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幻想世界の放浪者 外伝  作者: 紫貴
エリザの小冒険
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エリザの小冒険 その5


 声からして、彼らだとは分かっていましたが、まさかあの二人が知り合いだったなんて予想外です。

 何か会話しているようで、好奇心が出てきた私は行儀が悪いと分かっていながら<聞き耳>スキルでなんとか会話の内容を聞き取ります。

「――――が――して―た。京都での修学旅行でもそうだ。お前はもう少し協調性と、その物忘れの酷さを治せ」

「治らないからこのまま生きてんだよ。優等生が、人の顔見るなりいきなり説教かましやがって」

 何だか微妙に険悪?

 でも、話からすると現実世界では同じ学校だったようですね。しかし、私と話した時は副団長さんは真面目な委員長って感じだったんですが、彼と話している時は声に棘があります。

 なんていうか、不良生徒に注意する生徒会(或いは風紀委員)の人?

「お前がいい加減だからだ。それが嫌なら、もう少し…………いや、いい」

「意味ありげに途中で止めるなよ。…………チクるつもりか?」

「待っている間にお前忘れてどこか行くだろう」

「否定はできない。ところであのガキ、死神とか言われてるらしいんだけど」

「――――ッ!?」

 あ、危ない! 思わず声が出そうになりました。

「いきなりだな」

 どうやらこちらには気づいていないようです。

「二度、彼女を除いてパーティーが全滅したそうだ。そしてその後所属していたギルドでもMPKに巻き込まれてメンバーの一人が死んだらしい」

「ふうん。それで死神か。その評価についてどう思う? 俺さっき褐色女からネチネチ聞かされたんだけどよ、全然覚えてなくて」

「どうしてそれを俺に聞くのか……。まあ、いい」

 彼の訳の分からない言動は慣れているらしく、副団長さんは浅く溜息を吐きました。

「俺はその話について詳しく知らないが……その上で言うなら彼女が単に強かっただけだろう」

「死神ってあだ名って強そうだよな」

「多分、お前が言っている意味じゃない。呪われているとか、そういう意味だ。そんなもの、ただの迷信だがな」

「じゃあ、何だ?」

「熟練度ではなくプレイヤースキルが高かったんだろう。死人を悪く言うつもりはないが、無理な狩りを行ったんじゃないのか? ギルドの件に関してはPKが原因であって彼女には何の責任もない」

 私のいたギルドの団長さんのように、そう評価してくれる人は案外多いのか。ホッとしたような、微妙に複雑なような。

 副団長さんはああ言ってくれていますが、強いなら強いでやっぱり周りをみすみす死なせては駄目だと思います。そういう意味で、結局は死神という呼称は当たり前のものと言えます。それに、本当に強いならあの時だって庇ってもらう事もなく――

「PKに関してはオリンポス騎士団でも何かしらの対応を考え――」

「ぶふっ――真面目な顔して、オリンポス騎士団だってよ! すっげー受ける」

「お、お前は…………」

 うわ~、あの人指さして笑い始めましたよ。これはムカつく。

「どうして俺に対してはそんなあからさまに馬鹿にする?」

「優等生からかうと面白いから」

 うーわー。笑ってたかと思うと波が引くように真顔に戻りましたよ。

「怒った? 悪い悪い。代わりにあいつのスリーサイズ教えてやる。ビビるぞ」

「要らん!」

 あいつって、私じゃないでしょうね? いや、ビビるって言っているから私じゃないはず。だって私小さいですから、アハハハー。へ、平均よりも若干小さいだけですよ、若干! それにまだ成長期だから望みはあるもん!

「――――チッ」

「どうし…………」

 あれ? 彼が突然動きを止めたかと思ったら、副団長さんも言葉を止めて周囲を振り返りました。

 一体どうしたのかと首を傾げると、目の前に石が飛んできました。

「いったァーーーーっ!?」

 おでこが痛い! それにほんのちょっぴり体力も減った!

「夜襲だ! 準備しろ!」

 テントの中で額を押さえて苦しんでいる私に向かって鬼畜ヤローが外から怒鳴ってきました。

 って、夜襲!?

 私は慌てて武器の棍を持ち、テントから飛び出します。キャンプの基本である焚き火にはモンスターを寄せ付けない効果があります。だけど、一部のモンスターには<夜襲>というスキルがあって、焚き火があっても寄って来る事があります。

 外に出ると、石を投げた彼が焚き火に新たに薪をくべて火力を増やし、明かりの範囲を大きくしていました。天井の不思議な光があるからと云ってやはり洞窟内は暗いですから。

 副団長さんはもう既にギルドのキャンプに向かって走りながらウィンドウを操作していました。おそらく、チャットウィンドウでしょう。

 私はプレイヤー達のテント群を見渡せる場所に立って周囲を見回します。けれど、見える範囲にはモンスターの姿が見当たりませんでした。

 副団長が大きな声を上げて警戒を促す中、眠っていた大多数のプレイヤー達が眠そうな顔でテントから顔を出していますが、誰もモンスターの位置は掴めていないようです。

 むしろ逆に、夜襲の報は勘違いなのではという空気が流れ始めます。けれども、<オリンポス騎士団>のメンバーを初めとした高熟練度のプレイヤー達は戦闘準備を整え周囲を警戒します。

 私の<気配察知>もさっきから警報を鳴らしているのでモンスターが近づいているのは間違いないです。でも一体どこから?

 この広間のような場所に繋がる縦穴は複数あります。そのどれかからモンスターが現れるのか。もしかしたら、全部の縦穴から一斉に来るのかもしれません。

 そう思い、各縦穴に順次視線を向けていきます。その途中で、セティスとか呼ばれていた褐色の少女が目に留まりました。

 少女は騒ぎに起こされたのか眠そうに瞼を擦っていますが、相変わらずの男プレイヤーに囲まれて守られています。

 平常運転だなーと思っていると、取り巻きの一人が、私がテントに戻ってきた時に一度振り向いた男の人が突然上を見上げました。

 …………あれ?

 直後、頭上から耳が痛くなる程の高い音が聞こえました。

「きゃあ!?」

 反射的に耳を押さえ天井を見上げると、どこから入ってきたのか人間大の大きなコウモリが無数に飛び交っていました。

「ジャイアントバットだ!」

「気をつけろ! 捕まると高所から落とされるぞ!」

 いきなり頭上からの襲撃に場が軽い混乱に襲われます。

「あの人…………」

 頭上からの襲来には気づいていたプレイヤーはいたらしく、冷静なプレイヤー達が迎撃を開始します。そんな中で、先ほどの逆ハーレムパーティーで気づいたのはあの強面の男の人ともう一人、あのセティスという少女も気づいていたようでした。

 顔を上げた男の人に対して、顎を僅かに上げた程度の動作でしたので、もしかしたらという程度です。

 現に今もコウモリとは戦おうとせず、他のプレイヤーに守られているあの様子からしてとてもそんな実力があるように思えません。

「わっ!?」

 いきなり体を後ろに引っ張られます。後ろに倒れる中、頭上を何か大きな影が横切り、直後に強い突風が吹くような音が聞こえました。

 後ろに尻餅をつき、すぐに見上げると翼を切られ体に三本の投げナイフを突き刺したジャイアントバットが青い光になって消えていく所でした。

「よそ見すんな」

「は、はい、すみません!」

 鬼畜の人が奇妙な形をした短剣を持ってすぐ横に立っていました。

 どうやら、後ろから襲いかかってきたモンスターから助けてくれたようです。さっきまで鬼畜だとか言ってすみませんでした。

「キィキィキィキィうるさい連中だ」

 鳴き声なんでしょう。モンスターから発せられる超音波染みた声はスキルではなくただの鳴き声らしく、何の効果もありません。凄くうるさいですけど。

「お前、魔法は?」

 そう言って彼は私に手を差し伸ばしてきます。

「地属性の魔法なら…………」

 出された手を掴み、起き上がりながら答えると彼は――使えねぇ、とか言ってきました。前言撤回。とても失礼な人です。

「じゃあ、俺が攻撃するからお前近づいてきた奴を頼むわ」

「え?」

 彼はそれだけ言うと腰の後ろの鞘に短剣を仕舞い、袈裟に巻いた収納ベルトの内、胸側のスロットに触れます。すると弓が左手に光と共に出現。次に右手で肩越しから背中のスロットに触れるとそこに矢筒が現れました。

 そのまま、素早く矢を弓に番えると矢を連射し始めました。見れば、同様に射手や魔術師のプレイヤー達が宙を飛び交うコウモリに撃ち落としていきます。それ以外のプレイヤーは彼らの護衛に回っています。

 私も、棍を持って彼の前に立ちます。

 彼の弓の熟練度は本職の人と違ってそこまで高くないらしく、飛距離も威力も低かったです。けれど、

「あー、やかましい」

 やる気の無い声を漏らしつつ、矢を取り出す手の動きを止めて代わりにアイテムボックスから瓶を取り出します。

「あの…………」

 それが何なのか、嫌な予感しつつも聞こうとしたところで彼は右腕を大きく振り回して瓶を、空を飛び交うコウモリ達の中心へと投げました。そして即座に背中の矢筒へと手を伸ばして矢を弓に番え、放ちます。

 矢は宙に投げられた瓶へと命中し砕き、中に入っていた液体が外気に触れた瞬間に煙となってコウモリ達を包み込みました。

 すると、あれほど元気に飛び回っていたジャイアントバット達が体を痙攣させて落下していきます。

「痺れ毒。でも、あんな所で撒いたら……」

 案の定、液体が気化するまでの間の落下で毒煙は地上近くまで落ちています。あれでは他のプレイヤー達も巻き込んでしまいます。

「誰だ痺れ毒なんて撒いたのは!? アホじゃねーのか!」

「もっと考えて行動しろよ!」

「あばばばばばばッ!」

 ああ、やっぱり被害が。

「どうするんですかぁ。もの凄く怒って……」

 振り返れば、彼の姿は消えていました。

「え? ええっ――あっ!?」

 探すと、彼は背を見せて他のプレイヤーから見えない位置に逃走を謀っていました。

「ち、ちょっと待って下さいよーっ!」

 これじゃあ、まるで私がやったみたいに思われるじゃないですかあ!


「ま、また散々な目に……」

 あれから、モンスターにタゲられたりプレイヤーからの痺れ毒事件の犯人探しの目から逃れている内に夜襲も終わり、疲れ果てた皆さんが見張りを交代で立ててすぐに休み始めました。

 おかげで私が疑われる事も無かったですが、罪悪感からあまり寝付けませんでした。私がやった訳でもないのに何でこんな目に合わないといけないのか。

 まあ、最低限の睡眠は確保したんですけどね。

 そして、例の犯人さんはと云うと。

「もういないし」

 目覚めて外に出てみると、隣にあった筈のテントが無くなっていました。一体いつの間に。本当にマイペースと云うか自分勝手というか。

 いいんですけどね、別に。私と一緒にいたら危ないですし。

 私は出発する準備としてアイテムボックスとステータスを確認し、テントを収納します。洞窟内は相変わらず星空のような明かりだけがあり、昼か夜かも分かりません。

 けれどもう出発したギルドやパーティーがあるらしく、テントの数が減って人も疎らです。

「あっ、しまった。これどうしよう……」

 仕舞った後で気づきましたが、テントは元々彼の物です。今の所有権は私になっていますが、さすがに返しておきたいです。こういう、立ち去った誰かが残した物って呪われてる感じがしません?

 一応、再び洞窟内を見回し探してみますがやはりいません。追いかけようにも、この広い空間から行ける道はたくさんあります。例えどこに行ったのか分かっても洞窟内は無数に道が枝分かれしています。中には縦穴があったりなど、まるで蟻の巣です。再会しようとして、見つかる可能性は低いです。

「どうしよー」

 途方にくれ、自然と顔を上に向けます。

「………………」

 いましたよ。何か壁登ってます。どういう事なんでしょう。

「あ、あのーっ!」

 色々突っ込みどころはありますが、とにかく声をかけてみる事に。両手を口の傍に、メガホン代わりにして呼びかけます。

 ちゃんと聞こえたらしく、彼は壁に張り付いたまま首だけ動かしてこちらに振り返りました。が、すぐに上に向き直ると、ズンズンと上に登っていきます。うわぁ、はやーい。

 と思ったら、丁度いい足場があったのか停止し、出っ張りに足をかけて壁に背を預けて休み始めます。ああ、さすがにスタミナが切れたんですね。

 彼はある程度休憩すると、ポーチから試験管みたいな瓶を取り出しました。また痺れ毒かと一瞬身構えてしまいましたが、どうやら魔法媒体のようです。

 詠唱が終わると、彼の前方、だいたいこの空間の中心手前に風の渦が出現しました。あの魔法は確かジャンプ台となる足場を作る風属性の魔法です。

 一体あれで何をするつもりでしょうか。あの高さはもうプラネタリウムのようなここの天井近くです。風の渦との距離もさながら、ジャンプしたとしても天井に頭をぶつけてしまいます。

 けれども彼は、そんな私の心配を余所に助走無しで壁から大ジャンプ。跳ぶ瞬間に収納ベルトから棍を出して壁を突いたらしく、ジャンプの勢いを増したようです。

「わわっ!」

 落下してきた棍を急いで避けて、また上に視線を向けると丁度彼がジャンプ台を踏んだところでした。

 風の渦がより強い風を発揮し、彼の体を高く飛ばします。

 ぶつかる、と思った瞬間、彼の体が天井の中へと消えました。

「…………え?」

 何が起きたのか分かりません。落ちてこないと云う事は何かが、少なくとも足場や掴まる物があったという事でしょうが、彼の姿が見当たりません。

 急いで中央近くまで移動して見上げますが、以前として星のような輝きが天井にあるだけです。

 ま、まさか、お星様になっちゃった!?

 …………な訳ないですね。うん。

 冷静に考えて隠し通路? あんな天井に? いや、無きにしもあらず? だって私自身が縦穴から落ちて下が湖になっていた場所に落ちた経験があるのだから。いや、なんですその謎構造。このダンジョンの作った人は意味分からなくなります。

「はぇ?」

 呆然としていると、天井からするするとロープが垂れ落ちて来ました。うーわー。

 長さが足りなかったのか、途中途中でロープ同士を繋げたらしき結び目が見えるロープの先端が私の前で停止します。これはあれですか? 登ってこいって事ですか?

 う~ん、どうしよう。テント返すには丁度良い機会だと思いますが。

 このロープを見ると、蜘蛛の糸を思い浮かんじゃったんですよねぇ。正直登りたくない。

「なぁに、それ」

 悩んでいると背後から声が突然聞こえました。気配も何も感じなかった為驚いて振り返ると、そこには――

「くすくす、面白い事やってるのね、お姉さん」

 褐色の少女が笑っていました。


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