第115話 竜騎士、召喚される
「ふう・・・・」
「やれやれ・・・・」
ここは日本国外務省の一室、会談を終えたばかりの斉木と外務大臣が揃ってため息をついていた。海千
山千の彼らにこんな反応をさせた相手は、某南の国の大使である。
「全くなんですって! 日本から観光客が減ったのは、こちらの努力が足りないからですって!」
「この前テレンプ大統領が訪問した際も、あれだけ日本人の神経を逆なですることをやっておきながら、何
勝手なことほざいているんでしょうね」
北がおとなしくなり、軍事的圧力が軽くなった途端コレである。2人は会議室にお浄めの塩をまいて、せめて
ものうっぷん晴らしをしたのであった。
「首相、ということでして、あちらは相変わらず通常営業でした」
「あいつら国連にも工作しおって、謝罪と賠償を勧める勧告よこしてきやがったよ、、、、まあ、分担金は当分
支払わん、と回答しておいたがな」
「そうしましょう、その分自然エネルギーなどの研究に資金回せますし、それにしても本当に異世界移転が
待ち遠しいですよ」
日本政府としても、これ以上ムダ金は出さないと腹をくくったようだ。そして、舞台は東京都F市、鈴木家の
居間に移る。この日はルーク皇国との定例会なのだ。日本側の参加者には新顔が混じっていた。例の元
首相のジュニア、吉岡である。
「吉岡君、今日は顔合わせみたいなものだから、そう緊張しなくてもいいぞ」
「いや首相、まさか異世界とコンタクトをとっていたなんて、想像すらつきませんでしたよ」
吉岡誠一、かつてカリスマ的人気を誇った元首相の長男で、30代半ばの若さながら与党の副幹事長を
務めるなど、将来の有力な首相候補である。吾妻と斉木は彼にも国家機密を解禁することにしたので
あった。そして、父親譲りの精悍なイケメンを、獲物を狙う肉食獣のような目で見る者たちがいた。言うまで
もないイザベルと綾香であったのだが・・・・・
「あー、2人とも先に言っておくが、吉岡君すでに結婚して子供もいるからな」
「ええ、今年幼稚園に入りまして、可愛いさかりですよ」
吾妻に機先を制され、吉岡の追撃を受けた2人は、リアルorz姿勢となってしまった。そんないつもの2人を
周囲が苦笑して見つめる中、ルーク皇国との魔信が接続された。
「それでは、まだ日本から皇国へつながる術式は開発できぬのか」
「はい、ダリウス陛下申し訳ございません。このティワナの力がいたらぬばかりに・・・・・」
ティワナの研究は残念ながら、完全に袋小路に入ってしまっていた。しゅんとした表情の彼女を見て、いつ
もはパワハラ上司のごとく研究を急かしている吾妻と斉木も、何も言えなくなっている。そんな状況の中、
イザベルが何かに気づいたかのように声を上げた。
「そうだ、ならば皇国側から私やヴィドたちを召喚することはできぬのか。日本のラノベには異世界側から
日本人を召喚する物語が多いからな。それなら技術的にも可能だろう」
だが、ティワナや画面の中のエリザは渋い顔だ。
「イザベル殿下、それは魔導技術省でも検討したのですが、どうしても特定の個人を召喚することができま
せんで、、、、」
「お姉さま、人を特定の場所に送り込むのは比較的簡単なのですが、呼び寄せるとなると難易度が格段に
跳ね上がるのです」
皇国内で実験をしてみたところ、無関係の人や物を召喚してしまったらしい。日本を召喚するつもりでうっかり
覇権主義な軍事大国を呼び寄せてしまったら、シャレにもならない。このため、まずは召喚ではなく、
確実に送り込む方法を研究しているのである。
「まあ、ティワナ君も今は高校生活と二足のワラジだから、そう研究も進まないだろうが、来年からは大幅に
サポートを付けることになっているから、何とかなるだろうよ」
「吾妻殿、そーいえばティワナは大学に進学するのか」
「ああ、姫さんと同じ大学に特別推薦で入学することになっているよ」
といっても、ティワナはすでに大学レベルの知識は完全にマスター済みである。その道の権威をサポートに
付け、いよいよ本腰を入れて異世界転移やその他の研究を進めてもらう予定なのだそうだ。サポート要員
の名前を聞くと、ノーベル賞受賞者やら何やらとんでもない人達の名が飛び出してきたのである。
「サポートにつく先生方も、ティワナさんと一緒に研究できるの楽しみにしているわよ。(月月火水木金金の
精神で)頑張ってくださいね」
「あのー斉木さん、今なんか行間に物騒なワードが見えたような気がしたんですけど・・・・・」
「うふふ、気のせいですよ」
これで、ティワナのキャンパスライフはブラック企業も真っ青の、社畜生活決定である。それに気がついた
イザベル達は、そっと涙をぬぐうのであった。
「いやあ、まさか異世界の方々とこうして話ができるなんて、思ってもみませんでしたよ。今から向こうに
行ける日が楽しみですね。ぼくもあちらでは魔法使えるようになるんでしょうか」
「ん、吉岡殿、こちらの人間はマナを感じることができぬからな。フェアリーアイズでも魔法を使うことはでき
ないぞ」
「ははは、普通の人間ならそうでしょうが、実はぼくの左目には邪眼が封じられていましてね。マナのある地
ならその力を解放することができるのですよ」
「あはは、、、、吉岡殿、貴殿もなかなかジョークを言いおるな・・・・・」
イザベルはいやな汗をかきながら、一縷の望みをかけて吉岡に話しかける。だが、それはあっさり砕かれて
しまった。
「いえいえ冗談ではありませんよ。ふふ、全てを見通すこの邪眼、異世界で全力解放してみせますよ」
【悲報】イケメン政治家が実は重度の中二病だった件について
「なあ、吉岡君ってあんなキャラだったっけ・・・・・」
「首相、人は見かけによらないもんですねえ・・・・・」
「吾妻殿、日本にはユニークな人材が多いのう・・・・」
想定外の事態に日本側はもちろん皇国側もドン引きだ。またまた微妙な雰囲気の中、この日の会談はお開き
となったのである。
「はあ、まさか吉岡さんが聡と同じ病気だったなんて・・・・・」
「私もちょっとファンだったんだけど、なんかさっきので百年の恋も醒めた気分だわ」
会談終了後、都心部のマンションに戻るイザベルと綾香、駅まで見送りに行く良枝は先ほどの吉岡の話題で
持ちきりだ。主婦層にも人気だった彼の意外な一面に、良枝もショックを受けているようだった。
「まあ、早いうちに本性がわかって良かったぞ、、、ん、これは?」
「どうしたのイザベル」
「いや、マナの波動を感じるな」
綾香と良枝は”イザベルまで、聡の病気がうつったの”などと騒ぎ出すが、彼女の表情は真剣だ。
「皆、ここから離れろ!」
イザベルがそう叫ぶと同時に、その足元が輝き魔法陣のような模様が現れる。綾香と良枝もさすがにこれは
ただ事ではないと、彼女の元に駆け寄ろうとするが、
「来るな! 巻き込まれるぞ!」
イザベルは2人を制止した。そして魔法陣の輝きが一層強くなる。
「イザベル!」 「ベルちゃん!」
2人の悲鳴を残し、イザベルは日本から姿を消したのであった・・・・・
イザベルの行先は何処・・・・・