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喋れない勇者  作者: タミト
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1話 「そして伝説へ…いけると思った。」

半分を斬られてぎりぎり天井についているシャンドゥリエの光が戦場を照らす。閃光が空を切り裂くように、少し縮んだ男の体が飛び上がった。凶々しい爪を振る女性は準備していた呪文を破棄し急速に防御の壁を展開する。巨大な魔力に純粋な武力がぶつかり、破壊の響を生む。魔王城の最上層。神魔の傳の床がその衝撃に耐えず、ぶち壊された。歯を食いしばった女性は片手で壁を維持しながら、ほかの手では攻撃の呪いを準備する。だが、素早く彼女の範囲から離れた彼は後ろに下がり、自分の身を壁で支えた。二人の間にはまた荒い息音だけが流れる。


「ハア…ハア…」

と、女は…いいや、魔王軍の指揮者であり、この城の主である魔王は呼吸を整える。どことなく嬉しそうな顔とは逆に目に宿った殺気は本物だった。それに対し男の顔には少しも疲れた気配はなく、ただ自分の剣を両手で構え、また襲い掛かるための準備をする。


「ふふ……。強い…!やはり強いな!勇者よ!単身で余に挑み、余の玉体をここまで追い詰めるなんて!」

覇気の宿った強い声が神魔の傳を揺さぶる。一般人が聞いたらその場で失禁し、気絶してしまいそうな魔力を持つ叫びだった。だが、勇者と呼ばれた男はただ魔王を静かに見つめるだけだった。


「余と交わす言葉などいないというのか?いいだろう。気に入ったぞ。その強さ、その素晴らしい精神力!余と共に世界を支配しようではないか!この世界の半分をくれてやる!」

どこの竜王みたいな台詞を勢い良く叫んだ。その顔はすでに勝利を確信したかの様な笑みを流していた。だが、勇者は微動もしない。


「やれやれ…共に旅してきた仲間たちを心配しているのか。いいだろう。悪くない。ならば六割はどうだ?所詮お前の仲間など、余にたどり着くための脇役に過ぎんよ。」

「……」

まるで値段の駆け引きをするように世界を割って、天秤の上に載せる。しかし、またもや勇者の口は少しも開かない。息の音も聞こえない静けさ。彼らの元に、どんどんと近づいている兵士の喊声だけが響く。


「ああ、そうだったな。下にはお前らに付いて来た馬鹿みたいな連合軍の人間共がいたな。ならば彼らの命を合わせ、七割をで満足しろ。」

「……」

まるで答える気がないようだ。ここまで来たらもはや取引ではない。コントに近い。

「なるほど。その力に相応しい欲望の大きさよ。八割だ。これは余の部下たちによって死んでいた人間の命の価値を全て足したものだ!」

全然興味ない、といっているのか。勇者はただ顔を横に振った。

「よ、余の好意を馬鹿にするのか!余だって事情が色々あるんだ!使命を全うするためなら…いや、九割!九割だぞ!これ以上はだめだ!」

勇者はため息しながら力を抜いていた剣を持ち上げた。その刃先が向かうのは先と変わらず魔王の首だった。勇者の姿勢に力が入り、鞘と、背中のマントが揺れる。 それに対し…


「な、何だよ…貴様いったい何者だ…!余がこんなにも頑張って話し会いで終わらせようとしてるのに答えもしないし!余を馬鹿にしてるのか!?じゃ、じゃあ…十、十割…ひっく。くすん…父上…!」


泣かせてしまった。魔王の顔は凄いことになっていた。赤い目からはガラス玉のような涙が流れていて、頬は先ほどのカリスマを微塵も感じられないほど赤くなってしまった。魔法で伸ばしていた爪も元通り。涙を拭うために一生懸命手を動かしていた。


「くん…ハンカチ…あ、洗濯中だった……。ま、まあ、よい。お前がそんな物では動かないということは良く分かった。ならば……。ならば……!」

何故か泣いている時よりも赤くなってしまった頬で勇者を見つめながら大きく息を吸う。


「ならば!余の体をくれてやる!地上最強の嫁を得ろ!」

「お待たせしました!勇者さま!」

魔王の自爆音と共に、神魔の傳の扉が強く開いた。そこから姿を現したのは白いワンピースに、知的な顔をした、女。魔力で輝く、満天の星を見る知恵の瞳を眼鏡で隠した、勇者一行の一人。賢者だった。だが、この説明文が勇者と魔王の頭の中から再生された直後、魔王は賢者に聞かれたということに気が付き、デレてしまう前に。


賢者が爆発した。


「はあ?!なに言ってるんですか!?この角付いたメス豚が!?」

水の流れるようなペースで飛び出した暴言には魔王はもちろん勇者もビビッてしまった。

「メ、メス豚!?崇高なる使命を持つ…史上最強の魔龍(ティアマット)のただ一人の孫娘である余に何たる妄言……」

「シャラップ!ドラゴンビッチ!大体、そんなひらひらなドレスを着て勇者様と一騎打ちなんて。頭大丈夫ですか?良く聞きなさい!勇者様を【自主規制】できるのはただ一人!このスーパー絶頂ジーニアス魔法少女である賢者ちゃんだけなんですよ!」

ドーン!とする音が勇者と魔王の後頭部を強くぶん殴るように脳で響く。公開されたらアウト。限りなくアウトに近いアウトの発言を堂々とぶちかます爆弾のような存在。そのあまりにも常識離れの痴女っぷりに魔王は言葉を失ってしまったのか。金魚みたいに口をぱくぱく……。だが、さすが魔王をやっているだけあってすぐにメンタルを回復し大きく叫んだ。いいや、悲鳴に近いものだったが。


「こ、これが本当に賢者たる者の言い草か?!勇者よ!一体全体あの女はなんなのだ!まるで意味が分からんぞ!」

魔王の言葉に、勇者も賢者からドン引きするしかなかった。賢者もその視線を感じて、自分が何を言ってしまったのかを気づき、顔を赤く染める。

「いや、いや、いまさらそんなんやっても…」

「す、すみません。どうやら賢者モードが解けていたようで、勇者さま、すぐ帰ってきます。」

魔王の突込みを無視して一人で部屋を出て行ってしまった。それを見て、魔王はうう…と、嘆くだけだった。勇者はまたため息をしながら鞘に剣を戻した。どうも戦える雰囲気ではない。おとなしく座って賢者本人か、魔王のメンタルが帰ってくるのを待つしかなかった。


少し待つと、先ほどとは違って、スッと扉が開いた。だが、賢者自身は少し昂ぶった顔で謎の液体が付いた手をハンカチで拭いでいる。何故か鼻息も荒い。それなのにさっきとは違う、何事も受け入れることができるオーラが全身から漏れ出ていた。


「さあ、話を聞かせてください。魔王。一体何があったんですか?何故そのような発言を?今の…賢者モードに入った私なら、寛大ですよ。」

「おま、おままままま!余の見えないところで一体何をしてきたんだ!世が仕事をこなし、趣味活動もする神魔の傳の神聖な扉の前で一体何をしてきたのだ!!」

「さて、何のことでしょうか。ご心配なく、これが私の本来の姿です。ここまで来る途中は少々自重していましたが、どうやら連合の兵士の方々では私を満足させてくれませんでしたので…」

「ま、満足?」

「ええ。あ、でも本当にただ治療魔術を行っただけです。ただその効率を上げるために少々スキンシップを取る必要があっただけで……本番はしてませんからね、勇者様?彼らの粗末なものでは私を崩すことはできませんよ!」

いーやんなんて可愛らしい悲鳴を上げやがる賢者の前で、魔王はもう黙ってしまった。いいや、もうちょっと正確に言えばドン引きして、もう相手する気力が残っていなかった。


「もう、もういい!貴様はそんな低俗な話をするため余のところまで来たのか?!」

「おっと、そうでした。忘れていましたよ。で、何でしたっけ?勇者様にその貧…失礼。貧弱な体を捧げるとか?(笑)」

「違う!何で言い直した?!何で一回止まったのにそのまま言ったんだ!?それに話も論点も違う!半笑いするな!」

「いや、だって失礼しますから失礼って言ったんですけど。」

「失礼って自覚があるならやめろォ!」

もう滅茶苦茶だ。どう見ても小柄な少女(魔王)をいじめるはしたない痴女(賢者)の戦いにしか見えない。


「貴様ら一体何なんだ!4人で来るって聞いたのに結局二人だけだし!他の二人は!?格闘家と戦士はどこ行った!貴様らのバランス悪いパーティーの盾役はどこへ行ったんだ!」

勇者は魔王の言葉を聞いて、自分も知りたいという表情で賢者に振り向いた。確か賢者はあの二人と一緒にいたはず…。賢者はようやく彼女たちのことを思い出して少し沈黙した。

そして、

「ああ、つまんない技に引っかかっていたので捨てて来ました」

「格闘家ー!戦士ー!」

魔王が勇者一行の心配をするという奇妙な事態が、いま魔王城の頂上で広がっていた。


「悪魔!鬼!人でなし!」

「それ全部あんたでしょうが。それに、彼女たちは大丈夫ですよ。何だって体力のステータスだけは私より上ですから。そ・れ・よ・り!重要なのは貴方ですよ!ご自分の心配からしてはどうですか?まな板トカゲ!」

「うぐっ。ま、まな板…」

「ええ、かなりまな板ですよ。それ。そんな身体じゃぁ勇者さまの聖剣は受けきれませんよ。スライムがドラゴンに挑むようなものです。」

「スライム?!ドラゴンは余だろ!?」

煽るな…と、勇者は面白いからもうちょっと見ていよう。と思った。魔王は慌てて弁明する罪人のように賢者から視線をそらした。


「か、覚悟ならできてるし。所詮は人間。魔物の物とは比べ物にならないだろう?本で見たんだよ。余は。それにな、魔物の中にはいつもすっぽんぽんの奴らもいるんだ。どんな物を見ても、余が驚くことなんてありえない。」

賢者は魔王の答えを聞いた途端、また気持ち悪い笑いをしながら、いつの間にか勇者の後ろに立っていた。まるで蛇のようなぬるぬるとした動きに、油断していた勇者は邪悪な気配を感じ取ったが、すでに賢者の手は動いていた。


「ではお見せしましょう!勇者様の股間に聳え立つファイナルウェポン!これぞ世界を救う聖剣です!」

勢いよく引き下ろした勇者のズボン。いいや、ズボンだけじゃない。彼の下着まで一気に連れて行かれた。魔王の瞳孔に大きな揺れが生じる。慌てて手で自分の目を防ぐが、隙間見えてるぞ。

「え…!?………………?!ひっ!?」


勇者は自分の服を元通りにすると同時に賢者に拳骨を下した。「あへぇ!?」という悲鳴と共にその場に倒れる賢者。この瞬間わずか0.7秒である。

「ゆ、勇者よ、良くやった!」

賢者の暴挙に勇者も顔を真っ赤に染めて心底恐怖に震えた。魔王より恐ろしい女、それがこの賢者だともう一度実感した。一体賢者モードとはなんだったのか、うごご。


「こ、こほん。ま、まあ。人間にしてはでかい…、なに言ってんだ余は。……いや、それより、お前、本当に人間か?正直そのズボンのどこにそれをしまっているんだ?」

魔王の質問に勇者は大きくため息をしながら視線をそらすだけだった。

「……この質問は聞かなかったことにしてくれ。……それより。本当に喋らないんだな。」

……魔王はこの騒ぎの中でも一度も口を開かなかった勇者を少し見つめる。賢者のせいで少し乱してしまったが、この男は自分に何も話さないし、示さない。ただ目の前にある障害を砕くために剣を振るっただけ。本能的に気づいた。勇者。いいや、この男に自分が勝つことはできないと。


「余の誘惑を克服し、余を打つか…。ふふ、この馬鹿の乱入がなかったら、なかなかの名シーンになれたものを…こんな急にシリアスに戻してももう取り返しの付かないことになってしまうなんて。これが世界が余の一族に下す罰ということか。」

勇者は熾烈な戦いで敗れた賢者を後にして、魔王に近づいた。魔王は静かに近づいてくる死を見上げた。勇者の顔は揺れのない穏やかな海のようにも見えた。


「いいだろう。一撃に余の首を打て。余の名の下で行った全ての悪行に、断罪を!いまここで余に下せ!」

二回、いなずまのように振り下ろされ、何かが床に落ちた。勇者は何事もないように大きく深呼吸して、剣を元の場所に戻した。


「うっ…」

「……」

魔王は片目を開いた。そして、落ちたものが何なのかを確認して、驚いた顔で勇者を見上げる。斬られたのは彼女のこめかみ辺りから育っていた両方の角だった。魔王は呆然としたまま「何で…」と問うが、勇者は何も言わず、そのまま姿勢を低くして、


魔王を持ち上げ肩に負った。


「え?あ、はあ!?ちょっと!?」

魔王を軽々とゲットした勇者はいつの間にか起き上がった賢者に振り向いた。

「やっぱりそうするんですねー。勇者さまったらまったく苦労人です。」

賢者の復活にまた悲鳴を上げてしまうところだった魔王の口を、賢者の手が塞ぐ。

「脱出しましょう?勇者様。場所は…そうですね。魔界の田舎の隅っことかがいいでしょう。」

虚空に描かれた、転移の魔方陣が光り出した。まもなく、魔力が充満され、三人を包む。それから、勇者と賢者は強烈光とともに姿を消した。


魔王城陥落の日。大陸連合と魔王軍は両方の最終兵器を失った。

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初投稿です。

誤字、語表記がたくさんあるかもです。教えてくださったら早々に修正しますので、よろしくお願いします。

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