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悪魔の揺り籠  作者: 睡眠華
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腐界の森の片隅に生まれ落ちて早五年。


あの運命の日。

生まれた瞬間から、生と死の極限サバイバルな世界に身一つで放り出された赤子だった自分は、運良く心優しい森の住人に拾われて、儚く散りかけた命を救われた。


あれは、マジでヤバかった。


生まれたての柔らかくムチムチプリプリのお肌。

茫然自失して身動き出来ない赤子の身体は、森の獣に喰われる格好の獲物だっただろう。

そして何故だかスッポンポン。


親~~どこに行った!


あの時は、怒るより泣くよりも、ひたすら焦った。

妙な事に、此処とは異なる世界で、大人の女性として生きた記憶があったので、新生児としか言い様のない自身の身の危険を瞬時に理解したものだった。


裸ん坊はいかんでしょう。

赤ちゃんの体温下がるってば、風邪ひくってば、っていうか何で野外に放置なんだってばよ!


薄紫色の空に向かってちっさい拳を振り上げ、声無き声で叫んでいたら、頬っぺたにペタリと当たる湿った感触とフンフンと匂いを嗅ぐような微かな息遣い。

一瞬にして硬直したよ。

カチンと固まった身体で、茫然とする間もなく素早く思考する。

空を見上げていた顔はそのままに、ゆっくり眼球を動かし横目にチラリと見る。

すると其処には、デッカイ獣の鼻面があり、ピスピスと真っ黒な鼻を動かして、身体の匂いを嗅がれていた。


オウフッ。

まさかの絶体絶命?


獣は、息を詰めて凝視する赤子の緊張等気にも止めず、フンカフンカ鼻を鳴らして匂いを確認し、濃い琥珀色の目をキュッと細めて見つめてくる。


なんか、近くで見つめ合ってるクリクリお目々が、私好奇心いっぱいなんですぅって言ってるような…メッサ楽しそう?

ていうか、このまま呆けてたらパックリと、た、食べられちゃうのかしら。


内心ビクビクと怯えながら、こちらもしっかり獣の姿を観察し返す。

赤子の二倍程の身体をした、うっすら遠い記憶にある狐という動物に似た獣。

真っ黒なお鼻と琥珀色の瞳がとってもキュートな美人さん。

モフモフ好きにはたまらないピンと三角に尖った獣耳に、黄色味の強いふわふわした毛と、フサフサした尻尾が二つ。


…え、二つ?

ファンタジーな魔獣?

和風呼びなら妖狐?

っていうか、異世界転生してるんですか自分?


なんですとー!と、心の中で叫び、二尾の狐という生まれて初めて出会った生き物に混乱してみた。

驚愕に震え出した気配を察したのか、狐さんは、不思議そうに小首を傾げて匂い確認を一旦終了してくれた。

ついでとばかりに赤子の顔を長い舌でベロリと一舐めして漸く満足したのか、チョコンと地面に座る姿がちょっと可愛いです。


モフモフっていいよね。

混乱のあまり煩悩にまみれた欲望が溢れて、ちょっと落ち着いてきた。


獲物として食べるつもりはないのか、互いに見つめ合ったまま、なんとなく穏やかな雰囲気に和む赤子と狐。


「あーう」(こんにちは)


初対面の挨拶は基本中の基本。

相手はどうでるか何て分からない現状、コミュニケーションをとりたいと思ったら、先ずは自分から挨拶する事が大事なので、率先してやります。

たとえ赤ちゃん発音で言葉になってなくとも、狐さんに届けこの熱い想い!


「クゥキューン」


狐さんは、甘えた鳴き声で答えてくれた。


甘えたですと!!?

モフモフ狐さん可愛いです。


幸せな気分になって調子こいてキャッキャ笑い声を上げたら、狐さんにペロペロ顔じゅう舐めまくられて、地面の上をコロンと身体が転がった。

うつ伏せになってしまい寝返りうてないとオブオブしてたら、狐さんが、もう一度コロンとひっくり返してくれた。


なんて賢くて優しい狐さんなんでしょう。


尊敬の眼差しで狐さんを見つめれば、転がった時に擦れた鼻の頭をベロンと舐められた。


とても面倒見の良い狐さんだ。

ラブラブな空気に満たされ、何となく異種族交流ができた模様。

いそいそと身体を擦り寄せてきた狐さんが、柔らかい毛皮に抱き込んでくれたので、暖かいぬくもりにほんわかと和む。


あったか~い。

裸一貫で森に放り出されていたから、狐さんの気遣いと暖かさが身に染みます。

ああ、モフモフ万歳です。


どれくらいまったりしていただろうか。

不意に、狐さんの三角お耳が、ピクピクと動いて周囲を警戒する。


「あう?」(なぁに?)


至福のモフモフお布団が身動ぎした振動に驚いて声をかければ、狐さんが小さく鳴いた。


「クゥーン」


狐さんは、真剣な眼差しで森の奥を見つめている。

赤子の視力では分からないけれど、鬱蒼と繁る低木の向こうから、ガサガサと何かが近づいてくる音がする。

威圧感というべきか、大きな存在を肌が感じた。

(裸なだけに敏感です)

こちらへ向かってくる何かしら生き物の気配に、再び身体に緊張が走る。

ガサリと木々の枝をかき分け、前方に巨大な熊が現れた。

身の丈は、狐の何倍もある大きさで、片手にゴツイ斧のような武器まで装備していた。


オウフッ!

ファンタジー。

モンスターだよ。モンスター!

裸族な赤子に、武器携帯の熊とエンカウントってどんな無理ゲーですか!?


思わず、魂が口から抜けだして、ついでに混乱ハイになった勢いで森のクマさんを歌いたくなってしまう。

今度こそ絶体絶命だと気絶しかけた耳に、低いナイスエロボイスが届いた。


「そのちっこいのはどうした?レイン」


これが、赤子だった私と養い親達との出逢いだった。


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