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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第112話 日本でラーメン屋を経営している魔王さまが、ブラックな状態に陥っている件について


「くはははっ、よくぞこの魔王城までたどりついたな勇者イザベルよ、褒めてつかわすぞ」


「無辜の民を虐げる悪逆非道な魔王ドラコよ、今日が貴様の命日と知れい!」


互いに攻撃魔法の術式を準備しながら身構えるイザベルとドラコ。2人の間に一体何が起こったので

あろうか。


「いくぞ!」


「くらえっ!」


”シュバババッ”と、強烈な風の術式が2人の間に吹き荒れる。それが納まった後、イザベルの前には

刻まれたネギが、ドラコの前にはきれいに切りそろえられたナルトが鎮座していた。


「はあ、、、一体2人とも何やってんのよ。聡の病気がうつったかと思ったわよ」


「む、勇者と魔王ごっこに決まっておろう」


「まあ、たまにはこういうノリも楽しいかと思ってな」


完全に呆れかえっている綾香の言葉に、相変わらずパープーな2人が答える。本物の竜騎士と魔王が

中二病など、シャレにもならない。


「で、あっちは何してんのよ」


綾香が指さす先では、イリスがチャーシュー用の炉の前で焼き加減を見ているのだが、その横ではティワナ

が何やら手をかざしてマナエネルギーを送り込んでいたのである。


「ああ、あれはティワナの術式でチャーシューを焼いているのだ」


「普通にガスで焼けばいいじゃん!」


「最近は光熱費もずいぶん高くなってきたからな。かといって値上げはしたくねえから、今日はイザベル達の

おかげでずいぶん助かったぞ」


「ふん、”炎獄の魔女”に不可能はないのですぅ」


そう言って胸を張るティワナ、しかし、かつて敵国に恐れられた彼女の魔法が、チャーシュー調理に利用

されているとフェアリーアイズの人たちが知ったら、一体どう思うことだろうか・・・・・


「そう、、、それで、天井にある模様は何のかなあ、何か冷たい風が吹き出しているけど」


「綾香さん、あれは私が構築した冷却の魔法陣ですわ。エアコン代もバカにならないですから」


何だか、昭和のレトロ感あふれるラーメン屋が、だいぶ魔改造されているようだ。さすがにお客に魔法陣は

見せられないので、客席には普通にエアコンをつけている。


「ここんとこ我とイリスだけでてんてこ舞いだったからな。今日は3人が手伝ってくれて助かったぞ」


新メニューの冷やし中華も好評な宝来軒、F市という都心部から離れたところにありながら、夏になっても

満員御礼の日が続いている。それで今日は、たまたまバイトも休みだったイザベルと綾香、夏休み中の

ティワナがお店の手伝いに来ているのだ。


先代店主の頃から”ウチは地元のお客さん相手だから”と、ガイドの掲載打診を断っていたのだが、ネット

での口コミ拡散は止められない。幻の銀座西興園の味を引き継ぐお店、ということで、夏休み期間中は

遠方からの訪問客もけっこう多いのだ。そして、今日は更に・・・・・


「魔王サマすまんな、無理言ってしまって・・・・・」


「いや、吾妻殿、、、、さすがにあの方々がご来店されるとは、心臓に悪いぞ」


そう言って顔を引きつらせながら客席を見やるドラコ、この時店内で半チャンラーメンや餃子などに舌鼓を

うっていたのは、日本国の象徴たるやんごとなきご夫妻と、その家族ご一行様であった・・・・


「店主さん、今日は無理をお願いして申し訳ありません。いや、この店のことを話したら息子や孫たちも

ぜひ食べてみたいと言い出してしまいまして・・・・」


「い、いえいえとんでもございません! 皆さまのご来訪このドラコ心より歓迎いたしましゅっ!」


申し訳なさそうな老紳士のお言葉に、さすがのドラコも緊張し噛んでしまう。この超VIP客のために今日は

特別に仕込みが終わった後、営業時間の前にお店を開けたのだ。とうとう街中のラーメン屋が、皇室御用達

にクラスチェンジした瞬間であった。


さて、超VIP客も帰り一般のランチタイムに突入した宝来軒、猛暑にもかかわらずランチ終了まで常に満席の

状態であった。接客はコンビニバイトで鍛えたイザベルと綾香が担当し、厨房ではドラコとイリス、エネルギー

源のティワナがフル稼働である。


「ふひい、、、、何とか乗り切ったな」


「お姉さまあ、私もうマナ切れですぅ・・・・・」


嵐のようなランチタイムが過ぎ去った店内、イザベル達がぐったりとしていた。全く一息つくヒマもない忙しさ

であったのだ。


「しかし、普段はこれをそなたとイリスだけでこなしているのか。大丈夫か」


「大丈夫じゃねえ、、、、少なくとも営業時間内に来店したお客さんは断りたくないからな、もうほとんど休み

もないぞ」


「先代殿は手伝えぬのか」


「マスターたちは中国に指導に行ったりしているからな、そうムリはさせられぬぞ」


先代店主夫妻はすでに店を離れ、違う所に住んでいる。ドラコとしても長年休みなしで働いてきた彼らを

また引っ張り出すのは忍びなかった。


「それでは、バイトを雇ったらどうだ。私や綾香も毎日は手伝えぬし、このままではそなたら過労死するぞ」


「私もマナ切れで回復するまで、1週間はかかるですよ・・・・・」


「だがな、今のこの値段は人件費をかけてないから維持できているんだ。バイト入れたら値上げを検討

しなきゃいけなくなるぞ」


現状でも繁盛しているように見えて、食材にもコストをかけていることから利益はカツカツの状況なのだ。

イザベルやドラコたちはウンウン唸りながら解決策を考えるのだが、いい知恵は浮かんでこない。そろそろ

夜の仕込みを始めなければいけない時間になったので、バイトの件は一旦保留にして作業に取り掛かる

のであった。


「ティワナはマナ切れか、、、、じゃあ客席の清掃を頼むぞ。テーブルの裏を拭くのも忘れずにな」


「うう、マナがあればクリーン術式が使えるのに、、、、、」


こうして、皆が作業に取り掛かってしばらくたった頃、店の引き戸が開かれ1人の青年が入ってきた。


「あれ、お客さんまだ営業時間じゃないですよ」


「いえ違います。店主の方にお願いがあって参りました」


「そうなの、ドラコさーん、何かお願いがあるっていう人きているよ」


青年の言葉を聞いた綾香は、厨房のドラコに声をかけた。彼は”ガイドならお断りだぞ”などとブツブツ言い

ながら客席に現れる。その姿を見た青年は、いきなり見事な土下座を決め、


「どうか、自分を弟子にしてください!」


「「「「「ええっ!」」」」」


何の因果か、零細ラーメン屋に弟子入り希望の奇特な人間が現れたのである。


知ってるラーメン屋がテレビに出た途端、大行列で入れなくなってしまった・・・・

ガイドなどで紹介されるのも善し悪しですね。

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