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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第104話 竜騎士の帰還 再見、クレアブル!


「うう、ひぃ、、、、」


「はうわ、、、みず、みずをくれえ、、、、」


魔狼フェンリルを退けた翌日、ペルメの冒険者ギルド前の広場は死屍累々の有様であった。彼らは王都

近衛騎士団本隊と、団長のレイリスたちであった。敵に背を向けるとは何事だ、と、イザベルの厳しい指導

を受けるはめになってしまったのである。


「まったく、この程度でもう音を上げるとは、、、、、皇国の新兵でもこの程度は難なくこなすぞ」


2km程度の軽いランニングでも、息絶え絶えの連中にイザベルが半ばあきれたように言う。


「うん、、、これじゃ中学校の体育の授業にも、ついていけないね」


ユウトにも軍隊どころか学校の授業にもついていけないと言われ、騎士団の面々がうなだれる。


「まあ、我らの最初の頃を見てるようですな」


「以前の自分はこんなものだったかと思うと、恥ずかしく思いますよ」


ユウトについてきて、先にイザベルの指導を受けた騎士達も追撃した。彼らの手を借りながらレイリス達の

鍛錬は進んでいき、10日目頃からは格闘技や剣術の指導に取り掛かるのであった。


「どうかな、彼らの様子は」


「ロベル殿、まあオーガは無理だがオークやゴブリンなら何とか五分、というくらいかな。しかし、この国の

王はなぜこんな弱兵で、魔王に挑もうなどと考えたのだ」


「まあ、彼らは大貴族や有力貴族だからな・・・・」


ロベルが奥歯に物のはさまったような言い方をする。それだけでイザベルには王の考えがわかってしまった。


「ああ、目障りな有力貴族の力を削ごうとしたわけか。それで国が魔王に蹂躙されたらどうにもなるまいに」


おそらく、軍が壊滅した後は召喚勇者のユウト頼みだったのだろう。何とも杜撰な計画である。


「こいつらがもう少し使えるようになったら、”決行”するぞ」


「わかった」


魔王軍はその後、こちらに侵攻するそぶりを見せていない。真祖バンパイアやフェンリルが敗れ、警戒して

いるのであろう。だが、完全に脅威が去ったわけではない。イザベルは自分も含め少数精鋭で魔王城を

急襲し、魔王の首を取る作戦を立てていた。その際留守になったペルメを守るため、レイリス達を鍛え上げて

いるのだ。


「で、どうやって魔王の首を取るつもりだ」


「もちろん、正面から強行突破するぞ」


「おい、さすがにそれは、、、ん、何だこのマナの波動は!」


ロベルがイザベルの脳筋な作戦に頭痛を覚えた時、突如強大なマナの波動がペルメを襲ったのであった。


「こ、これはまた天災級か!」


「くっ、迎撃態勢をとれ!」


途端にてんやわんやな状態になるペルメであったが、イザベルは慌てる風もなく平然と構えていた。


「あー、みんな心配いらんぞ。これは私の知り合いだ」


やがて空の一角が歪んだかと思うと、そこから菫色のローブを着たいかにも魔女な服装の女の子が出現

した。彼女は地上にいるイザベルを見つけると、その両目から涙をあふれさせ、抱きついてきたのである。


「お、お姉さまあぁぁぁぁぁっ!」


「おお、ティワナよ久しいな。息災であったか!」


その瞬間、周囲に百合の花が咲き乱れたような気がしたのだが、皆気のせいだと思うことにした。号泣する

ティワナが落ち着いた頃合いを見て、イザベルはクレアブルでの経緯をかくかくしかじかと説明する。


「なるほど、魔王の首を取るまでは帰れないと」


「それに、こいつらをもう少し鍛え上げておかないといかんからな」


そして、イザベルはロベルやユウト達にティワナを紹介した。


「お姉さんにはお世話になってるよ」


「む、、、お姉さまは私の物なのです。あなたには差し上げませんよ!」


「おいおい、いつから私がティワナの物になったのだ」


周囲の冒険者達は”お、姉御の取り合いか”などと盛り上がり、ロベルは”また、妙なのが来た”と胃痛を

覚えるのであった。そして、いよいよ魔王との最終決戦の日がやってきたのである。


「それで、ジークリフトのヤツはまだ部屋から出てこぬのか。一体何があった」


「はあ、それがよほど人族領で恐ろしい目にあったようで、布団を被ってガタガタと震えているのです」


魔族領の最深部に建つ魔王城、その広間では頭に角があり、背には黒い翼があるいかにもな姿の魔王が、

側近から報告を受けている。その時である、突如閃光が走ったからと思うと、魔王城は凄まじい衝撃に

襲われた。


”ちゅどーん! ガラガラガラっ!!”


崩れゆく魔王城、急襲したイザベルとヴィド、ティワナが最大威力の攻撃魔法を放ったのであった。


「な、なんというデタラメな、、、、、」


「姉御たちが味方で良かったぜ」


全壊した魔王城の残骸から、ゲホゲホ言いながら這い出てくる魔物たち。その中に全身煤塗れの魔王の

姿もあった。


「む、あれが魔王か。よしユウト、さくっと止めを刺してやれ」


「う、うん・・・・」


”サクっ”


ユウトは戸惑いながらも、王都で受け取った魔王を倒す力があるという聖剣を突き刺した。


「ぐ、ぐはあぁぁぁぁっ! この我が人間ごときにやられるとはあぁぁぁぁぁっ!」


こうして、クレアブルを恐怖に陥れた魔王は討伐された。めでたしめでたし・・・・・


「いや、勇者と魔王の対決ってこんなんじゃないような・・・・・」


「勝てば良いのだ。細かいことは気にするな。さてと・・・・」


イザベルはあたりを見回すと、そろーと逃げようとしている魔物に目をつけた。


「あれだ! ティワナ逃がすなよ」


「はい、お姉さま」


ティワナの拘束魔法に捕えられたのは、フェンリルの王ジークリフト、イザベルの前に引き出された彼は

恐怖に怯えていた。


「何をそんなに怯えておる。別に痛い目に遭わせようとはいうのではない。気持ち良くさせてやろうという

のだぞ。ふふふ、末永く可愛がってやるからな」


「い、いやあぁぁぁぁぁっ!」


相手が狼の魔物でなければ、R18なシチエーションに聞こえてしまうセリフである。


「お姉さん、セリフが鬼畜系だよ」


「犬っころの分際でお姉さまの寵愛を受けるとは、まったくもってうらやまけしからんですう!」


こうして、魔王を倒しペットも得てご満悦のイザベル、ペルメへと帰還の途についたのである。


「どうしたユウト、ニホンに帰れるのだぞ。うれしくはないのか」


「う、うん、、、、」


王都クーリエの神殿、異世界への帰還魔法陣の間にイザベル達はいた。ティワナが魔法陣にマナを注ぎ込み、

いつでも発動可能な状態だ。その後イザベルはアールネス国王を締め上げ、ユウトの帰還を認めさせたので

ある。


「姉御、坊主は姉御と別れるのが辛いんでさあ」


「姉御も罪作りな女ですねえ」


囃し立てる冒険者達に、顔を赤くするユウト。しかし彼は今度は俯くことはしなかった。しっかりとイザベルの

目を見つめ、意を決したように話しかける。


「お姉さん、ぼく、お姉さんのことが好きなんだ!」


愛の告白におおおっーと盛り上がる神殿内、イザベルはユウトの方をまっすぐ向いて答える。


「そうか、だがそなたはまだ未熟だ。そうだな、数百年前の勇者くらいの腕になったら、そなたの気持ちに

応えることもやぶさかではないぞ」


「数百年前の勇者って、どんな人だったの」


「”第六天魔王”とか、”ただのうつけ”とか名乗っていたね。真名は聞いたことがなかったな。この世界でも

天下布武を成し遂げてみせる、と口癖のように言っていたよ」


当時の勇者と直接面識のあるロベルが答えた。それを聞いたユウトは乾いた笑いを漏らす。


「その人間違いなく、ぼくの国の歴史上一番有名な武将だよ。お姉さんずるいや。そんな人と比べられたら、

勝ち目ないじゃんか」


「だが、そなたは努力した。ささやかだがこれは私からのご褒美だ」


イザベルはユウトの頬に、軽く口づけをした。再び盛り上がる神殿内、ティワナは”私にもご褒美をー」と

騒いでいる。仕方なく彼女の頬にも口づけをすると、ティワナは”きゅう~”と言って倒れてしまった。


「達者でなユウト、努力することは怠るなよ」


「ありがとうお姉さん、ぼく、お姉さんのこと一生忘れないよ!」


そして魔法陣が輝き、ユウトは光に包まれクレアブルから日本へと帰還した。後に残ったイザベル達も一旦

ペルメへと引き揚げる。ティワナの次元直結魔法はそちらが出入り口となっているからだ。


「うう、、、グスっ、ヒック、、、姉御がいなくなっちゃうなんて、寂しいですぜえ、、、」


「ギランよ、いい年した男が泣くでない。まったく笑って見送ってくれぬものか」


「うう、でも・・・・」


イザベルの周りにはむさくるしい冒険者達が集まって、おいおいと涙を流している。今日はフェアリーアイズ

に帰還するイザベルの送別会が、冒険者ギルド内の広場で開かれていたのである。


「イザベル殿、あなたのおかげで我々も騎士の本分を取り戻すことができた。このお礼はいくらしても、

足りるものではありませぬぞ」


「ん、、、、そなた誰だっけ?」


「な、レイリスですよ騎士団長の」


レイリスの体は鍛錬によりぐっと引き締まり、別人のようになっていた。まるで結果にコミットする所に通って

いたかのようである。それはともかく、近衛騎士団の連中もイザベルとの別れを惜しんでいた。短い期間で

本当にせんの、、、いや慕われるようになったものである。


「ギルドマスター、送別会とはいえ、お酒出して良かったんですか。私なんだか嫌な予感が、、、」


「まあ、広場なら臭いも充満しないし、本人が飲まなければ大丈夫だろう。それにみんなもシラフじゃ笑って

見送れないだろうしね」


「でも、みんなもうグズグズ泣いてますよ」


そう言うアヤーカも少し目が赤くなっている。かなり迷惑をかけさせられたが、1年近く一緒に過ごしていれば

やはり情は湧くものだ。


「お姉しゃまー、飲んでますかー」


「む、ティワナよ何酔っておる。まだ酒が飲める年齢ではないだろう」


「むふふふー、ここは皇国ではないのれすー、、、、このワインいけますよ。お姉しゃまもどーぞー」


「こ、こら、何を・・・・」


ティワナはイザベルの口にワインを流しこんだ。それを見ていたヴィドやロベルは顔面蒼白だ。


「うぃっ、ヒック、、、よし、今日でクレアブルともお別れだ。最後に一発芸を披露してやるか」


「お姉しゃまー、わらしもつきあいますですぅー」


そして、酔っぱらったイザベルとティワナの最大威力の攻撃魔法が炸裂、ギルド周辺は更地になってしまった。

その1時間後、酔いの醒めたイザベルとティワナは真っ青になって、ロベル達の前で土下座をしていたので

ある・・・・・・


「こいつらのせいで、こいつらのせいでまた借金が・・・・・」


「姉御、さすがにもう学んだほうが・・・・・」


「魔王軍よりイザベルにやられた被害の方が、はるかに甚大なんですけど!」


「まあ、この損害補償をしてから、さっさと元の世界に帰ってくださいね」


こうして、イザベルとティワナは損害補償のため、またしばらくクレアブルでタダ働きをするはめになって

しまったとさ。めでたしめでたし、どんとはれ。


「・・・・・・ベル、イザベル、もう起きないと学校遅刻するよ」


「む、アヤーカ、どうしたのだ。ネコミミがないぞ」


「何寝ぼけてんのよ。それにネコミミって、あんたまさか聡の病気が移ったんじゃないでしょうね」


「夢、夢だったのか、それにしてはやけにリアルな・・・・」


イザベルは制服に着替えてリビングに降りていく。テーブルにはすでに朝食の準備が出来上がっていた。


「ヨシーエ殿、いや良枝かーさんおはよう」


「イザベル、さっきから変なことばかし言ってるけど、どうしたの」


イザベルは昨夜の夢を良枝と綾香にかくかくしかじかと語って聞かせた。それを聞いた良枝は顔面蒼白と

なり、床に崩れ落ちてしまったのである。


「そ、、、そんなベルちゃんに、聡の病気が移ってしまったなんて・・・・・」


「おかーさん! 救急車呼ぶから、イザベル病院に連れていくよ!」


「落ち着け2人とも、ただ夢を見ただけだ。聡のように重病ではないぞ!」


「ちょっとみんなひどくない! もうぼくグレてやるからね!」


「アヤちゃんに続いて聡がグレるなんて、、、ああ、もう家庭崩壊だわ」


東京都F市、鈴木家は朝からにぎやかであった。その時リビングで点けっぱなしになっていた小型テレビ

からは、災害に襲われた地域のニュースが流れていた。


『○△県○×町を襲った集中豪雨の被害は甚大で、県は自衛隊に救援を要請しました。』


画面には、救助活動に精を出す自衛隊員の姿が映し出されていた。ふとそのニュースを見たイザベル、

何やら小首を傾げたのである。


「イザベル、どうしたの?」


「いや、何だか知ったような顔がいたと思ってな、、、気のせいか」


イザベルは朝食を済ませると、学校へと向かった。その頃の○×町、自衛隊員達ががれきや流木の撤去

作業を行っている。


「不知火1曹、この付近の撤去作業完了しました」


「よし、5分休憩の後次の場所に移動する。今の内に水分補給はしておけよ。それから資材の片付けも

忘れるな」


「了解です!」


そう命令を出す彼は、30代半ばの男性だ。彼はふと、懐かしむような目で豪雨が過ぎ去った後の青空を

眺める。


”お姉さん、ぼくは皆から必要とされる人間になれたかな。でも、まさか日本にもくるなんて、相変わらず

おっちょこちょいですね”


彼はそう心中でつぶやくと、部隊を率いて次の現場へと向かっていった。彼らの力を、必要とする人達の

ために・・・・・


ファンタジー編完結しました。次話より舞台は現代日本に戻ります。

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