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竜騎士の日本見聞録  作者: ロクイチ
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第100話 勇者召喚


時はイザベルがギルドの建物を、3回目に破壊した頃に遡る。アールネス王国の王都クーリアの神殿では、

数百年ぶりにある儀式が行われようとしていた。異世界から特別な力を持つ者を呼び出す、”勇者召喚”の

儀式である。王や近衛騎士たちが見守る中、床に描かれたいかにもな魔法陣の前で、5人の神官がいか

にもな呪文を唱えている。やがて魔法陣がまぶしいほどに光りだす。それが収まったあと、魔法陣の中心

にはきょとんとした表情の少年が立ちすくんでいた。


「王よ、召喚の儀成功いたしましたぞ!」


「おお、異世界の勇者よよくぞ我が王国へ! どうか魔王を倒し、クレアブルに平和をもたらしてくれること、

切に願うぞ」


「え、もしかしてこれが噂の異世界召喚なの! ひゃっほーい!」


そうはしゃぐ少年の容姿は黒目黒髪、服装は彼の国で学生服と呼ばれるものであった・・・・・


「む、ペルメに王都から勇者とやらがやってくるのか」


「そう、明日には着くらしいよ」


ペルメの冒険者ギルドでは、依頼完了の報告に来たイザベルが、アヤーカから勇者の話を聞いていた。


「ああ、だから君は勇者とトラブルを起こさないよう、十分気を付けてくれよ」


「ロベル殿、、、、なぜに私がトラブルを起こす前提で話をしているのだ」


そう抗議するイザベルであったが、これまでの”実績”がものを言っているので、致し方ないところである。


「ところでその勇者、異世界からの召喚勇者らしいよ」


「アヤーカ、召喚勇者とはなんだ?」


アヤーカはイザベルに、召喚勇者についてかくかくしかじかと説明する。それを聞いたイザベルとヴィドは、


「召喚などともっともらしいことを言っておるが、要は人さらいではないか。関係ない他人を争いに巻き込む

なぞ、人倫にももとる行為だな」


「それに現れた者がどんな者かわからぬのであろう。とんでもないヤツきたらどーすんだ」


ロベルは、苦虫を噛み潰したような顔で答えた。


「ああ、ヴィドローネ君の言う通り、数百年前に召喚した勇者がとんでもないヤツでな。それ以来勇者召喚

は禁忌とされていたのだが、王都のバカどもが・・・・・」


その時召喚された勇者は、


「この第六天魔王たるワシに、魔王を倒せと言うか! 是非もなし!」


召喚した国の王族を皆殺しにし、国を掌握、当時の魔王を瞬殺すると”天下布武”と称して統一戦争を仕掛け、

クレアブルは勇者召喚以前より混沌とした状況になってしまったとのこと。どうやら、自分たちの問題を他人

任せにするような連中には御しきれない、リアルチートな人物を召喚してしまったようだ。ご愁傷様である。


「まあとんでもないヤツだったが、妙に心奪われるような魅力ある男であったな・・・・・」


「うーむ、、、それはぜひ、彼に会って見たかったぞ」


もし、その彼とイザベルが出会ったら、最凶カップル誕生間違いなしである。クレアブルにとっては幸運な

ことであった。そして翌日、辺境都市ペルメに王都から勇者さまご一行が到着した。


「あれが王都の近衛騎士団か、大した練度ではないな」


護衛の騎士団を見たイザベルの感想である。どうひいき目に見ても、ルーク皇国やグラン西方帝国どころか、

ホラズム王国にも劣る練度であった。まあ、戦場の経験もなく、長年ぬるま湯につかっていたのであるから

無理もないところである。


「で、あれが勇者殿か・・・・・」


一際豪華な馬車から降りた勇者は、まだイザベルと同年代の少年であった。両手には美女を抱きかかえている。

その様子を見たイザベルは眉をひそめた。


「ふん、まだ世の中のことを知らぬ子供を、女で懐柔しようとしているか。この国もなかなか下種な手を

使いおるな」


皇女だけあって、イザベルはすぐに王国の目論見を看破した。もっとも何も知らない若者を酒や女、麻薬など

に溺れさせ、暗殺者やテロリストに仕立て上げることは、古来より地球世界でも行われていたことだ。特に

アールネス王国の専売特許というわけではない。


「みなさま、ペルメにようこそいらっしゃいました。私は代官を勤めておりますイーラエと申します」


「初めまして、私がペルメ冒険者ギルドマスターのロベルです」


ペルメの代表者2人が勇者一行にあいさつをする。だが、勇者はそれに返礼することもなく、


「ふうん、、、王都に比べるとずいぶんド田舎だね。まあ、王都も東京に比べたら田舎だけどさー」


イーラエとロベルはそんな勇者の無礼な態度にも営業スマイルを崩すことなく、”ささ、こちらで長旅の疲れ

を癒してください”などと、庁舎の方へ案内していった。


「なーに、あの勇者感じ悪いったらありゃしないわ」


「アヤーカちゃんの言う通りだ。オレたちだって最低限の礼儀は心得ているつもりだぜ」


ギルド内は、先ほどの勇者ご一行さまへの悪評プンプンであった。


「まあ、王国側もずいぶん甘やかしているみたいだからな、あの態度もいたしかたなかろう。それにお前ら、

この私にいきなりあいさつもなしに突っかかってきたのは、最低限の礼儀だったのかな?」


「や、やだなあ姉御、あれは若気のいたりってやつでさあ・・・・・」


「そ、そうなんです。もう、勘弁してくださいよう・・・・」


イザベルの言葉にむくつけき冒険者たちがヘイコラする。若気というにはずいぶんトウの立った、可愛げ

のない連中だ。


「しかし、イザベルよ。あいつらの実力はどのくらいと見たか?」


「勇者はそこそこだが、近衛騎士団はホラズムにも劣るな。あれがこの国の最高戦力か、ヴィドよ、その気

になれば我らだけで国盗りが可能だぞ」


イザベルの言葉に周囲の冒険者たちは、”さすが姉御だ””俺たちも手伝いますぜ”等と大盛上がりである。

ちょうど、ギルドに戻ってきたロベルはこの様子を見て、”はあ”とため息をついた。


「おいおい、王都の連中が来ているのに、冗談でもそんなことは言わないでくれ。私も反逆罪にはなりたく

ないからな」


「はっはっはっ、まあ小娘の戯言だ。それに国を盗った後、統治することを考えたらそんな面倒くさいこと

ごめんだからな」


「まあ、明日は勇者殿がこのギルドを訪問される。くれぐれもトラブルだけは起こさないでくれよ」


「「「「「「「はーいっ!」」」」」」」


返事だけは素直な連中だ。ロベルは何度目かわからないため息をついた。そんな彼に、ヴィドがそっと

紙包みを手渡す。


「ロベル殿、この胃薬良く効くぞ・・・・・」


「ヴィドローネ君、すまない・・・・・」


パープーばかりのギルド内で、苦労人な2人である。そんな様子を見ていたアヤーカは、そっと涙をぬぐう

のであった。


「勇者殿、こちらが我がペルメの冒険者ギルドです」


「・・・・・・・・・・・・・」


翌日、ロベルが案内役となり勇者ご一行がギルドへとやってきた。ロベルの説明にも、勇者は興味なさげ

であったが、受付カウンターに座るアヤーカを見つけると駆け寄っていきなりその手を取った。


「うわあ、この世界マジもんのケミミミがいるんだ! ねえ、今夜ぼくと付き合ってよ!」


「はあっ! 何言ってんのよこのマセガキ!」


アヤーカは勇者の手を払いのける。それを見ていた近衛騎士が気色ばんで、アヤーカの手をねじりあげた。


「この汚らわしい獣人が! 勇者様がお情けをくれてやるというのに拒否するか! 宿に連れていけ!」


「きゃっ、何するの! 痛いでしょう!」


辺境ではそうでもないが、王都では人族以外の種族への差別は激しい。近衛騎士は嫌がるアヤーカを

無理やり連行しようとした。


「嫌がる女性を無理やり連れていくことが勇者、近衛騎士のやることか。まったく誇りの欠片もない連中

だな」


「なに、貴様王都に逆らうか、、、、カハッ!」


イザベルの突きを受けた近衛騎士はくの字に折れ曲がり、壁に叩きつけられた。


「この程度で気を失うとは、戦場では役に立たぬぞ」


「ははは、姫騎士までいるとはホントにテンプレな世界だね。よし決めた、今夜の相手はお姉さんだ。くっ

殺せと言わせて見せるよ!」


勇者が口を開く。イザベルは、


「ふん、てんぷれが何だかわからぬが、私より弱い者の相手なぞせぬぞ。」


「なら、お姉さんより強いこと証明してみせるよ。ぼくが勝ったら付き合ってもらうよ」


こうして、異世界の召喚勇者vsイザベルの決闘が始まってしまった。周囲の冒険者からは”姉御、やっち

まえ”などのはやし立てる言葉が、ロベルとヴィドは”やっぱりこうなったか”と頭を抱えてしまったのだ。


「さて、決闘の前に名乗りをあげようか、私はイザベル・フォン・デルバーグだ」


「ぼくは不知火優斗、こちら風にいうとユウト・シラヌイ。ではいくよ、”深淵なる炎界の神よ、我に、、、、、、

がはっ!」


何やらブツブツ呪文を詠唱し始めたユウトに、一瞬で距離を詰めたイザベルの蹴りが炸裂する。かろうじて

直撃を避けた彼だが、10mほど後ろに吹っ飛んでしまう。


「ぐっ、まだ詠唱も完成していないのに、ずるいぞ!」


「何たわけたことを言っておる。敵がのんびり待っていてくれると思っているのか。まあいい、その魔法の

威力とやら、存分に見せてみよ」


「もうこっちも本気出すからな! 後悔するなよ!」


そして再び、ユウトは詠唱を始めた。イザベルは鼻ホジしながらそれを待っている。完全にナメきった対応だ。


「なあ兄い、、、、この勝負どっちが勝ちそうか」


「イザベルの敵ではないな、あやつ、頼むから国の勇者殺すなよ・・・・・」


そうこうしている内に詠唱が完成し、ユウトの手には巨大な火球が現れた。


「喰らえぼくの最強魔法、メギドの火!」


「ふんっ!」


だが、その火球はイザベルの突きで雲散霧消した。なんかどこかの魔王さまと戦った時に見たような光景だ。

デジャブである。


「そ、そんな、、、ぼくの最強ま、、、、あうっ!」


「だから、何敵の前で呆けておる、、、、もう少し戦い方の訓練しておけよ」


呆然としたユウトの股間に、イザベルの情け容赦ない一撃が襲いかかった。彼は口から泡を吹いて悶絶

した。ヴィドたちは”あーあ、やっぱり”と思いつつ、思わず自分の股間を押えてしまったのである。


「そんな、勇者さまがっ!」


「ヒィッ! 逃げろあれは魔王だ!」


ユウトを置き去りにしてトンズラしようとする近衛騎士たち、だがそれを見逃すイザベルではない。瞬時に

彼らの前に立ち塞がり、その退路を断った。


「護衛対象を見捨てて逃げるとはそれでも騎士か、それにこんなかよわい乙女に対して、誰が魔王だゴラァ!」


近衛騎士達はイザベルの怒気に当てられ、全員ヘナヘナと腰を抜かしてしまった。ロベルやヴィド、ギラン達

冒険者は、”えっ、、、誰がかよわい乙女だって””アヤーカちゃんのことじゃねえの”などと話していたのだが、

イザベルの一睨みでその口を閉じてしまったのである・・・・・


次回はいよいよ、魔王軍の本格的侵攻が始まる、、、、のかな?

ファンタジー編、あと2話程度で完了の予定です。

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