、ちょっとしたアクシデントが発生してしまいましたので、予定を変更してまずはヴィドローネさんから
挨拶を・・・・・・」
一国の首相はトラブルにも臨機応変に対応できなければ勤まらない。まずはヴィドが挨拶を行い2、3の
当たりさわりのない質疑応答を行った後、再びイザベルが壇上に現れた。まだ痛みがとれないのか
涙目だ。
「先ほどは失礼した。日本の方々には我々を受け入れていただきとても感謝している。これからは日本の
一市民として法を順守し・・・・・・・」
記者との質疑応答が始まった。
「我々にも魔法を使うことはできますか?」
「マナがないので無理だと思う。私もこちらでは指先に火をともす程度の魔法しか使えない」
本当はもっと大規模な魔法も発動できるのだが、そのあたりは隠すようにしている。
最後にある大手新聞の記者が、フェアリーアイズについて質問をしてきた。
「向こうの世界には、エルフ、ドワーフ、獣人という種族は存在していますか?」
全世界の中二病患者は親指を立てた。記者グッジョブと。しかしイザベルの返答は・・・・・・・
「それ、何?、、、、、ああ、こちらの物語に登場する架空の種族か。いや、そんなファンタジーな種族は
存在しないが」
剣と魔法の世界の住人にきっぱりと否定され、呆然とする記者、しかし彼は最後の力を振り絞って再度
質問を続ける。実に勇者だ。
「ッ、、、、それではネコミミは存在しないのですか。我らの夢、ネコミミメイドは異世界に絶対存在するはずだ!」
「これまでにもよく聞かれたが、ネコミミもイヌミミも存在しないぞ。大体、人間に獣の特徴が表れるなど生物学的に
ありえないではないか。貴殿ももう少し現実を見た方が良いと思うぞ」
と、イザベルが苦笑しながら返答すると、その記者はイスにへたり込み、まるでホ○・メン○ーサと戦った後の
ジ○ーのごとく真っ白に燃え尽きてしまった。全世界の中二病患者の夢は粉々に打ち砕かれた・・・
こうして、何とか記者会見は終了したが、全世界の前でリアクション芸を披露してしまったイザベルはその後、
異世界の竜騎士というよりも記者会見でコケた子、というイメージがついてしまったのである。
閑話休題、この記者会見より永い永い時が流れた遥かな未来、地球人類はついに太陽系を飛び出し、
地球外知的生命体とのコンタクトに成功する。地球の宇宙船の通信士は日本人だった。彼の最初の
メッセージは・・・・・
「そちらの星にはエルフ、ドワーフはいるの! ネコミミはぜったい存在するよね!」
その地球外知的生命体は、異星人との相互理解は困難だなあ、と思ってしまったという。
三つ子の魂百まで、なのであった。
いよいよ日本に腰を落ち着けることになったイザベルたちです。
さて、普通の学生生活をおくることができるのでしょうか?