2
目を覚ましたとき小太郎は大きなベッドに寝かされていた。
(……あれ?僕死んだんじゃなかったっけ?)
目を開けるとそこは広い部屋だった。家具は見るからに高そうな調度品が置かれ窓から太陽の光が差し込んでいた。
自分が寝ていたベッドも三人分は寝れるのではないかというくらい大きかった。
「僕、生きてる?てかここどこ?」
周りを見渡し、身体に不調はないかを確認しながら自分の置かれてる状況を整理した。
(確か、新幹線に乗っていてその新幹線が事故って気絶したとこまでは覚えているんだけど……)
そんなことを考えていると、部屋のドアが開き誰かが部屋に入ってきた。
「あら、気がついた?」
美しい女性だった。
腰まで届く長い金色の髪を下ろし、理知的な瞳が気遣うようにこちらを見ている。柔らかな面差しには美しさと幼さが同居し、どことなく感じさせる高貴さが危うげな魅力すら生み出していた。
身長は百六十センチほど。白を基調とした服装は華美な装飾などなく、シンプルさが逆にその存在感を際立たせる。
小太郎はその女性を思わず見つめてしまっていた。
「大丈夫?まだ具合が悪いのかしら?」
女性は視線をはずさない小太郎がまだ具合悪いのかと心配そうに小太郎の顔を覗き込む。
「い、いや、大丈夫です!はい!!」
「そう?それならよかった」
そう言いながら安心したように微笑む彼女はまるで女神のようだった。
「ところであなた、どこから来たの?見たことのない服を着ているし、髪の毛が黒い人なんて初めて見たわ」
「えっと……僕、なんでここで寝かされていたんですか?」
「うちの庭で倒れていたのよ。血だらけで呼んでも返事がないし何日も寝てたんだから」
「そう、なんですか……」
「それでさっきの質問の続き。あなたはどこから来たの?」
「わからない、です……。乗っていた電車が事故に遭ってその衝撃で頭をぶつけて……」
「デンシャ?馬車みたいなものかしら?」
「いや、電車は電気で動く乗り物ですけど……」
「デンキとはなにかしら?」
「電気っていうのは……って、うん?」
先ほどから何か致命的に会話がおかしい。現代の人間で電車や電気がわからない者などいるのだろうか?
嫌な予感がする。
「あの……。ここ、どこですか?」
小太郎はその予感を否定するために祈るように最初の疑問を金髪の女性に投げ掛けた。
「?、ここはヘスティア王国城下の貴族街よ?」
聞いたことのない名前だった。
「ここは日本ではないんですか?」
「ニホンとはなにかしら?あなたの国の名前?」
愕然とした。ここは生まれ育った日本ではない?事故に遭った拍子に聞いたこともない国に飛ばされたと言うのだろうか?
里の長に聞いたことがある。古くからこの世には神隠しというものがあるという。
人間がある日忽然と消えうせる現象。人が行方不明になったり、街や里からなんの前触れも無く失踪するのだとか。
自分もそれに巻き込まれたと言うのだろうか?
考え込む小太郎に女性は明るい声で話題を変えた。
「そういえば自己紹介してなかったわね。私はフローラ・アングレイ。アングレイ家の当主です。あなたは?」
「蓮見小太郎です……」
「ハスミ・コタローね?ハスミがファーストネームかしら」
「いえ、小太郎が名前です」
「そう、コタローね?よろしくコタロー」
そう言ってフローラは微笑みながら手を差し出した。