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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第114話 学園祭に暗黒王女は君臨する


さて、なんやかんやでイザベルの大学生活も半年以上が過ぎた。宝京子を始め新しい友人達もでき、まずは

順風漫歩なキャンパスライフを送っている。ただし、彼女が心から渇望している”彼氏”がいないことを除けば

だが・・・・・


「んー、イザベル学園祭で何かするの?」


「いや、特にサークル活動もしてないし、今回は見るだけだな」


イザベルと綾香は2人が共同で借りているマンションで、間近に迫った学園祭の話をしていた。高校とは違い、

かなり大規模なイベントだ。中には、プロのアーティストを呼んでライブを開催する大学も珍しくはない。


「それじゃ、ウチの大学の学園祭きてよ。バンドのギグもやるからさー」


「綾香よ、それどんな曲やるんだ?」


「あはは、まだカバー曲がほとんどだけどさー、オリジナルも多少は()るよ」


なんとなーく不安になったイザベルは、綾香に尋ねた。


「綾香よ、、、そう言えばそなたがやってるバンドは、どんな名前なのだ」


「うん、”Dark Princess”よ」


イザベルは”そのまんまやんけー”と思ったが、かろうじて突っ込むのを耐えた。このことが、達夫や良枝の

耳に入らないことを祈りつつ・・・・・


「ふーん、、、綾香さんのご両親、バンド活動に反対しているんだあ・・・・」


「まあ、2人とも思考が昭和でな、どうもパンク=不良と思い込んでいるようなのだ」


綾香の通う大学の学園祭当日、イザベルと友人の京子はてくてくと歩きながら、そんなとりとめのない話を

していた。実は国民的バンドと言われるサザンの方が、ヘタなパンクバンドよりもよっぽど過激な歌詞の曲

があったりするのだが、先入観というものは怖い物である。


「む、みんな先に来ていたようだな」


「あ、イザベル久しぶり―、元気してた!」


「うむ、彩絵も息災で何よりだ」


この日は先の海水浴に引き続き、F西高時代のクラスメイトも学園祭に訪れていた。彩絵もたまたまバレー

の練習が休みであったため、旧交を温めあおうと参加していたのだ。そして、この場には招かれざる者も

存在していたのだ。


「腐腐腐腐、イザベルさんお久しぶりです」


「げっ!、、、、そなた日本にきていたのか」


「ちょっと! 久しぶりなのに扱いがひどいんですけど!」


そう、中国に帰ったはずの鳳麗華、あの腐った中華女子が再び日本に現れたのであった。


「あのー、、、この人は一体・・・・・」


「京子よそいつに関わるな! 本当に腐ってしまうぞ!」


イザベルは京子をかばうように、麗華の前に立ち塞がった。麗華は”わたしはウイルスですかー”などと

騒いでいる。相変わらずにぎやかな同窓生たちだ。


「まあ、とにかくそろそろライブの時間だから、会場に行きましょうか」


「そうだな、、、、んっ、あそこにいるのは・・・・・」


彩絵に促され一行がぞろぞろとライブ会場に向かい始めたその時、イザベルはこの場にいるはずのない

人物を発見してしまった。


「よ、良枝かーさん、なぜここに・・・・・」


「あ、ベルちゃん、アヤちゃんが今日のチケット送ってきたのよ。”私の生き様を見て欲しい”って、、、」


その言葉を聞いたイザベルは、思わず天を仰いでしまった。あれだけ両親を刺激するなと言っておいたのに、

あのパープーな義理の姉妹は何やってんだと。


「良枝かーさん、悪いことは言わん、今日はこのまま帰った方がいいぞ。”知らぬが仏”という言葉もある

ではないか」


良枝はイザベルの言葉に逡巡した様子を見せたものの、悲壮な表情で、


「いえ、母親としてあの子のやっていることを見届けるのが、私の役目なのよ。たとえ、それがどんなに辛い

ことだろうとしても」


と答えるのであった・・・・・


「じゃ、良枝かーさんここが会場だ。入場するぞ」


「ええ、、、、」


ライブ会場はすでに熱気ムンムンの状態であった。中には、モヒカン頭にタトゥーを入れたり、安全ピンの

ピアスをしたりといかにもな方々も大勢いる。すでに良枝は顔をこわばらせている状態だ。


『さあーみんな! いよいよ今日のメイン、”Dark Princess”の登場だあぁぁぁぁー!』


「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉーっ!!」」」」」」」


会場が暗転しバンド紹介のナレーションが始まると、いきなりテンションMAXの状態である。結構カルト的な

人気を誇っているらしい。そしてドラム、ベース、ギターのメンバーに続いて、ボーカルの綾香が登場する。

衣装はもちろん暗黒王女キマイラで、ご丁寧にムチまで手にしている。


「よく集まったなこのファッキン野郎ども! 今日はアタシ達の生き様見せてやるぜぃっ!」


綾香がムチをピシィっと鳴らすと、会場は再び大盛り上がりだ。その様子を見ている良枝は顔面蒼白である。


「いっくぞぉぉぉぉっ! アーンチ、クライストオォォォォォっ!!」


「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉーっ!!」」」」」」」


こうして始まった演奏は荒っぽいながらも基本に忠実なロックンロールだ。会場のオーディエンスはそれぞれ

ダイブしたりヘッドバンキングしたりと、彼女達の演奏を楽しんでいた。


「ビジュアルはアレだけど、曲は聞きやすいよねー」


バンドがカバーしているパンクやグランジ(※注1)は、肥大化したロックの原点回帰という側面を有している。

なので、色眼鏡なしで聞けばそれはむしろ、プレスリーからの伝統を引き継ぐ正統的なロックンロールなのだ。


「確かに曲は真っ当なロックだな。変に前衛的な曲だったらどうしようかと思っていたが、良枝かーさん、これ

ならそんなに心配する必要も、、、、と、一体どうしたのだ!」


盛り上がる会場の中、良枝はうつろな目でステージを見つめていた。イザベルにガクガクと肩を揺さぶられ、

ようやく我に返るのであった。


「ベルちゃん、、、ああ、これは夢、そう、悪い夢なのよ、あははは・・・・」


「しっかりしてくれ、これは現実だ。綾香の選んだ生き様、共にこの目に焼き付けようぞ」


現実逃避に入った良枝をイザベルが叱咤激励する。そう、これは子が親の元を離れる一種の通過儀礼でも

ある。程度の差こそあれ、どの家族も一度は経験しなければいけないものだ。


「ラストはこれだ! No Fun!(※注2)」


そして、1時間の短いながらも濃密なライブは、大盛り上がりの内に幕を閉じたのであった。


「綾香、なかなかカッコ良かったじゃない」


「腐腐腐腐、このバンドの組み合わせも男体化すれば萌え・・・・・」


「そこ! 腐った妄想は禁止!」


終演後の楽屋内は、バンドのメンバーとその関係者でにぎやかであった。そんな中、押し黙ったままの良枝

に綾香がつかつかと歩み寄っていく。


「おかーさん、ウチらのライブ、どうだった?」


「う、うん、、、、何というかねえ・・・・」


珍しく歯切れの悪い良枝に、綾香は苦笑しながら話を続ける。


「まあ、理解してくれとは言わないからさ、ただ、否定はしてほしくないんだ。おかーさんから見ればキワモノ

かもしれないけど、これでもみんな真面目に取り組んでいるのよ」


「アヤちゃん、聞きたいことがあるんだけど、今後もバンド続けるの、大学卒業してからも」


良枝の質問に、綾香は少し考えてから答える。


「卒業とか関係なく、突っ走れるところまで突っ走るつもりだよ。やらないで後悔するのはイヤだからね。

もちろん勉強はちゃんとしているから、そこは心配しないでね」


「・・・・・そう、わかったわアヤちゃん、あなたのやりたいようにやりなさい。ただし、自分の行動に責任は

持つこと、これだけは守ってね」


「うん、ありがとうおかーさん」


こうして、綾香のバンド活動は後に達夫も説得され、両親公認となった。そしてそれは、彼女が親に庇護

される存在から自立する第一歩となったのである。


※注1:グランジ

1990年代初頭に発生したパンクを通過した世代による、ロックの原点回帰なムーブメント。

代表的なバンドニルヴァーナのリーダーであるカート・コバーンは、後に自宅で猟銃自殺、全世界の

ロックファンに衝撃を与えた。


※注2:No Fun

パンクのゴッドファーザーとも呼ばれるイギー・ポップが在籍したバンド”ストゥージス”の

代表曲。セックス・ピストルズを始め多くのバンドにカバーされている。




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