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アトノス  作者: 蓮野 刃
1/1

化け世界

  東京、渋谷。

  かつてここは、世界的にもトップクラスの大都会だった。若者の街とまで言われ、最先端のファッションなどの流行を揃えた日本屈指の大都会。


  それがもう・・・・・見る影がなくなったのは、いつからだろう。

  なにも、誰もいない道路。車はあることにはあるが数台しかなく、それすらも錆び付いて動なく意味をなさない。


  いや、正確にはこの道路には2人いる。


  絶賛逃走中、全力疾走の俺と・・・・・もうひとり!


「にーがーすーかぁ!!!!」


  ドンッ!!とさっきまで俺が踏んでいたアスファルトが爆発し、真っ赤に発光していた。

  犯人は・・・・・俺を追いかけてくる赤髪短髪の少女だ。俺と・・・・・同い年くらい(17歳)っぽい。

  そして、言動のようにヤンチャというか荒っぽいというか野生というか・・・・・ドンッ!!!!!


「てめぇ今ガサツって思っただろ、人の顔見て!!」

「思ってねぇ!!思いかけたけど!!」


  なんだこいつ!?さっきから1発で死ぬような攻撃を何発も何発も!!


「さっきから何のようだ!!俺は能力者じゃないって何回も言ってるだろ!」

「あん?調べついてるっていってあんだろーが!!大人しくあたし達の派閥に入れ!!」

 

  派閥・・・・・いわばグループ。この世界で生きていくための集団のようなものだ。

  そして、その派閥には・・・・・強力な能力者・・・・・超能力者が必要だ。

  もちろん、超能力者なんてこの世になかなか存在しない。だからこそ、ここまで血眼になって探すのだ。


「あのなぁ・・・・・そんなに超能力者って言い張るんだったら証拠はあるんだろうな!?」

「ねぇよ?」

「・・・・・は!?」


  は!?コイツ、今サラッとなんの証拠もなく善良な一般市民を殺そうとしてることを認めたぞ!?

  彼女は口を開く。

「証拠かぁ・・・・・たしかにねぇなぁ・・・・・。だったら・・・・・」

  ニヤリ・・・・・という音が聞こえた気がした。

  彼女はバッと片手を上げた。


「作る」


  グォォォォォ・・・・・と何か化物の咆哮のような地響きがあたりを包む。いや、化物じゃない。これは・・・・・業火の音だ。

 

  彼女の上げた片手のひらに炎の巨大な球が出来上がっていく!そのあまりの火力に咆哮のような音が聞こえるのだ。

  そう、彼女は炎を操る能力があるのだろう。しかも、かなり強力!!

  その大きさ・・・・・1トントラック並み!!


「お、おいおいおいおい!!」

「?なんだ?」

「なんだ、じゃねぇよ!!明らかにそれぶつけるつもりだろ!死ぬわ!!」

「あー・・・・・そだな、軽く1000度はあるから死ぬかもなー」

「ご丁寧な温度説明どうもありがとう!!いいから止めてくんない!?聞いてる!?僕、一般ピーポー!!!」


「うるせぇ黙れ」


  赤髪の少女は無慈悲にその火球を投げつけるかのように、手を振り下ろした。

  迫り来る火球に、俺は思った・・・・・。


  あぁ・・・・・これは流石に無理だわ・・・・・一般人の俺は・・・・・死ぬに決まってんだろ・・・・・。


  ほんとに一般人ならね


  ブォォォォォォッッ!!!!


  俺に当たりそうになった超巨大火球は、轟音とともに霧散した。

  まるで、規模は違うがロウソクの灯火が風になびかれ消えてしまうように。


「ったく・・・・・人が一般人のふりしてるんだから、もうちょっと気使って逃げてくれたりしないもんかねぇ・・・・・」

「はっ!誰がするかよ」


  彼女はしてやったり、という笑みを口元に浮かべて前髪を上にかき上げる。

「化けの皮、剥がれたじゃねぇか」


  はぁ・・・・・まったくだ・・・・・。ちょっと外出ただけでこれかよ・・・・・。だからこの世界は嫌なんだ、昔も・・・・・そして今も。

  俺は口を開く


「あのさぁ…今俺、寝起きだったんだよね」

「は?それがどーした」

「今さぁ・・・・・学校生活ってのが無くなって、ネットで見た引きこもりのニート生活を満喫しててさぁ・・・・・これがなかなかいい生活でさぁ」

「・・・・・?なにいって・・・・・」

「食料なくなったから調達しようとして外出たらこの有様・・・・・はぁ・・・・・ついてねぇ・・・・・」

「あーあー、ご愁傷様。ついてなかったな、残念だったなぁ」


  プチン


  シャッ!


「へ?」

  俺の目の前の少女の頬から一の字に赤い線が浮かぶと同時にその先の方から血がツーっと頬を伝って流れ落ちる。


「ついてねぇのは、そっちだ。ほんと・・・・・ついてない」


「は?え?ちょっ・・・・・」

 

「俺は・・・・・眠いんだよぉぉぉぉ!!!!」


  ガシャァァァンッ!!!


  その音は、半径100m以内の建物のガラスが粉砕した音だった・・・・・。


 ◆


  DNA、通称デオキシリボ核酸。

  その存在は生物そのものと考えてもいいだろう。生物の設計図と呼ばれるほどだ。姿形、習性、これからかかる病気ですらも、このDNAで決まってしまうのだ。


  アデニン、チミン、グアニン、アデシン・・・・・この4つがDNAを構成している。

  このたった4つの組み合わせ、配列だけで生物は決定づけられてしまう。


  さて、ここに二人の人間がいます。

  イケメンで小さい頃からジャ○ーズ事務所で育成され、現在はトップアイドルのSさん。

  一方、容姿、運動神経、頭脳にまったく恵まれず、ひねくれて高校にも行かず引きこもるGさん。


  DNA、何%違うと思いますか?

 

  10%?それとも20%?はたまた100%?


  否です。


  同じ人類であれば、DNAの違いは・・・・・・・・・・0.1%と呼ばれています。


  では、人間に一番近いと言われるチンパンジーはどうでしょう?


  これは100%違うだろう、と思う人も多いでしょう。


  残念、実は1%しか違わないのです。


  DNAをパーセンテージで表し生物に当てはめると、我々はあまり変わらない。


  逆にどうだろう?

  もしも・・・・・DNAを生物がギリギリ死なない範囲で変換させることができる・・・・・そうだなぁ・・・・・


  そうだ。


  もしも、そういうウィルスができたら、世界はどうなるだろう。


 ◆


「つまり、そのDNAとやらを変換しちまうウィルスのせいでこんな世界になってるってことでいいのか、テト?」


  ややさっきより西に移動すると、緑が増え、老朽化したアスファルトのヒビの隙間からは、雑草が元気に育ち生えている。

  あぐらをかいている俺の前にいるのは、かなり小柄なフードをかぶった少女だ。

  歳は仕事上教えてくれないが、フードから除く幼い顔立ちと身長からして、12歳・・・・・くらいだろうと想像している。ロリコン歓喜だな、見た感じ美少女だし。


  テト、そう俺に呼ばれた少女は実に軽い口調で答えた。

「そっすね、情報元はおしえられないっすけど!」

  八重歯を覗かせニヤりと笑うテト。・・・・・さきほどの暴力赤毛女と違い、テトは可愛らしさがあるからまだマシだ。


「なにニヤニヤしてるんすか、『宮本武蔵』さん」

「お前だってしてんだろ、そしてその名前で呼ぶな」

「本名じゃないっすか」

「・・・・・そうだが・・・・・ほら、新手のキラキラネームみたいであんまり好きじゃないから、ムサシで頼む」


  そう、俺の名前は宮本武蔵。現代日本にも伝わるこの名前は、最強のサムライとして海外ですら凄まじい知名度を誇っていたという

 。もちろん俺は同姓同名だ。


  二天一流、太刀と小刀の二刀流開祖。

  生涯約60もの決闘をし、全勝を収める。

  卑怯な100対1の戦いですら、全て自分でなぎ倒したらしい。

  その握力は素振りで切り立ての真竹をバラバラに割ってしまう。


「にしても宮本武蔵なんて畏れ多くてなのれないんじゃないっすかぁ?天下無双の武人の名前は・・・・・ププッ・・・・・」

「お察しの通りで・・・・・って、てめぇ笑いやがったろ!?」

「えwwwなんのことwwwですかwww」

「いや、その『www』うざいから!果てしなくうざいから!」

「しかも剣道すらやっていないという・・・・・」

「・・・・・まったくもってそのとおり」


  剣道どころか、何もやっていない・・・・・というか当然か。

  俺が中学3年生の頃にはもう世界は混沌状態だったからなぁ。少し陸上部に入ってたくらいか。まぁ、ほとんど幽霊部員だったけど。


  いや、俺の身の上なんてどうでもいいか。


「なぁ、テト」

「なんすか?」


  彼女は情報屋。いつも世話になってるがお互い情けはない。よって・・・・・

「その情報の値段は?」

  テトはニヤリと八重歯を覗かせると、答えた。

「キャット、5体で」

「・・・・・多くね?」

「いえいえ、だいぶオマケしたんすよ?ホントは8体っす」

「まじで・・・・・?」

「えぇ、まじっす。だいぶ大変だったんですからね、あの情報手にいれるのは・・・・・」

  テトはまたしても俺の顔をのぞき込みながら笑う。

「8体にしますか?」

「いいえ、結構です、ありがとうございますテトさん!」


  はぁ・・・・・とため息をついて俺は足に力を込める。

「んじゃ、ここか近くの洞窟かに待っててくれ」

  と俺が出発しようとしたところで彼女がストップをかけてきた。


「なにやってるんっすか、連れてってくださいよ」

「は?なんで?」

「5体にした変わりにおんぶを頼むっす!」

 

  ・・・・・今コイツから犬のしっぽみたいのが見えた気がする。


 ◆

 

「おぉぉ!!最高っす!気分爽快っす!」

  俺の背中にしがみつきながら、おそらく目を輝かせながらテトは大声を上げている。

「それはいいけど・・・・・これキャット3体分って安くね?」

  風を切りながら俺は大声で返す。

  周りの風の轟音で大声を出さないと相手には聞こえないのだ。

「だって、このご時世飛行機も飛んでないんすよ?」

「・・・・・まぁ、そうだが」

「・・・・・それとも8体にしてほしいんすか?」

「いいえ5体でお願いします!!」

「よろしい」


  相変わらず轟音が凄まじい。

  そりゃそーだ。

  俺らは、とある事情により空を飛んでいるのだから。


「あ、宮本武蔵さん!西方向にキャット6体っす!」

「了解!・・・・・って今てめぇまたフルネームで呼んだろ!!」

「てへぺろ☆」

「振り落とすぞ?」

「・・・・・8体」

「すんません」


  そんなこんなでとりあえずキャットの進行方向先400メートル地点に着陸する。


  キャット・・・・・直訳すると猫だが・・・・・。

  ウィルスが他の生物を根こそぎ化物にして以来、ほとんどの生物が人間の驚異になった。それはあの可愛らしい猫も例外ではなく、完全なる戦闘体型に変わっていた。

  大きさはライオンより1回り小さいくらいと、猫にしてはデカすぎる。耳は狐並みに大きくなりより音を聞き取れるように。目はほとんど変わらない。

  体毛は触れただけでも出血は免れないトゲの嵐と化し、異様に発達した足と、その先端にある爪はライオンの2倍の大きさで、その輝きはさながら日本刀のよう・・・・・。


  こんなのがウヨウヨいたら、そりゃ人類は追い詰められますわな。


「なぁ、テト、ナイフ貸してくんない?どうせ持ってんだろ?」

「えー・・・・・」

  「・・・・・なんだよ」

  不満そうに口をとがらせるテトに俺はまゆにシワを寄せる。


「だってぇ、絶対殺傷目的じゃないですかぁ・・・・・あんまり血糊つけたくないし、洗うのめんどいんすよねぇ・・・・・。しかもまったくといっていいほど落ちませんし」

「・・・・・つまり?」

「3本上げますから、6体のうち5.5体で手を打ちましょう」


  つまり、新品同様のナイフを3本やるから6体目半分よこせと。

  ・・・・・まぁ、5体も6体もさして変わらんが・・・・・。ナイフ3本って高くね!?


「はぁ・・・・・まぁ、いっか。手を打とう」

「ありがとっす、宮本武蔵さん」

「どーいたしまして、そしてお前嫌がらせすぎるわ!」

「なんのことっすか?」

「・・・・・いや、なんでもない」

  ニヤニヤ笑いながらナイフをクルクルこれみよがしに指の先で回しているテトに少々不満を感じたが、大人だから黙っておくことにする。

  ・・・・・大人だからな!!


「あ、きたっすよー、ほれ」

  そういいナイフを3本俺にテトは投げてよこした。ナイフは日の光を浴びて空中で反射でキラリと光を放ち俺の手に収まる。

「おう、さんきゅ」


  さっきから土煙がこっちに向かっているのがわかる。匂いを嗅ぎつけて走ってきてるのであろう。さすが猫、足が速い。もうすぐ目の前だ。


「テト、5mくらい後ろにいろよ」

「はーい」

  5m、それは離れすぎると守りづらいし、逆に近すぎると俺が巻き込む可能性があるからだ。・・・・・すこーしまだ近いかな・・・・・いや、キャットくらいだったら・・・・・。


  俺は猫が変化した化物6体を目の前にして、両手に力を込め始めていた・・・・・。


  ◆テト視点


  5m前に、彼、宮本武蔵さんがナイフを左手に持って立っている。


  初めてあったのはいつか忘れたけど、その名前のインパクトで忘れたことのない取引相手だろう。

  もちろん、それ以外にも忘れられない理由はあるのだが・・・・・。


  彼が私にナイフを借りたわけ。

  それは彼の「能力」に殺傷能力が無いからだ。モノを利用し、初めて真価を見せるのだ。


  ビュゥ・・・・・


  彼は拾ったアスファルトの破片数個を空中に放ると、キャットに右手を伸ばし、化物に向けてるにぎての延長線上に破片が落ちた瞬間、叫んだ!


「いけ、目潰し!!!」


  ブォォォォっ!!!といきなり風が吹いたかと思うと、超絶的な空気圧に晒されたアスファルトの破片はショットガンのように、キャット達の顔面に命中!!


「ガァァァァ!?」

  と正しく阿鼻叫喚。キャットたちは目を抑え転げ回る。それはそうだ。どんな生物でも目にダメージ食らったらかなり痛い。戦闘どころじゃないだろう。


  だが、後方の方にいた2体は目潰し攻撃から逃れたらしく、凄まじい跳躍能力で地面を蹴り跳んできた!

  彼は後にしよう、ということなのか宮本さんを飛び越えるように、跳躍してたのだ。

 なるほど、たしかに私の方が弱そうだ。しかも無防備に武器も持っていない。しかし、私はそれでも思った。


  馬鹿だな・・・・・と


「おいおい、敵に腹見せるとかいい度胸だな!!」

  といい宮本さんは右手を化物に向ける。

  肌で感じられる風が一瞬で家をも根元からはぎ取る超暴風となって、空中の空気を巻き込んでいく!

  正しく竜巻。

  彼の右手の先から放たれているように見える竜巻は一瞬でキャット2体を絡めとり、巻き込み、自由を奪う。


  化物たちは何が起こったかわからないようだ。ジタバタとガァ!!と咆哮を上げている。

  お互いの体毛と爪が当たり、双方既に傷だらけである。


  不思議と私の方には風がフードを剥がしそうになるくらいの風しか来ない。・・・・・彼が制御しているのか?


「そりゃ!!」

  彼は竜巻をまるで木の棒切れであるかのように、豪快に残り4体のキャットになぎ払った。

  当然のように残りの4体も竜巻に引き込まれ、全怪物が竜巻の中に飲み込まれた。


「なぁ、テト!!!」

「なんすか!!」

  竜巻の轟音のせいで聞こえないためか、大声を出して私に戦闘中初めて呼びかける。

「このナイフ、こいつら貫けるくらいには頑丈なのか!?」

「ぜんっぜん大丈夫っす!!」

「おっけ!!」


  そういうが早いや、ナイフを3本まとめて竜巻に放り込む!!


  ガァァァァ!!ギャァァ!!!


  竜巻の風に加速されたナイフは容赦なく、キャット達を貫いていく。

  何度も何度も何度も何度も・・・・・。

 

  やがて、化物たちの苦痛の叫びは消え、風もそよ風が吹くだけとなった。


「ふぅ・・・・・あぁ!!つっかれたぁ!!」

  化物を地面に下ろしてから、彼はハァハァと息を荒げながらその場にへたりこんだ。


  相変わらず・・・・・凄まじい、見てて飽きない。

  戦闘最中は結構カッコイイが・・・・・終わるとなんて残念なんだろう。

  ・・・・・まぁ、本人には死んでも言わないが。

 

  彼の名前は宮本武蔵。

  風や空気圧を操り、猛威を振るうこの世界の数少ない超能力者である。


 

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