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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第101話 バンパイア襲来!


「う、うう、、、、」


「キュィっ?」


辺境都市ペルメの冒険者ギルド内、イザベルに完膚無きまでに叩きのめされた異世界からの召喚勇者

ユウトが意識を取り戻した。


「こ、ここは日本、、、パンダがいるなんて・・・・・」


「お、目が覚めたかユウト、ここはペルメだが、、、パンダとは何だ?」


ユウトの眼前にいたのは、イザベルが保護したミックスベアの子供、シァンシァンである。彼は起き上がると

周囲を見渡した。床には、王都の近衛騎士達が全員正座をしていた。


「ああそうか、ぼくお姉さんに負けたんだよね・・・・・」


蹴られた股間がまだ痛むのか、ユウトは顔を歪めながら話をする。


「今までどんな訓練をしていたんだ。あれでは本当の戦場ではあっという間に殺されるぞ」


「でも、王都の騎士団長でももうぼくには敵わないと言われて・・・・・」


ユウトの答えを聞いたイザベルは、心底呆れた表情を浮かべてしまった。そして、正座している近衛騎士たち

をギロリと睨む。その視線を受けた騎士達はビクっと体を震わせた。


「まあ、こいつらの腕前を見たら、騎士団長とやらの実力もたかが知れてるな。このペルメには何の用で来た

のだ。この弱兵どもでは魔物討伐もままなるまい」


「それが、王様がもうすぐ魔王討伐をするから、その状況偵察にと・・・・・・」


「ああんっ、本気か! この世界の魔王や魔族が、もし私の世界の魔族と同程度の実力だったら(いくさ)にも

ならんぞ。開戦と同時に全滅だ」


イザベルの厳しい言葉に、ユウトや近衛騎士達はうつむいてしまう。しばし沈黙の後、ユウトがイザベルに

質問した。


「”私の世界”って、お姉さんも別の世界からやってきたの」


「ああ、お前のように召喚ではなく、戦場での事故みたいなものだがな」


イザベルはユウトに、自分がクレアブルにやってきた経緯をかくかくしかじかと説明した。それを聞いていた

彼の表情が、驚きに包まれる。


「はは、、、本物の竜騎士、リアルチートだったなんて、ぼくの敵う相手じゃなかったんだね・・・・・」


「そなたにはこの世界は厳しすぎるな、早々に元の世界に戻してもらうがよいぞ。なんなら、私から王に

口添えをしてやってもよいが」


「でも、元の世界にぼくの居場所なんてないよ」


なぜ、と訝しむイザベルに、ユウトはポツリポツリと元の世界でのことを話し始めた。向こうでは何の能力も

ない、平凡な人間だったこと、仲間はずれにされないため、常に周りの目を気にしていたこと、将来にも

何の希望も持ってなかったことなどなど。


「この国に来て、初めてぼくが必要だと言われてうれしかったんだ、例えそれがお世辞だとわかっていても、

向こうでは家族にも言われたことなかったから・・・・・」


そう話すとユウトはグスグスと泣き始めた。彼についてきた近衛騎士達も、バツの悪い顔をしている。だが、

そんな様子を見ていたイザベルは厳しい言葉を投げかける。


「そなた、何を甘えたことをほざいているのだ。なら、これまで他人に必要とされる努力をしてきたのか、話を

聞く限りでは、元の世界でもただ日常に流されて生きてきた、としか思えぬぞ」


「お姉さんは強いから、ぼくの気持ちなんか・・・・」


「黙れ! 私が何の努力もせず、この力を手に入れたとでも思っているのか! 皇女、そして竜騎士として

民に必要な存在となれるよう、日々鍛錬をかかすことはなかったのだ。そなた、まさか楽して力を手に入れ

ようと思っていたのではあるまいな」


「そ、そんなこと・・・・」


図星であった。よくある異世界転移もののラノベのように、召喚された時点でチート能力を手に入れたと

思っていた、いや、思い込むようにしていたのだ。そこを突かれたユウトは俯いてしまった。イザベルは

ため息をつくと近衛騎士に話しかける。


「見ただろうこやつは優しすぎる、この世界には向かん、早く元の世界に帰してやれ」


「それが、、、帰還の魔法陣にマナが溜まるまで、あと半年以上かかるので・・・・・」


それを聞いたイザベルは”ああ、もう”と自分の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき分ける。そしてしばし黙考した後、

ユウトに向き直った。


「ふむ、そなたの世界にも軍隊はあるか」


「あるけど、ぼくの国では軍隊じゃなく、自衛隊って呼ぶんだ」


ユウトはイザベルに、自衛隊とは何ぞやと説明する。


「ふむ、、、戦うだけでなく災害救助も行うのか、我が皇国の騎士団と同じだな・・・・・」


そして、再びユウトに向き直り、問いかける。


「そなた、本気で民から必要とされる人間になりたいか」


「え、、う、うん・・・・」


「よし! では私がそなたを、自衛隊に必要とされる者になれるよう、鍛錬してやろう。ビジバシいくからな、

覚悟しておけよ」


「え、えええええっ!」


戸惑うユウトをよそに、イザベルは”まず基礎体力の強化からだな”等と、鍛錬メニューについて考え始めた。


「おい、イザベル、本当にこやつの面倒を見るのか」


「ああ、元の世界に戻るにせよ、この世界で生きるにしろ、もう少し力をつけなければ生き残れまい。少なく

とも、軍から必要とされる人間に鍛えることは、私にもできるからな」


そしてイザベルは、未だ床で正座状態の近衛騎士達に視線を向ける。


「と、いうわけで、お前らも明日からユウトと一緒に鍛錬な」


「「「「「「え、なんで我らが!」」」」」」


「当たり前だろう、あんな腕で国を守れると思っているのか、皇国の守護天使たるこの私が直々に鍛え直して

やるからな、光栄に思うがよいぞ」


イザベルの言葉に近衛騎士達は顔面蒼白、ガクガクブルブルと震え始めてしまった。


「そういうわけでロベル殿、すまぬが王都にその旨連絡して頂けぬか」


「君は本当に仕事を作ってくれるな、、、、まあ、確かに近衛騎士団がこれでは、魔王が攻めてきたらどうにも

ならないからね。王都にも報告しておくよ」


訓練は明日から開始することとし、ギルド内ではユウト達のスケジュールや宿泊先などの調整を行った後、

一服することとなった。


「みんな、酒だけはやめてくれよ。ようやくギルド建て直したばっかりだからな」


そうロベルが釘を刺し、本当にお茶やミルクで一服するだけであった。


「ぐっ、、、すっかり信用がなくなってしまったな。ところでユウトよ、この世界の魔法は発動するのに、あんな

長々しい呪文を唱えなければいけないのか」


「うん、王都の筆頭魔導師でも、無詠唱は不可能だって」


「それでは、戦場では役に立たぬな」


クレアブルでは、攻撃魔法は後方からの支援が主らしい。その点はフェアリーアイズに比べ、大分遅れて

いるようだ。


「お姉さんは、無詠唱で魔法が使えるの」


「ああ見てみろ、これがファイヤーランスだ」


「ば、バカイザベル! ここ屋内だぞ!」


「あ、しまっ・・・・・」


”ちゅどーん! ガラガラガラっ!!”


ファイヤアローよりも強力な、ファイヤーランスがギルド内で炸裂した。ようやく再建したペルメの冒険者ギルド、

あえなく全壊してしまったのである。


さっきまでギルドだった残骸から、ゲホゲホ言いながら這い出てくる冒険者や近衛騎士たち、全員煤け髪の

毛はチリチリ状態である。そんな彼らの目に触れないよう、そろーと反対側から抜けようとするイザベル、

その肩をガッシリと掴む者がいた。般若のような顔をしたロベルである。


「君は、、、、一体何してくれたのかな?」


「ヒ、ヒィッ!」


ずらりと居並ぶ被害者の前で、土下座するイザベル、その姿はもはやペルメの風物詩になりつつあった。

ヴィドは「ああ、また貯金がパーに・・・・」と目も虚ろな状態だ。


「君は全く、にわとり、いやスライム、それ以下の脳みそだな、ミジンコと同じか」


「全く申し開きもございません・・・・・」


そんなイザベルのもとに、これも煤けて模様がわからなくなったシァンシァンがトコトコと近づいていった。


「おお、シァンシァンよ、こんな私を慰めてくれるのか」


しかし、シァンシァンは後足でイザベルの顔に砂をかけると、そのままロベル達の方へ戻ってしまった。


「シァンシァンっっっ!」


「姉御、ついにペットにまで愛想尽かされたか」


「まあ、自業自得よね。本当に何度死ぬような目にあったか・・・・」


「ユウトよ、本当にアレに教えを乞うつもりか」


「うーん、、、、反面教師にするよ・・・・・」


こうして、イザベルが冷たい視線を浴びている時、息せき切った伝令が駆け込んできた。


「境界警備隊のバルです! ロベル殿はいらっ、、、、この惨状は一体? まさかもう魔王軍が!」


「いや、これは魔王軍ではなく脳みそミジンコ娘の仕業でな、、、そんなに慌てて何があったのかね」


「は、昨夜警備隊の砦にバンパイアが現れました。しかも”真祖”です!」


とうとうイザベルは、にわとりからミジンコにクラスチェンジしてしまった。それはともかく、真祖のバンパイア

は天災級に区分されるモンスターだ。ついに、数百年ぶりに魔王軍の侵攻が、人族の領域に始まろうとして

いたのであった。


バンパイアご本人を出せなかった・・・・・

次回はバンパイア率いる魔王軍と、イザベルが激突する予定です。

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