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悪魔の揺り籠  作者: 睡眠華
3/5

そして、現在。

五才になったリリアンナは、ちっさい幼児の体を駆使して逞しく成長しております。


「レインー。もう帰るよぉ」


木漏れ日射し込む森の中、幼い子供特有の、細く甲高い声が周囲の空気を震わせて響く。


少し離れた場所で、野生の兎を狩っていた二尾狐のレインが、その可愛らしい養い子の声を聞き逃す事無く拾いあげ、ピクピクと耳を動かしながら「クー」と、高くひと鳴きして応えた。


レインは、仕留めた獲物を素早く口に咥えると、足取り軽くリリアンナのもとへ近づいて「キュウゥ」と、ノドを鳴らす。


丸々と太った茶毛の野兎を三匹。


まるで(沢山捕まえて、偉いでしょ?)と、言わんばかりの誇らしげなレインの瞳に、リリアンナもうんうんと大いに頷いてみせた。


「おー! レイン、スゴイや。今日は、いっぱい獲れたね。久しぶりにお肉の入ったスープに出来るよ」


リリアンナは、にんまりと涎が溢れそうになる口元を緩ませ、レインへ労いの声を掛ける。


「こっちもね、豊作だったよ。冬が近づいてるから木の実も栄養を貯め込んで大きめだし、森の恵みがありがたいねぇ」


木の根元をよく探せば、茸はあるし、木の実も生えている場所を覚えていれば、胡桃に山栗や、トチの実、ドングリもよく集まる。

運が良ければ、他の動物たちに食い散らかされる前に、秋生りの木イチゴや、野生のリンゴも、熟したものを食べられた。

良く肥えた土の中を探せば、山芋もあるし、野草も山菜も群生している場所で見つけられる。

川には、魚も沢ガ二もいるし、狩りをすれば肉もある程度確保できる。

まさに、秋の森は食材の宝庫である。


ああ、素晴らしきかな採集&狩猟生活。


体格的に狩りはまだやれないけれど、小型の動物を狙う罠作りと、魚釣りは少しずつ習っている。

自分の手で出来る事がひとつふたつと増えていくのが、今は楽しくてならない。

今度は、何を集めようかな。


RPGゲームならば、ストーリーを進めながらもひたすら薬草や武器防具やらを、アイテムボックスの収納値いっぱいにまで貯め込む傾向の私。

勇者様なのに、村人宅やお城へ無断侵入及び家探し等のちまちましたアイテム集めも、定型文で返す村人へのしつこい情報収集も、まだそこやってんの?と言うくらいにレベル上げと貯め込むの大好きでした。

そして、中ボス程度ならば、集めたアイテムで潰す。

自分ほぼ防御率UPの魔法とか、素早さUPの魔法とかして様子見てから、武器防具で相手からの魔法無効もしくは、反射とかをガンガン狙って、攻撃力大のアイテム投入しまくりで体力削り、それで足りなければ最後に大技の魔法か、物理で仕留める。

そんな戦いをする私を、過剰暴力だといふ…レベル上げするなら、さっさと次のステージへ行って強いモンスターと戦えよ…と、遠い昔の前世のお話しですがね。


くふふ。と満足気に笑みを零しながら、リリアンナは、幼児が両腕に抱える程の巨大茸を収穫し、大きく広がったカサをぶつけて砕かないよう背負い籠に乗せた。

すり傷に塗る薬代わりの野草や、虫除けの匂い草花を、近くに生えていた防腐の成分を含む大きな葉で小分けに包み、籠の隙間に詰めていく。


レインが仕留めた野兎三匹は、後ろ足を纏めて麻の紐でくくりつけて、腰からぶら下げる。

手早く血抜きをしたいところだけれど、安全地帯ではない森の中で血臭を漂わせる度胸はないので、さっさと家に帰って肉の解体処理をしなければならない。


食べ物の下処理は、鮮度が命である。

発酵、熟成なる加工の工程は、熟練した職人の御業による奇跡とも呼ぶべき匠の仕事。

美味しいご飯が食べたいならば、素直に材料を持参し養い親へ献上して出来上がりを待つべし。


と、言うことで、午前中のひと仕事を済ませたリリアンナは、目深に被った頭巾の下から空を見上げて太陽の位置を確認した。

薄い青灰色の瞳を眇めて、自身が向かうべき正確な方角と、周囲の索敵を簡易に済ませる。


「よっし。家はあっちだね。レイン、帰ろう」


巨大茸の入った籠を背負ったリリアンナは、夕ご飯の食材を届けて下拵えの準備を手伝うという大事な午後の仕事をこなす為に、駆け足で森の道を下りだす。

レインも、リリアンナの隣へ付き添うように、ふさふさの二尾をなびかせて優雅に駆け出した。


肉食の獣が、血の匂いに曳かれてこないうちに安全な場所まで移動しなければならない。

いくらサバイバルな生活をしている森の野生児とはいえ、五才の子供には対応できる限界があるのだ。

危険回避上等。

危機管理能力は、常にアンテナを張って細かく情報を収集し、危険察知をしてこそ日々磨かれるのだ。

ビビりと言われて構わない。

今日も今日とて美味しいご飯を食べる為、すたこらさっさと元気にお家へ帰ります。


「今夜は、茸ごはんと、茸と兎肉スープ~~~やっふーーー!」


リリアンナは、ルンルンと鼻歌まじりに呟きながら、身軽に森の木々を避けて、危ない獣道を通り走り抜けていった。



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