プロローグ-皇国竜騎士団出陣
「我ら、皇国を守護する者!ここに仇名す者どもを滅すると誓おう! 光の神よ、我らに加護あれ!」
「「「「「「応っ!」」」」」」
一人の中世風の甲冑を着込んだ騎士が剣を高く掲げながら叫び、周囲の騎士達がそれに答える。
これだけ見るとここは中世ヨーロッパのように思えるが、騎士達の後ろに控えるのは馬ではなく巨大な
ドラゴン。地球では伝説やフィクションの中でしか登場しない生物である。
そう、ここは地球とは異なる次元に存在するマナに満ち溢れた剣と魔法の世界”フェアリーアイズ”、
騎士達はその世界にある国のひとつ、ルーク皇国竜騎士団に所属する者たちであった。
それぞれの愛竜に騎乗し飛び立つ竜騎士団、その勇壮な光景を中世ヨーロッパ風な城のバルコニーより
見送る者たちがいた。
「カーク、イザベル、皆頼むぞ、、、、」と呟くのはルーク皇国の現皇王ダリウス・フォン・デルバーグ。
「みな、わが皇国が誇る精鋭よ。心配ないわ」と微笑みながら返すのは皇妃リーゼ。
「そうです。特に姉上の武は皇国どころか他国でもすでに並ぶ者がおらぬほど、必ずや勝利をもたらしてくれることでしょう」
皇太子であるユリウスがそう答える。
姉上とは、先にダリウスが呟いたイザベル・フォン・デルバーグ、皇女でありながら類まれな武の才能
に恵まれ、現在は17歳という年齢でありながら皇国竜騎士団副団長に任じられている。1対1の剣技では
すでに現団長であるカーク・スプラフトをも凌いでおり、今後経験を積んでゆけば次期団長に間違いなく
任命されるであろう。
しかし、まだ7歳である末娘のルーシェは不安な表情である、これを見たユリウスが「心配ないぞ。
姉上が負けるところなぞ想像もつかないではないか」と安心させるように話かける。
が、ルーシェは”皇国の宝石”とまで讃えられた美しい瞳に憂いをにじませながら、
「でも、姉上パープーですから、、、、」
と言い放った。
「ッ、、、それは、、、」と実の妹の情け容赦ない一言に絶句したユリウスであったが、否定はしない。
「ルーシェよ。イザベルは確かにパープーだが、その武は本物だ。戦場で遅れをとることはあるまい」
とダリウス。
「そうよ、確かにイザベルはパープーでスカポンタンだけど、武だけは問題ない、”皇国の守護天使”の
呼び名は伊達ではないのよ」
と、リーゼにいたっては追加でスカポンタン認定という有様であった。
「「「「「イザベル殿下、なんと不憫な、、、、、」」」」」
宰相や大臣などその場にいた者は皆、実の家族にパープー呼ばわりされるイザベルを憐み、そっと涙を
ぬぐうのであった。
「ぶぇっっくしっ!!」
「おいイザベルどうした。これから戦というのにカゼでも引いたか?」
イザベルに話しかけるのは彼女が騎乗するドラゴン”ヴィドローネ”、そう、皇国竜騎士団に所属する
ドラゴンは全て人語を理解し、人以上の知性を持つ高位のドラゴンであった。
他国にも竜騎士団は存在するが、それらは知性のないワイバーンを飼育して運用しており、皇国竜騎士団
とは空戦において例えれば第二次世界大戦時のレシプロ戦闘機と、F-22ラプターくらいの実力差がある。
もちろん、騎士の側もドラゴンに認められなければ騎乗することはかなわない。厳しい訓練を経て
ドラゴンに認められた騎士は、”魂の盟約”を結びその儀式を経て、晴れて皇国竜騎士と名乗ることが
できる。
故に、他国に比べその数は圧倒的に少ないものの、ルーク皇国竜騎士団はフェアリーアイズにおい
て世界最強の実力を誇っているのである。
「うーむ、、、鼻にゴミでも入ったか」
「おいおい、あと2時間もすればホラズム軍と遭遇だぜ。空戦前には鼻かんどけよ」
「ふん、鼻づまりだろうが侵略者どもに遅れをとる自分ではないわ!」と鼻息高いイザベル。
「まったく、、、油断すんなよ」と苦笑して答えるヴィドローネ。
彼女らがこれから対峙するのは隣国であるホラズム王国軍。以前は友好的な関係を保っていたが、
前王の弟が国王を暗殺し、国を簒奪した20年前からその関係は悪化した。
諫言する家臣を粛清し周囲をおべっか使いの奸臣で固め、民には圧政を敷き搾取した富で酒池肉林に
耽る様はまさに愚王。
自らの贅沢に国内の税だけでは足りないと見るや、ルーク皇国の領地を奪いとろうと軍を出しては
手ひどい反撃を受けるということを繰り返してきた。
「先の戦でもさんざん叩き潰したのに、懲りないヤツラだ、、、、」
前回の戦闘でホラズムの竜騎士団は皇国に200騎以上が撃墜されるという被害を出していた。それに
対して皇国側は出撃した50騎全て帰還、実力差を考えても恐るべきキルレシオであった。
「よーし、おまえらそろそろ敵さんとご対面だ。気合いれっぞ!」団長のカークより各騎士に魔信が
入った。
「はっはっは、団長、またアレですか」
「おうよ、オレに続け」
そして、カークが歌いだす。
”吹きすさぶ嵐の時も、吹雪の夜も”
騎士達だけでなく、ドラゴンもそれに続く
”灼熱の砂漠、凍てついた氷原で”
”全身が泥にまみれようとも、我らが心は友と共に有り”
”我らがドラゴン、風を切り、天空を駆けよ”
そして、彼らの士気は最高潮に達した。
みなさんはじめまして。今回初めて小説を執筆してみました。ご愛読いただければ幸いです。
なお、作中にある竜騎士の唄は、映画”バルジ大作戦”への自分なりのオマージュです。