第9話 学問の道に終わりなし
「ふっふっふっ、やったなヴィド、我ら皇国竜騎士に不可能の文字はないぞ、、、、」
「ああ、これほど頭を使ったのはこれまでの人生、いや竜生ではじめてだったな、、、、」
そう、イザベルとヴィドは日本語を習い始めてからわずか10日で、日本語能力試験レベルN1相当の
テストに合格したのである。精も根も尽き果てた2人に講師がねぎらいの言葉をかけた。
「いや、まさかこれほどの短期間で日本語を習得されるとは思いませんでした。これなら日本で生活
するにはもう困りませんよ。本当にお疲れ様でした」
「いや、これも師のおかげ、感謝するぞ」
ほっと息をつく2人に、西川が声をかけた。
「いやあ、これでようやく本格的な勉強に入れますね。これが次の講義で使うテキストです」
「「えっ!」」
机の上に積み上げられていくテキストに、イザベルとヴィドの顔色が青ざめていく。更に別のテキストを
抱えて部屋に入ってきた大山、
「イザベルさんは高校に入学することになりますから、こちらの勉強も少し事前に予習しておいた方が
いいですね。まずは数学、物理、化学、英語、古文と、あ、それから次の講師の方は10分後にきますので」
「あ、悪魔だ、、、悪魔がここにいる、、、、、」
「我が竜族に伝わる伝説の邪神は、日本におったのか、、、、、」
2人がゆとりとは正反対のスパルタ教育に慄いていた頃、国会では吾妻首相と某野党の党首との
議論が行われていた。
「吾妻首相、異世界からの2人を日本に帰化させると判断されたのはなぜですか。中国政府も『我が国では
龍は神様であり、お迎えすることもやぶさかではない』と表明していましたが」
と、なぜか中国押しをする某野党党首。
「彼らはこちらの世界のことを全く知らず、しかも1人は未成年です。そのような状態でたらい回しにすることは
人道上も問題がありますね。2人にまず日本でこの世界の普遍的な価値観、人権の尊重、表現や信仰の自由
などを学んでいただき、この世界で自立できる力をつけていただきたいと考えております。その上で他の国に
いくかいかないか、ということは彼らの判断におまかせします」
暗に、『あの国はそんな価値観持ってないよね』と告げる吾妻首相、ネット上では”なぜに中国押し?”
”やっぱりあの党は中国と・・・・”という意見が大半を占め、某野党は支持率を落とすことになる。
別の野党議員が質問に立った。
「今回、彼らに敵意がなかったのは幸運でした。しかし、もし攻撃を受けていた場合民間にも大きな被害が
発生することが予想されます。今後、我が国の領土、領空、領海に突如として敵意を持った勢力が現れた
場合、それに対する防衛はどうなっているのか政府の見解をお聞きしたい」
これには名島防衛大臣が答弁に立った。
「今回の転移現象は彼らの世界”フェアリーアイズ”でも歴史上記録がないほどの、突発的な事象だった
ようです。ただし、このような不可思議な現象でなくとも、長年かけて潜伏させたゲリラ兵を一斉に武装蜂起
させる、あるいは民間船舶を装って近づき、大量破壊兵器を打ち込んでくる、という事態は十分予想されます。
防衛省としても不測の事態に際し国民の生命、財産を守るべく、より一層の即応能力の強化に努める
所存であります」
国会終了後、吾妻と斉木は議事堂の一室で休憩をとっていた。
「やれやれ、あそこまで露骨に中国寄りの姿勢を出すとはねえ、、、」と苦笑する吾妻。
「かの国の情報員たちも、いろいろ動きだしているようですよ。まあ公安にも監視させていますし、あまりにも
おいたが過ぎるようなら”内密に処理”するよう指示を出しています」と斉木。
「それに、あの子たちもさすがに戦士というか、外出している時不審者が近づいたらすぐ感知してSPに
伝えているそうですよ。悪意にはすごい敏感ですね」
「まったく、魔法なんてこちらの人間には使えないっていうのに、アメリカもサンプル調べてサジ投げたそうだ」
「あちらの世界の人たちにとって魔法は、呼吸するようなものなんでしょうねえ、、、、」
数日後、スパルタ教育にノックアウト寸前のイザベルたちの前に、斉木が帰化申請に必要な書類を携えて
訪れた。
「ふむふむ、抜けはないようね。こういう書類の記入も勉強になりますからね、、、、て、ヴィドローネさん、
年齢126歳ってなんですかこれは!」
「斉木殿、ドラゴンは長命の種族でな、大体寿命は千年だ。ヴィドはまだ若いドラゴンなんだ」
「この世界はマナがないからそれほど長くは生きられないな。おそらく300年くらいだろう」
300年でもギネス記録を大幅に塗り替えてしまう。斉木は考えることを放棄した。とりあえずマイナス100年で
ヴィドの公式年齢は26歳となったのである。
「しかし、斉木殿もまだ20代半ばとお見受けするのに、国の要職につかれているとは、、、、私も頑張らねば
ならないな」
「あらまあ、、、イザベルさんも努力すれば、きっといいところに就職できますよ」とまんざらでもない斉木。
「おい、斉木長官って、今年大学に入る息子さんがいるんじゃ・・・・・」
「しっ!」
日本人若く見える補正は異世界人にも有効だった。もっとも斉木は日本人からみても30代くらいに見えるので
無理もない。後で斉木の本当の年齢を知ったイザベルは、「日本には不老の魔導技術があるのか」と戦慄
したのだった。
斉木さんの本当の年齢は、”ピンポーン”
おや、こんな時間に誰が、、、ん、公安の方が何用で?
・・・・・その後、ロクイチの姿を見たものはいなかった、、、、